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1:夢と現実の狭間で少年は恐怖する

 葉桜(はお)はゆっくりと目を覚ました。そこはいつものパーソナルな空間では無く、ぬるい風が頬をゆっくりと撫でる。葉桜の視界には夕方を彷彿とさせる空模様に微かな星が見えていた。


「あれ……もう朝?」


 寝ぼけながら葉桜は体を起こすと自分が外で横たわっていた事実に気が付いて、瞬きを数回した後に状況の確認を始める。


「えっと……確か、家で寝てたはずだけど……ここは家から少し離れた場所だなぁ」


 葉桜の住むポリュス王国の一角で寝ている現状に首をかしげながら立ち上がった。体はふわふわと浮遊感があり気分が悪い……まるで目を回して酔った感覚に転びそうになる体を、身近な壁にもたれて支えた。耳鳴りも酷くて頭痛を感じる。


「朝にしては暗いし、ここにいる意味も分かんないし……」


 葉桜はそう呟きながら少し明るくなった空を見上げる。その空はポリュス王国の中心から離れるに連れて暗くなっていた。太陽は東から西へ昇る事を思い出して葉桜に違和感が襲う。


「僕の家はポリュス王国の中心から南側……ここは見覚えがある。家から少し東側に進んだ所だ」


 太陽が昇るなら方角が違う。空を見る限り現在地よりもっと北側から照らしている……?


 葉桜は気分の悪い体を壁に擦り付けながら移動して明かりの元を確認する。今が夜明けじゃないなら、この明かりは何?


 その答えは至極単純だった。


 円を描く城壁の中心にある城が燃えていた。真っ赤に大きな火柱を上げて闇の夜空を照らしていた。その光景を葉桜は大きく目を見開いて眺める。頬には変な汗がたらりと伝い生唾を飲んだ。次第に耳鳴りも収まってくると国民の悲鳴やガラスが割れる音が次第に……鮮明に聞こえてくる。城の東側がぱらぱらと倒壊した。まるで砂のお城を無造作に蹴り飛ばした様に崩れる様を葉桜は理解が出来ずに眺める。


 すると何か黒い物がこちらへ向かって飛んできた。その形は次第に鮮明へと変わっていく。


「ひ……と?」


 放物線を描く訳でも無く葉桜がもたれる壁の向かいに墜落した。


 人が飛んでくる訳が無い……ましてや弾丸の如く真っすぐ民家にぶつかり壁を壊して倒壊させるなんて信じられない。人型の知らない何かが飛んで墜落したと葉桜の脳みそが判断を下す。


「何がどうなって……」


 ナニかが落ちてバラバラにした家の欠片が葉桜の足元にも転がる。それは割れた鏡で自分の姿が目に映った。視界に入る自身の姿は葉桜の知っている物とは少しだけ異なり――少し大人になっていた。


 ガシャン


 倒壊した民家から物音が聞こえた。葉桜の視界で、もぞもぞと蠢いてゆっくりと立ち上がる。先ほど飛んできた物は紛れもなく――人だった。


 正しくは人型の鎧。全身を覆う黒い鎧は竜の鱗の様に何枚も折り重なっており爬虫類の肌を思い出させる。そして、顔を覆い隠す兜からは角が生えていた。


 何事も無かったように立ち上がった竜の鎧は肩が上下に動いて酸素を吸っている事が見てわかる。


「あの……だいじょう……」


 葉桜は城から飛んでくるのを見ていた。もの凄い衝撃を受けているであろう竜の鎧に声を掛けた瞬間、その鎧は真っすぐ葉桜の前に駆け寄った。


 気分の悪さと状況が飲み込めていない葉桜は相手の動きを目で追うだけで精一杯だった。竜の鎧が左腕を前に出したと思ったら葉桜の体が宙に浮く。ひょいっと猫の首根っこをつまんで持ち上げるくらい簡単に葉桜の襟元を左手で掴み持ち上げられた。そして、右手にはいつの間にか剣が握られており、振り下ろされるのをじっと目で追う。


「葉桜!」


 聞きなれた声がすると葉桜の体は地面に打ち付けられる。その間の出来事を葉桜はしっかりと見ていた。


 じーちゃんの声と共に振り下ろされた黄金に輝く大剣が僕を掴んで宙にあげている左腕へ振り下ろされた。しかし、竜の鎧は左腕を離してじーちゃんの剣は空を斬りつける……竜の鎧はそのまま地面に向かって落ちる葉桜を目掛けて斬りかかっていた。


 何もない空間を斬ったじーちゃんは腕を伸ばして葉桜を勢い良く押した。


 そのお陰で葉桜は斬られること無く、地面へ体をぶつけて転がるだけで済んだ。


 葉桜の代わりに――じーちゃんの左腕がその場に落ちていた。

読んでくれてありがとうございました。

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