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3:知らない少女


 夜明け前の肌寒い部屋で目が冴えた葉桜(はお)がゆっくりと身体を起こした。ダルそうに大きな欠伸をこぼして眼を擦る。


 そして、先ほど見た夢を思い出そうとしていた。現在、十五歳の葉桜は今までの人生を振り返ると夢を見た事が殆ど無い。唯一見た覚えがあるのはじーちゃんとばーちゃんが仲良く過ごしている風景だった。笑顔の二人が別れの挨拶をしてばーちゃんは亡くなった……残されたじーちゃんは相変わらず元気に生きている。


 どうしても細かい所は思い出せない。葉桜が唯一はっきりと覚えているのは竜の鎧から葉桜を守るために全力を尽くす、じーちゃんだった。最後はじーちゃんに大きな穴が空いて終わる……胸糞悪い目覚めに気分が悪い。


 葉桜は水をコップに注ぎ一気に飲み干した。


 じーちゃんが発した言葉は断片的に覚えている。その言葉の中で十八歳の誕生日と言っていた。現在の葉桜は十五歳……あの夢が本当に起きるとしたらリミットは三年しか無かった。その事を考えて葉桜は小さく溜め息を吐く。


 普通に考えたらただの夢だ。他の人が日常的に見る他愛ない夢の一つ……友達にこんな夢を見たんだって言えば少しのリアクションが貰える程度の出来事のはず。


 しかし、葉桜にとっては違った、祖父母の夢を見たら現実で起こった。この話をじーちゃんにした後に二人で出掛けた。じーちゃんは交友関係がかなり広くて、知り合いのエルフに見てもらった事がある。その時に発覚した事が一つあった。


 葉桜は巫女の力を微かに引き継いでいる。亡くなったばーちゃんは若い頃に【剣の巫女(つるぎのみこ)】と言われていた事をエルフとじーちゃんに教えて貰った。


 元々は巫女だったばーちゃんには剣の才能があったらしく、昔の国――ローテク王国では姫の身でありながら前線に立ちじーちゃんと一緒に旅をしていた。そんなばーちゃんから引き継いだ巫女の力が葉桜には宿っている。とはいえ、力の一端しか使えないらしい……それが夢として未来が見える。


 そんな過去があるので、きっと三年後に起きるんだろう……ポリュス王国が火の海にのまれてじーちゃんも殺される。


「他に一人……居たような気もするけど……」


 はっきりと覚えていないのは困る。でも、対策が打てるだけでも幸運だと葉桜は考えていた。なんせ葉桜は最強を知っている! 普段は適当な事ばっかり言って騒いでるじーちゃんは強い。あの夢の通りなら葉桜がその場に居なければ死ぬことも無かったかもしれない程だ。


 ならどうだろう? 残された時間である三年間をじーちゃんの元で頑張れば葉桜自身も戦力となり、未来を変える事が出来るかもしれない。


 思い立った葉桜は支度を初めて夜が明ける頃に家を飛び出した。すぐ隣に住んでいるじーちゃんの家を訪ねることにしたのだ。ばーちゃんが亡くなって一人で住んでいるじーちゃんは本当に自由人で何処で何をしているのか分からない。実際に扉を叩いても反応は無い。それに鍵を掛ける事もなく扉は簡単に開いた。質素な暮らしのじーちゃんは自宅に居ない。


 葉桜はまた帰らずに飲み歩いていると判断した。高齢のじーちゃんは本当に困るほど食欲も旺盛で夜通し酒を飲めるくらい元気に溢れている。そんな二十代に近い生活をしていて健康なのが信じられない。そして、家に居ないって事はじーちゃんと仲の良いドワーフが経営するお店に行こうかと葉桜は踵を返し家を出ようとした。


 そんな葉桜がある事に気づく。玄関に置いてある斧が無かった。


「確か昨日……薪が足りないとか言ってたなぁ」


 夢の衝撃が強くて頭から零れ落ちていた。葉桜はじーちゃんと数回だけ木こりの仕事をしたことがあるので居場所は何となく分かった。


 数十分を掛けて城の外へと向かう、城門の見張りに軽く頭を下げてポリュス王国から簡単に出る事が出来た。見張りと言ってもポリュス王国周辺は平和で事件も殆ど起きない。約70年前は悪い魔物や魔族が溢れていたらしいが葉桜は未だに信じられない。


 ポリュス王国の図書館にも英雄譚が次々と入荷されており、小さな頃は簡単な絵本を親に読み聞かせしてもらった。様々な種族の住んでいるこの世界で頂点を争い、人間が勝ち取ったらしい。それから長い平和が続いている。


 そんな事を考えながら安全な獣道を歩いていると、昔に来た場所へ辿り着く。周りの木々は綺麗に伐採されており木こりスポットのはずだけど……じーちゃんが見えない。


「ここまで来て勘違いだったら……悲しい」


 ここから帰るのに一時間以上は掛かる。葉桜は先にドワーフのお店に顔を出せば良かったと後悔しながら額の汗を袖で拭い周辺を探し始めた。日はゆっくりと高くなりすっかり朝となっていた。


 切り倒された木を見つけて森の奥へと葉桜は進む。初心者の葉桜は伐採された木が新しい物か古い物かも判断は出来ず、この先に居る事を願い足を進めていると水の流れる音が聞こえた。


 その音に釣られるよう草をかき分け進むと湖が姿を現した。葉桜はここまで奥に来たことが無かったので湖の存在は知らない。朝露が葉を伝い日光が湖へと降り注ぐ、その際に朝露や水面に反射して美しい風景が広がっていた。


 そして、もしかしたらじーちゃんは湖で水浴びでもしているんじゃないかと脳裏によぎった葉桜は湖へと近づく。あのじーちゃんなら服を投げ捨てて泳いでいても不思議は無かった。


「あら、おチビちゃん。迷子かな?」


 じーちゃんの声とは違い、とても若く透き通った声が葉桜の耳に入り驚いて転んでしまった。


「……大丈夫?」


 声の主が駆け寄ってくるのを葉桜は耳で感じていた。尻餅をついた姿勢から振り返ると、あんまり歳が変わらない見た目で髪の毛を赤く染めた少女が屈み葉桜を見ていた。

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