15:初めてのダンジョン
正人が葉桜を誘った依頼はランクを付ける事が難しくて依頼ボードに載せる事が出来なかった。その依頼はダンジョン攻略となる。
ダンジョンとは魔物の巣を含む物で良くあるパターンが階層となっている。しかし、ダンジョンという物が存在したのは七十年前であった。勇者がダンジョンを壊滅させてダンジョンコアを破壊することにより機能を停止する。
そのダンジョンコアを生成するのはレベルの高い魔力を操る魔物だった。魔王の側近がコアを生成していたがもう存在しない……そのはずだが、世の中にダンジョンがいくつか見つかってしまった。恐らく高位な魔物がコアを作る能力を持っており、勇者が倒した後に力を伸ばしていたのだろうと判断された。
コアを作れるのは魔王の側近だけではない……そして、そのダンジョンに正人は一人で挑んだ。一階層の奥まで進む間にゴブリンとオークを含めて五百体以上を殺していた。しかし、二階層を見ただけで正人は引き返すこととなる。ダンジョンは階層が深くなるにつれて難易度があがる……正人一人で挑むにはデータ少なすぎた。だから、正人はダンジョン攻略パーティを探していたのだ。
一階層は行動した範囲に限りメモを取って地図を作成しメンバーに手渡す。そのメンバーは葉桜とセラを含めて後は獣人ガルフとそのパーティメンバーであるアメリアとムチリアが結局集められていた。ダンジョンは複数存在するので、別の国が保有しているAランク冒険者を呼ぶのは難しいという結論に正人は至った。
そして、直近の冒険者の記録を確認するとガルフ以外にも候補がいたが都合が合わなかった。
「よろしくな」
「はい!」
ガルフと葉桜は二人でダンジョンの入り口を観察していた。
アメリアは正人から受け取った地図を見て構造を確かめている。ムチリアは装備の確認をしていた。
「そんなに大勢で入っても混乱するかもしれないし、結局はこの人数になっちゃったよ。ガルフがいるし大丈夫だよね?」
正人がガルフの背中を叩いていた。ふんっとガルフはそっぽを向いている。
「一階層は大丈夫だとおもう。けど、それ以降は分からないけど……私が前に立って戦おう。そして、何かが起きたら皆にも対処して欲しい」
「はっ、どうせ俺達は正人のおまけだ」
「そんなことは無いよ。ガルフ達に背中を預けるから私も安心して戦えるってものだよ」
セラは葉桜の隣で大きな欠伸をしていた。いつも朝はダルそうにしてるのがセラなので葉桜は慣れてしまった。
「セラさんも体調は大丈夫かな? 何かあったら、ちゃんと声をあげてくださいね」
その様子を逃さない正人がセラを心配していた。
「えぇ、大丈夫。朝は元気が少ないの。苦手なのよ。まだ夜が好きだわ。お日様は大っ嫌い」
そんなやり取りをアメリア達も見ていた。
そして、七人でダンジョン攻略が始まった。
このダンジョンは約一年前に一つの村が魔物に襲われて壊滅したあと、ダンジョンとして地下に進む神殿が発生した。ダンジョンコアの特徴として様々な形のダンジョンが生成される。この地に由来する物やダンジョンボスが影響することが大きいらしい。
ダンジョンボス……ダンジョンの心臓とも言えるコアを守る、最深部に存在する魔物をそう呼ぶ。
まずは正人が前回攻略した一階層に足を進めた。ダンジョンで倒した魔物は共通して死骸が吸収されるらしい。その現象を正人は前回確認している。七十年前に存在したダンジョンの記録によると、魔物が持つ魔力をダンジョンが吸収し最後のダンジョンボスへ供給される仕組みとなっているようだ。
魔物の素材が残らない……魔物によっては素材を元に道具を作ることが可能だ。それを元に冒険者は武器を新調するのだが、ダンジョンでは死骸が残らないのでその点も悪い。素材を売って稼ぐ事が出来ないのでダンジョンを好ましく思わない人が過去にも多数存在した。
「おやおや、ゴブリンだね」
先頭を歩く正人がゴブリンを見つけた。ダンジョンは薄暗いなかゴブリンは、小さな光を灯すこん棒を握っていた。
「正人様。私にお任せください!」
そう言ってアメリアが割って前にでる。
「ファイアーボール!!」
魔力を杖に通し、アメリアは魔力を増幅させた。予め杖の先についているキラキラとした宝石に魔力を蓄積させて、戦闘時は少しの魔力が導火線となり杖から魔法を撃ち放す。アメリアが放ったファイアーボールは通路を明るく照らしてゴブリンに直撃した。連続した小爆発音を奏でながら、ゴブリンを巻き込んで壁にぶつかり、激しく散ってあたりを照らす。
「良い火力ですねアメリアさん。これならオークが出てもダメージを与えるでしょう……」
「はい! オークが出ても任せてください!」
「でも、ダンジョンで明るい魔法を使うと……」
正人の言葉をさえぎってゴブリンの甲高い声がダンジョンに響いた。
「このように見つかってしまうので気を付けてください」
「あ、えっと……ごめんなさい」
見るからにしゅんと小さくなるアメリアよりも小さな足音が大勢迫ってくるのが全員分かった。
「皆さん、走ってついてきてください」
そう言って正人はゴブリンの足音に向かって走った。その先には左右に分かれている通路があり、正人は剣を抜いて右の通路へと向かった。そして、正面にいるゴブリンの群れを剣で斬りながらみんなの道を切り開く。次々と現れるゴブリンを切り捨てて先へ進む。葉桜達の後ろから大勢のゴブリンが向かってくるのが音で分かった。正人も正面のゴブリンを殺すだけで全滅にさせている訳では無い。
