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17/22

17:ポーションも使いよう


 アメリアの体から矢が霧散すると壁にへたり込んだ。そこにムチリアが回復を施す……。


「ムチリアは有能ね。人間は簡単に死んでしまうけれど、ムチリアが居れば長生きできるのね」


 そう言ってセラはムチリアに微笑み掛けると右腕を振り上げた。その手には真っ赤なナイフが握られている。


 体の痛みが無くなったアメリアは自身に振り下ろされるナイフを見ていた。先端が尖っている……それが振り下ろされ左足に突き刺さった。


「痛い……やめて」


 アメリアがそう言ってセラを突き倒そうと左腕を伸ばした。


「急に動かない方がいいの……こうなっちゃうから」


 足に刺さっていたナイフが抜かれ、伸ばしたアメリアの左手に突き刺さっていた。


「あああああああああああ」


 部屋には金切り声が響き渡る。それを受けてセラは目をつむって両耳を抑えた。


「本当にびっくりしたのよ。まったくもう……急に大きな声を出して……アメリアには困ったわ」


 そう言ったセラはアメリアの服をナイフで切り裂いて丸めると彼女の口の中に放り込んだ。


「少しだけ、静かに……ね?」


 セラはナイフを引き抜くと次は右肩に上から突き刺した。ナイフの柄まで奥深く突き刺さると声にならない声をアメリアは漏らす。その様子を隣でムチリアは涙を流しながら見ていた。


「次は、そうね……」


 セラがナイフを抜くと血がたらりとしたたる。そのまま血で塗れたナイフをふくらはぎに刺した。ぐさぐさと何度も肉が斬れる。肩で息をしているアメリアの目が虚ろになり意識を保つのが難しくなっている様子を見てムチリアにセラは言った。


「さぁ、ムチリア。アメリアを治してあげて?」


 その言葉を聞いてムチリアの全身から力が抜けた。


「どうしたの? このままだとアメリアが死んでしまうわ」


 そうだ。このまま何もしなければ出血多量でアメリアが死んでしまう。その言葉にムチリアは全身の力を振り絞ってアメリアを治した。


「ふふっ。良く出来ました!」


 セラはそっとムチリアの頭を優しく撫でた。人を治す回復が白魔術師の貢献出来る最大の魔法……その魔法も三度使用している。人間は体力が尽きてしまうと動けなくなるのをセラは葉桜を見て知っていた。じゃぁ、魔力が無くなった人間はどうなるのか? それは体力が無くなった時と同じだ、疲れて動けなくなってしまう。


 ムチリアの施した回復は怪我の具合により、魔力の消費が大きく変わった。満身創痍のアメリアを治すには杖に溜めた魔力も底を尽き、ムチリア自身の魔力も大量に消費している。普段はこんな大怪我をすることなく、ムチリアの魔力をアメリアに譲渡し攻撃魔法を使う機会が多かった。


