表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/22

16:あら、お上手ね


 ダンジョンの落とし穴に引っ掛かり、三人は第三層に落ちていた。そこは偶然にも小部屋となっており魔物も居ない、更には出口も見つからなかった。天井までは約五メートル。四方が二十メートル程の空間に三人は座り込んでいた。


「いったーい。全く何なのよ……」


 周りを把握しようと見渡す時にアメリアが小さな炎を杖に灯した。確認した結果、この部屋は魔物の姿も無く安全だという事だけが分かった。


「もー、これも全部あんたが居るから悪いのよ」


 セラに対してアメリアは悪態をついた。正人とセラが仲良く話をしている場面も沢山見ていたアメリアは暴走する。


「うざいのよあんたは。正人様に何したの? ねぇ!」


「うーん。あまり意味が分からないわ。私は貴方が何に起こっているのか理解出来ないの。もう少し詳しく教えてくれない?」


「何よその態度。その全部が気に入らないって言ってるの。さっきも態々、私達魔術師の体力が少ないところやペースを落とそうって正人様の足を引っ張る提案をしようとしたり!」


 セラは本当に理解が出来ていない。なので、思った事をそのまま口に出す事にした。


「貴方の体力が低いのは見ていて分かるわ。そこの……ムチリアよりも体力が無いのよね? 大丈夫。そこは人間の特性だもの。その代わりに魔法を使える長所が貴方にはあるのでしょう? うん。それは分かったの。そして、次ね。あのペースを保っていたら貴方はついていけないのは見ていて分かったのよ。だから……うーん。難しいのね。そうだわ。能力は高い物に合わせるよりも低いものに合わせる方が簡単だもの。ならアメリアの体力合わせるべきじゃないかしら?」


「あー、もううざい。冒険者でもない貴方なんかに言われたくない!」


 アメリアがそう叫んだ後に、小さく笑みをこぼした。


「あー、そうよね。セラさん。貴方は冒険者じゃない。そして、ここには誰もいない」


「変な事を言うのね。ここには私とムチリアの三人がいるじゃない?」


「だーかーらー。ムチリアが黙ってればここで貴方が死んでも不思議じゃないって言ってんのよ」


 そして、アメリアは杖を構えた。ゴブリンに対して放ったファイアーボールは、自身の魔力を込める量が少なく。杖の宝石から引き出した力だった。そして、今は怒りに任せていつもより多くの魔力を込める。


「きゃ」


 隣にいたムチリアの小さな悲鳴。オークさえも粉々に弾け飛ばす爆風を受けてセラが遠くの壁に叩きつけられた。爆風だけではない、壁の周りが炎に覆われてアメリアの目にはセラの姿が消えた。


「ムチリア。セラさんは魔物に襲われてはぐれてしまった。いいわね?」

「でも……」


 突発的なアメリアの行動にムチリアは迷いで言葉に詰まった。


「ムチリア……貴方が言わなければ全てが穏便に済むの。あの子はそもそも冒険者でも何でもない、そんな子がダンジョンに足を踏み入れるのよ。こうなって当然じゃない」


 爆炎により起きた煙がゆっくりと晴れていく。


「う、うん。ガルフさんにバレたら大変だもの。そうよね」


 流される……ダメな事をしたアメリアを叱ることも出来ない保身。


「あら。本当にわからないわ」


 煙の晴れた壁際に人影がむくりと立ち上がった。その姿を見てアメリアは唾を力強く飲み込む。


「あれを受けてしなない? 痛っ」


 アメリアは自身の左手に痛みを感じた。その痛みがなんなのかを理解するとムチリアに向かって叫んだ。


「回復!!! はやく!!!」

「えっあっ」


 死んだと思っていたセラが生きていてアメリアの表情が苦痛に歪んでいる。ムチリアが目を凝らすと、アメリアの掌には赤い人差し指程の矢が刺さっていた。


「アメリア……ヒール」


 ムチリアの得意な回復を施しているのをセラは眺めていた。


「そうね。ムチリアは回復がお上手だったわね」


 そう言ってセラはアメリアを指さした。その瞬間、高速で放たれる矢は先程とはくらべものにならない。セラから撃たれた矢はアメリアの両肩に突き刺さった。その勢いは弓矢を凌駕し、アメリアの体は勢いに押されて壁に突き刺さる。


 文字通り磔となった。肩を貫通した矢は壁に深くささっている。


「ああああああ!」


 壁にぶつかる反動でアメリアは頭に痛みを感じていた。両手の力が抜けて杖は地面に落ちている、足をバタバタと動すアメリアは浮いていた。


 その光景を前にムチリアは腰を抜かしその場に座り込む。


「分からないわ。本当に分からないの。どうして私は燃やされたんだろう……事実を言っただけなのにどうして?」


「あんたのそういう所が気に入らないって言ってんのよ! ムチリア早く回復を!」


 震えるムチリアは杖に力を入れて顔を上げると……セラと目が合った。深紅の瞳に無表情のセラがムチリアに指を向ける。先ほどアメリアが吹き飛ぶ時も指をさしていた。その瞬間が脳内で再生されムチリアは動けない。


「ムチリア早く!!!」


 その声にセラは答える。右のふともも、左手に矢を突き刺してゆっくりとアメリアに近づく。痛みに声が出ないアメリアを無視して口を開いた。


「別に貴方が私を燃やしたことなんてどうにも思ってないのよ。えぇ、それは本当よ。これっぽっちも貴方が『私』を燃やしたことは気にしていないの……でも、悲しいわ。お洋服はボロボロね。そして何より……葉桜に今朝貰った靴が、こんなにボロボロなのが一番許せないわ」


 自身の魔法を受けて無事であるセラにアメリアの本心が表に出る。


「この化け物! さっさと燃えて死ねぇぇぇ」


 杖が無くても魔術師は魔法が使える。杖は補助でしかなく、アメリアは痛む体を無視して穴が塞がった右手に魔力を込めた。


「これ以上は嫌なの。もう私を汚さないで?」


 五本の指に矢が突き刺さりアメリアの指が消し飛んだ。


「人間には沢山……そう、沢山な種類の人間がいるのね。種類? うーん。性格というのが正しいわね。きっとそうね。アメリア……私は貴方の事が嫌いみたいだわ。最近の私はとっても楽しかったの。意外と人間の文化に触れるのは想像以上に楽しいのよ。お団子は甘いしお気に入りなのだわ。でも、辛いのは苦手ね……」


 そう言いセラがアメリアに近づくのをムチリアが震えながら見ていた。


「初めて辛い物を食べた時にね。お店の人が言ってたわ『嬢ちゃんには辛さの良さがまだ分からないか。はっはっは、まぁ辛いってのは痛みらしいけどなぁ!』なーんて言ってたのよ。アメリアは辛いのが好きかしら?」


 そう言い終わってセラはアメリアでは無く――ムチリアの方を向いて屈むと真っすぐ顔を見て言った。


「ムチリアの回復はとってもお上手だわ。さぁ、アメリアを治してあげて?」


 想像していなかった言葉にムチリアは杖を構えた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