「雷の檻」
正人がそう言って少し離れているゴブリンを電撃の檻に閉じ込めた。これは完全に足止めの為で、全員が正人から離れず付いていく。セラの足元は常にヒールだったので、葉桜は動きやすい靴を事前に買ってあげたのは正解だった。
「よし、ここが二階層への階段です。では、皆さんは階段で待っていてください」
正人はそう言って暗闇に蠢くゴブリンの大群に対峙した。
「武器創造」
そう言って正人はオークキング討伐時に使った魔剣では無く、大きな金属の槍を作り出す。そして、それを通路目掛けて打ち放った。轟音鳴り響き反響する音の中に、肉を切り裂き骨を断ちゴブリンを亡骸にする音がした。そして、そのあとは嘘のように静かになる。
「なぁ、やっぱり俺ら要らなかったんじゃねーの」
ガルフの言葉に正人はそんなことないよと返した。
魔力を使いこなせれば葉桜も同じような事が出来るのかなぁと正人を見て考えていた。アメリアとムチリアは少し息が切れている。
「おっと、走りすぎていたね。休憩しようか」
仲間の状態も確認している正人に従い二階層前に休憩を取った。葉桜はセラを確認したが、全く疲れた様子は無く涼しい顔をしている。
「セラは結構体力あるんだね……」
「そうよ。だって毎日走る葉桜を眺めていたもの」
「見てるだけじゃ体力はつかないと思うんだけど」
「うーん。まぁ、ダンジョンは暗くて眩しくないし走りやすいもの」
「僕は明るい方が足元も見えやすいし走りやすいなぁ……」
そんな二人のやり取りを聞いて正人が笑っていた。
「セラさんは体力もあるんだね」
「そうでもないと思うの。それよりもこの子達が無いのだわ。えぇ、きっとそうよ」
セラは休憩しているアメリアとムチリアを見ていた。
「なっ……」
その声に反論は出来なかった。二人が疲れているのは一目瞭然で休んでいるのも事実だった。
「ま、お嬢ちゃん勘弁してやってくれ。普段このペースで走る事も無くてだなぁ。こいつらもDランクの冒険者でそこそこ活躍するからよ!」
アメリア達の視線を無視してガルフがフォローに入った。
「葉桜もDランクだけど……そうね。葉桜は魔力をまだ上手く使えないものね。人間は長所があれば短所もあるものね」
葉桜も魔力に関しては修行中の身……何も反論せず第二階層の探索を始める。慎重に回りを確認して進むが約一時間程経つと警戒が薄まっていた。
二階層には魔物の姿が見えなかった。なにも現れない。
「前に私が大勢のオークを倒したから一階層のゴブリンしか残って無かったのかな? とりあえず第三階層の階段を探そうか」
ずーっと歩き回り魔物が現れないか神経をすり減らして探索するのは意外と骨が折れる。
油断している状態は危険だとも理解している。嗅覚が優れている獣人ガルフも魔物の匂いは古くて新しいのはいないんじゃないか? と正人に言っていた。
前ばかり見ていると後ろは疎かになりがちだった。葉桜が振り返るとアメリア達と少しだけ距離が離れている。葉桜は戻ってアメリアの元へ向かった。そして、懐から水の入った革袋を取り出す。
「アメリアさん水がありますけど、飲みますか?」
「頂戴」
疲労を顔に浮かべているアメリアは素直に受け取ると水を飲んだ。その様子を見ていたセラも葉桜の元に近づく。
「あらあら。葉桜は良い子ね。まったく……前の二人はダンジョンに心が奪われているのかしら」
セラはアメリアとムチリアの様子を見落としているガルフと正人に心底あきれていた。一方、この二人の事も頭に入っている葉桜が誇らしく思える程だった。人間は個体差があると学んだセラは正人とガルフにもう少しペースを落とすように提案しようと、初めてアメリア達の事を考える。
「アメリアは仕方のない子ね。もう少しペースを落とすように言ってくるわね」
その言葉に対しアメリアは叫んだ。
「やめてよ! 私は今のペースでも大丈夫だって! 変な事を正人様に言わないでよね!」
そして、手に持っていた杖を振り回した。その杖の先端が壁にぶつかりガシャっと音が鳴り、葉桜は床を失った。
地面が開いてアメリアとムチリアは葉桜を巻き込んで落ちていく。その一瞬の出来事に葉桜は何もすることが出来なかった。すぐに動いたのは葉桜の後ろに立っていたセラだけ。
葉桜が目の前で地面に吸い込まれる中で、右手を伸ばし葉桜を捕まえた。その後は葉桜が落ちない様に力を入れて自分の所に引き寄せる。
あまりにも唐突な出来事で体制が悪かった。
葉桜を落とし穴の落下から救う事と引き換えに反動でセラの足が地面から浮いていた。
セラに引き上げられた葉桜が落とし穴を確認しようと振り返った時には何もなかった。元通りの通路になっている。アメリアの叫ぶ声と何かが動作する音を聞いてガルフと正人が戻ってきたがもう遅い。三人が落ちた……事の顛末を二人に伝え周辺を確認したが何かが動作するカラクリは見当たらない。焦る葉桜に対し正人は冷静に判断した。
「落ち着こう。三人が下に落ちたという事は第三層に辿り着いているに違いない。急いで下に見つかる階段を探そう」
ガルフと葉桜は頷いて三人で階段を探す為に走り出した。