 だからここまで回復に魔力を使う経験は無い。いつも以上に魔力を消費してムチリアの全身から汗が噴き出ていた。


「さぁ、アメリア。続きをしましょう」


 セラはナイフを突き刺した。何度も何度も突き刺す事にアメリアも反応が薄くなり声をあげなくなっていく。


「アメリアは良い子ね。私が煩いって言ったから黙っているのね。偉いわ。本当に偉い子だわ。ならこれはとりましょうね」


 口に放り込んでいた衣類をセラが抜き取ると、だらしなく唾液が頬を伝っていた。


「そうだわ。深く、深く刺すと大変だものね。今度は浅く沢山ざくざくとしましょうか」


 ナイフの先端数センチをアメリアの体に突き刺した。表面の傷が無いところを探すように全身を突き刺していく。


「あっ、うっ、もう……だめ……」


 何度も振り下ろされるナイフを眺めてアメリアが声を漏らす。全身の血が抜けて何故か温かく感じていた。


「さぁ……」


 無言でナイフを突き刺していたセラの腕が止まり。ムチリアが嫌な冷や汗を流した。


 何故なら、セラがムチリアの顔を真っすぐ見て。


 言った。


「ムチリア。アメリアを治してあげて?」

「……は……い……」


 魔力は限界だ。ムチリアは持てる魔力を振り絞りアメリアに回復を施した。


「ムチリアの回復も限界ね。治りが悪いもの……アメリアの元気も少ないわね。うーん。困ったのよ。私は困ったの……そうだ!」


 葉桜の修行をセラは思い出す。葉桜は限界に近い時も筋トレや剣術を頑張っていた……そして、自分を鼓舞するように声を出していたのだ。


「ざっく! ざっく! はい。アメリアも」

「えっ……」


 セラの言葉に沿ってナイフが突き刺さる。その掛け声を復唱しろとセラの目からアメリアは読み取っていた。


「ざっ……く。あっ……ざっく。あんっ」


 何度も治してはナイフを突き刺し目が虚ろになるアメリアに変化が現れる。泣き叫ぶ訳でも無く、声に艶が現れ始めた。


「ムチリア……あなたも手拍子でアメリアを応援してあげて?」


 魔力が切れてふらふらと意識を飛ばしそうなムチリアがアメリアの声に合わせて必死に手拍子をうち始めた。


「ざっく! ざくざく、ざっく!」


 セラも調子よく呟きながらナイフを、アメリアの全身に突き刺した。それが数十分続きムチリアがとうとう意識を失った。ばたりと倒れて道具箱からポーションがいくつか転がり落ちる。魔力切れの過労で倒れたムチリアとは違い、アメリアは魔力が残っている。そして、どんなに削られた体力もムチリアの回復力が影響し保っていた。


 ナイフの動きを止めて転がるポーションにセラは手を伸ばす。そして、アメリアを観察した。


 虚ろな目にも変化が訪れている……そっと、セラはアメリアの頬を両手で覆った。


「アメリア。聞いてね。もうムチリアの回復は期待出来ないの……でもね。ポーションがあるの。そういえば、私も自分のポーションを持っているのよ。うふふ。昔、エルフから譲ってもらった物だけどね。それは最後に使いましょうね。ポーションで我慢出来る?」


 その『我慢出来る?』という問いかけにアメリアは首をゆっくり縦に振った。


「良い子ね。うん。とってもいい子だわ。もう、靴の事は許してあげましょうね?」


 そう言ってポーションをアメリアに飲ませた。ムチリアの回復よりも微々たる物だが、ちゃんと効果が現れる。


「うふふ。アメリア。ナイフは痛かったと思うね。でもね」


 そう言って、セラは顔をアメリアの耳に近づけて優しく囁く。


「痛いって事は生きてるって事なの。アメリアは生きたいわよね? 死にたい人はレアだと私は思うの。アメリアは生きたい?」


 そして、セラは顔を離してアメリアの顔をじーっと眺める。


 こくんとアメリアは頷いた。永遠に痛みに耐えたアメリアが望むのは生きること……。


「私、素直な子はすきだわ。本当よ? あと、意外と私は見るのも得意なの。ずーっと葉桜の修行も見てきたもの。それでね。アメリアは……どうして欲しい?」


 悪戯な笑みを浮かべて真っ赤にアメリアの血で溢れているナイフを本人の前にちらつかせた。


「……ぁ……して……」

「まぁ、お声が小さいのね。それじゃあ、聞こえないわ」


 アメリアは細く長く息を吸って口を開いた。


「もっとさぁしてぇ。ぐさぐさでずたずたにさしてぇ。あたしにいきてるって。もっといきてるって、かんじさせて!」

「うふふ、いい子ね。大丈夫よ、あなたの事をちゃーんと見ていたもの。途中から愛しい者を見るようにナイフを見ていたものね」


 セラはナイフをアメリアに突き刺す。本人の要望をなるべく取り入れて突き刺す。なかでぐりぐりと回したり何度も何度も同じ場所にずぼずぼと抜き差しして向こう側に刃が届いたり多種多様にバリエーションを加えた。


「お店の人が言ってたのは本当なのね。私は信じられなかったのだけれども。痛いのが好きな人もちゃんと居るのね。葉桜も喜んでくれるかしら……あぁ。だめだわ。失念していたのよ。あの子は痛いのが嫌いだったわね。うふふ」


 部屋の脱出口をセラが見つけるまで艶やかな声が鳴り響いていた。



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