5:友達だもの
さっそく修行が始まった。まずは、葉桜がどんなもんなのか気になるとの事でじーちゃんは担いでいた斧を手渡して木を倒せと葉桜に言った。昔に手伝った時は基本じーちゃんが割った薪をまとめる事が、葉桜の主な役割だったので斧を手に木と対面するのは初体験だった。
先端の刃が重く、握っている木の手触りを感じながら思いっきり中心を目掛けて斧を振るう。反動を体で受け止めながら何度か試していた。一方のセラは興味津々に葉桜とじーちゃんのやり取りを大きな石に座って両足をぶらぶらと揺らしながら眺めている。
暫く自由に葉桜が斧を振って結論が出た。
「全くダメダメのだめだなぁ! 葉桜は基礎から頑張らねぇとな!」
上手く切り倒す事が出来ない葉桜に下されたのは湖の周りを走る事だった。単純に葉桜の体力を見る為のはずだが、何故かじーちゃんも並走してくれている。
「おい葉桜。勢いが良かったのは最初だけかぁ? じーちゃんよりも体力ねーな!」
汗を流し息を切らしながら速度の落ちている葉桜の隣で涼しい顔をしながら笑っているじーちゃんがそこには居た。
「じーちゃんが元気すぎる……本当に九十前なの?」
息を切らしながらじーちゃんを見ると置いてかれた。
「じーちゃん待って!!!!」
「頑張れ葉桜!」
そう言い残して先に駆けていく……隣にいたじーちゃんが豆粒になる頃に背後から大きな透き通る声が聞こえた。
「頑張れ葉桜!!」
セラも応援してくれていた。そんな声援が貰えるとは思えなかったのでもう少しだけ頑張ろうと葉桜は思った。そして、走った。
全力を出してもう立ち上がれない。息が切れて死にそうだと思いながら葉桜は空を見上げていた。汗でびっしょりな服は不快感が強いはずだが、今の葉桜にとって気持ち良くて清々しく思えるほど力を出し切っていた。
その様子を見てじーちゃんは基礎からゆっくり鍛えないとなぁ! といい、斧を手に近くの木を倒しに行った。どれだけ元気な老人なんだろう……自分のひいじーちゃんが信じられないくらい凄い人だと思いながら呼吸を整える。しばらく横になっていると動けるくらいは回復した。すると、体中の汗が気持ち悪く感じて葉桜は一人で乾いた笑いをこぼす。
そして、だるい腕を動かして上着を脱いだ。
「まぁ……レディの前で服を脱ぐのはどうなのかしら?」
完全に葉桜はセラの存在を忘れていた。今すぐ湖に飛び込んで汗を流したい欲望が前に出すぎていた。セラを見ると手元で顔を少し隠してこちらを見ている。その際に葉桜は糖分の切れた脳みそをフル回転させて苦し紛れに答えた。
「確かに失礼に当たるかもしれない。いや、当たるだろう。もし僕が人前で脱ぎ始めたら騒ぎが起きる。だが、考えて欲しい僕は今すぐにでも湖に飛び込みたいと思える程の疲労を感じているんだ……だから、友達の前なのでセーフでは無いだろうか?」
この時の葉桜は自分が何を言っているか理解が追い付いていなく、どうにか不問になってくれと願っていた。
「そうね。葉桜が知らないその他大勢の前で脱ぎ始めたら変な人だけど、友達の前なら大丈夫よね。だって、友達だもの」
この時、葉桜は心の中でガッツポーズをしていた。よし、苦し紛れで口走ってしまったが上手くごまかせたらしい。成功だ!
何とか逃れることが出来たと安心感に包まれた矢先に布が擦り合う音を微かに捉えた。音の発生源……セラを見ると服を脱ぐ瞬間だったので声を荒げる。
「ちょっっっと待って。セラ!?」
「うん? 私も水浴びをしようかと思って。この服を脱ぐのも一苦労ね」
「待ちなさいセラ。男の前で唐突に服を脱ぐのはダメだと思う」
「葉桜と私はお友達」
セラは自分を指さして次に葉桜に向かって指をさした。
「うん。僕とセラは友達だよ?」
「なら、セーフよね。葉桜もさっき『友達の前なら大丈夫』って言ってたし」
「これはアウト! ダメ!」
きょとんと脱ごうとした手を止めてセラは何か考えている風に葉桜からは見えた。
「あぁ、分かったわ。近くに紗月がいるものね。そうだわ。私と紗月は友達じゃないもの。葉桜と紗月は家族だものね。私が油断していたわありがとう葉桜」
「あ、うん。えっと、うん」
脱ぎかけた服を綺麗に直してセラは遠くに居るじーちゃんを見ていた。なんかよく分からないけど窮地から生還した気持ちの葉桜は変に力が入っていた肩の力を抜いてだらりと項垂れ大地に寝っ転がった。




