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2:じーちゃんの姿


 葉桜は血の気がサーっと引いて一気に体温が下がるのを感じている。


「フィム!」


 じーちゃんがそう叫ぶと上空から長い黒髪にグラマラスなボディで悪魔の羽が生えた美しい女性が、竜の鎧を目掛けて飛び蹴りを喰らわせ瓦礫の民家へと吹き飛ばした。じーちゃんを一瞥して女性は竜の鎧を追いかける。


 その姿を見送ったじーちゃんは葉桜の傍に駆け寄った。


「よぉ葉桜。怪我はねーか?」


 葉桜のじーちゃん――永遠紗月は、ひ孫に声をかけた。いつもの笑顔でニカっと歳の割に綺麗な歯を見せる。


「怪我は無いよ。それよりじーちゃんの腕……」


「ははっ。じーちゃんなら大丈夫さ。ちょっと、裾を引っ張ってくれ」


 葉桜は言われるままにじーちゃんの派手な袴の裾を握り引っ張る。そこをじーちゃんは手持ちの黄金に輝く剣で斬ると座り込んで失った左腕に巻き付けて力いっぱい縛り付けた。ど派手なじーちゃんの袴は鮮血に染まっている。


「流石にまずいかもなぁ! ははっ。まぁ、葉桜も十八歳の誕生日にこんな目に合うなんてなぁ!」


 ガハハと豪快に笑いながらじーちゃんは葉桜の背中をバシバシと叩く。


「十八歳って……そんなことよりも何が起きたの?」


「なぁに。どっかのバカが手にしちゃいけない物に手を出して国が傾いているだけだ」


 そう言ってじーちゃんは剣を手に立ち上がると血を失った影響かよろめいていた。


「流石にこの出血はやべぇーな。葉桜! じーちゃん死ぬかも」

「早く医者に行かないと!!!」


「ポリュス王国もこんな状況じゃ、手が空いてる医者なんて中々見つかりっこねーよ。それよりもあのバカ強いアイツをどうにかしないとなぁ……フィムの奴がサクッと勝てるならいいんだけどよぉ」

「フィム……さっきのひ……と? 人というか悪魔というか……」


 葉桜は美しい姿に恐怖を覚える羽を思い出す。


「あぁ、フィムなぁ。あいつは吸血鬼の真祖でめちゃくちゃ強い。それに、めちゃくちゃエロいよなぁ!」

「……」


 こんな状況にも関わらず……いや、こんな状況だからこそ。じーちゃんは葉桜の前でいつもの様に対応する。非現実的な現状に現実を感じさせて落ち着かせようとしている空気を葉桜は察した。そんな気を遣わせてるじーちゃんに葉桜は言葉を返す。


「……死んだばーちゃんに告げ口する」

「うぉい。璃桜には内緒にしてくれよなぁ。あいつは怒ると怖いんだわ」


 ははっと笑うじーちゃんの顔を葉桜は見た。よく見ると全身は汗でべっしょりとなり、呼吸も乱れている。大怪我に加えて年齢も九十になる老体だ。葉桜が生きてきた人生でこんなに疲労を感じるじーちゃんを見たことが無い。

 

「さてと。葉桜はこのまま離れてくれ。そうだなぁ……出来れば城の方に向かって困っている人でも助けてこい。ここはじーちゃんがどうにかするからよぉ」

「じーちゃんも大怪我で困っている。だから、ここを一緒に離れよう」


 葉桜は去ろうとするじーちゃんの足首を掴んでいた。もう二度と会えない恐怖に葉桜の手が自然と動いている事を葉桜が気づく事は無い。


「はーん。心配スンナ。さっきのエロいねーちゃんも意外と凄いんだぞ。でもじーちゃんも加勢に行ってやらんとなぁ!」


 そう言ってじーちゃんは屈むと葉桜の手を掴んで優しく解く。葉桜の手からじーちゃんの足が離れるのと丸い何かが転がってくるのは同時だった。


 コロコロと無造作に放り投げられた物を見てじーちゃんの顔から笑顔が消えた。


 深紅の瞳は焦点を失い何処を見ているか分からない。血の気が無い真っ青の肌と口の中から外へ放り出された舌が不気味だった。


「フィム……」


 それは先ほど、じーちゃんの声に反応した悪魔の羽を持つ女性でめちゃくちゃ強いと言われた真祖の吸血鬼。その亡骸だった。


 瓦礫を踏む音を奏で竜の鎧を着た人物が葉桜の前に姿を現す。先ほどの姿とは違い全身の鎧にヒビが入っていた。


「葉桜……俺様のかっこいい所をそこから動かずに見ていてくれな!」


 じーちゃんが葉桜の前で黄金に輝く剣を敵に向け、片腕で振るには大きな剣を軽々と上段に構える。そして、真っすぐと竜の鎧へ向かって駆けだした。息も切れて体調も万全では無いじーちゃんが竜の鎧目掛けて振り下ろすと、相手は右手で握る葉桜を切り捨てようとした黒い剣で軽々といなす。しかし、じーちゃんはすかさず膝を兜へぶつけた。体制を崩した相手に対して剣を振り相手は足の鎧が欠け赤い血を噴き出した。


 相手の中身は血が流れる生物だと初めて葉桜は知った。しかし、傷は浅く致命傷にはならない。


 自身の傷を見てじーちゃんから距離を取った相手は掌を向ける。すると、背後で金属製の槍が生成された。その大きさは葉桜の身長よりも長く先端が鋭利に尖っている。


 一本……二本と次々生成される槍はじーちゃんを向いていない。


「ちっ」


 じーちゃんが舌打ちをすると葉桜との間に割って入る。相手が狙っていたのは葉桜でありじーちゃんでは無い。戦力にならないかつ、じーちゃんの弱点である葉桜へ目掛けて巨大な槍を次々と打ち放った。


 葉桜に槍が当たらない様に……全身を動かして巨大な槍を打ち落とす姿を葉桜は瞬きせずに見ている。一撃に渾身の力を振り絞って黄金に輝く大剣が舞っていた。縦に振り落とし槍の起動を変え剣の勢いを活かす為に体を一回転させて次を弾き飛ばす。五本の槍を凌ぐと葉桜はキラキラとした物に気が付いた。少しの光に反射して輝く黄金……じーちゃんが振るっている黄金の剣が欠けていた。粉雪となりじーちゃんの周りを飾っていく。


 十五本目を打ち落とした時、ついに限界を迎えた……無酸素の全力疾走をほぼ続けていたじーちゃんよりも先に黄金の剣が真ん中から折れてしまった。


 剣を失い、懐から新たな剣を取り出そうとしたらじーちゃんの懐が無くなった。


 葉桜の目には風穴の空いたじーちゃんが最後に映り視界が真っ暗になった。

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