一章
『ジーク!起きろって!!』
そう呼ばれる青年は起き上がった。
見た目は20代の黒髪、腰には刀を携えている。
『うるさいなぁ…』
気怠そうな返事とともに目の前には森
このはジークと呼ばれる青年にまつわる物語である。
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『先生。到着ですよ。今日で私たちは一人前になれるんですよね?』
そう言って笑顔を振りまく少女、その隣には同年代の少年がいる。
彼らは冒険者と言われる存在である。
先生と呼ばれているの青年こと、ジークは彼女の頭をクシャクシャと撫でながら言った。
『お前らがアレを倒せたらなー』
なんとも無責任な言い方ではあるが、そこには確かな眼差しと力強い言葉であることを2人は知っている。
『今日はどんな魔物なんですか?』
魔物、、それはこの世界における悪の存在。様々な種族が住まうこの世界で世界への敵対存在が魔物と呼ばれる。
とても曖昧な表現である以上、判断基準もなく誰が決めているのか、そして誰が作ったのか全ては謎である。
「え?言ってなかったか?ベヒーモス。」
少年少女は苦笑いを浮かべジークを見つめる。そして落胆。
馬鹿にしたような目線を送られるジークは重ねて言う。
「お前らなら大丈夫。」
またもや簡単に済まされてしまうが、少年少女は自信を持つ。彼の言葉に間違いが無いことを知っているからである。
「サクッと倒してSランクになってくれ」
ため息混じりに少年少女は前を向く。
これから先の魔物がどの様な存在かを知るのは、もう少し先の話であった。
倒しても倒しても収まらない魔物の群れ。その中には狼に似たものや1mはある蜂のようなものがいる。
その群れを携えた刀でなく拳や蹴りで倒していくジークがいた。
身軽にホイッホイッと言いながら彼は的確に急所を抑え、迎え来る魔物たちを倒していく。
後方からジークと同じような刀を使い魔物を倒している少年。
「遅ぇぞ!ウル!」
ウルと呼ばれた少年は一気に前方のジークの後ろまで追いつくが、あっという間に話されてしまう。
「お前の角は飾りもんかー?先祖が泣くぞ!」
ウルの額には小さな尖った角が2本生えている。
「俺と祖先は関係ないでしょ!」
そう言う彼は鬼人族である。体格は人と変わらないが、もちろん人ではない。
ジークが両人差し指を額に当て鬼のポーズをして煽ってくるが、遇らうように魔物たちを斬ってゆく。
「遅いよー?せーんせ。」
そう言って先を進む彼女の頭にも2本の角。ウルのように尖っておらず、耳の上あたりから後ろに向けて珊瑚のような形をしている。
「竜人の水操作には頭が上がらんなぁ〜」
ジークは小馬鹿にしながら言う。下を出し馬鹿にするジークをいっかみる。
「メイルは水系ですが、俺は火なので効率が…」
ウルがそう言うとジークも重ねて言う。
「人にはエテフエテというものが…まぁお前ら人ではねぇけど。」
笑いながら言う彼の口調には一切の悪意は感じられない。
メイルは竜人族であり。竜人族は水系統の魔法を鬼人族は火系統の魔法が得意なのである。
ここで言う魔法とは、個人の体内に存在する魔力を放出することを指す。
「水で滑るように敵を倒すか。火で殲滅かぁ…」
ジークは向かってくる魔物を遇らうように倒しながら、手を叩きウルに人差し指を立て魔物の集団に向かい、その指を突き出す。
「っしゃ!!業火!!」
ウルは掌を前面に押し出すと叫び、目前に円陣が現れ火炎放射器のような炎が飛び出す。
ブォワワワワワ!!!
すかさずメイルが静かに唱える
「五月雨」
上空に円陣が現れると通り雨のように舞った炎をかき消してゆく。
ひと段落。と言わんばかりの表情で3人は顔を合わせ集まる。
木々は繁り、あたりは閑散とし魔物の群れが収まると同時に静けさを取り戻す。
同じようなことを数時間ほど繰り返し、気づけば森の中の平原と言わんばかりの小さな丘があった。
「そろそろかなぁ」
キョロキョロの辺りを見渡すとジークを他所に体力を少しでも回復させるために地面へとへたり込んでいた2人のもとに、雄叫びが聞こえた。
ギュァアアアア!!
丘の上には筋骨隆々とした魔物。全身は灰色の皮膚でサイのようにも見える獅子のような顔に水牛に似た角が生えている。
「おっ!ベヒーモスちゃん発見!」
子供が虫を見つけるような笑みでジークは口笛を鳴らす。
ニコニコとした笑顔にウルとメイルは半ば怒りを感じながら立ち上がり対峙する。
ベヒーモスが前足を上げ地面へ打ち鳴らすと円陣が現れ地面が揺れる。
「魔法使うのかよ!?」
ウルは即座に上に飛び回避しようとした瞬間、目線がズレる。
気付いた時には数キロ先へ飛ばされていた。突進を食らっただけ。それだけだった。
「ウルっ!こんの〜!!」
同じく飛んでいたメイルは両手を前に突き出し何かを発そうとした、が同じ対角線へと吹っ飛ばされていた。
巨体が地面に着くと同時に雄叫びをあげる。
その真後ろにはウルがいた。
一閃。腰から抜かれた刀が横薙ぎする。眼光鋭くベヒーモスを睨むウルは驚きを隠せなかった。
傷一つなく。強固に見えた皮膚には滑るように刀に乗せた力を受け流している。
ベヒーモスが振り向きざまに雄叫びを上げる。雄叫びに合わせるように円陣あらわれ波動がウルを直撃する。
気を失い後ろへ倒れこむウルの真横に次はメイルが首を断頭するべく一閃。
同じくスルリと刀身は力なく地面へと向かう。
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「おぉ〜やっと起きた??」
そうやって笑いながらジークは2人を見つめる。
2人が身につけていたものはボロボロになり、ただただ落胆する2人に追い打ちをかける。
「斬れると思ってんのか?」
そこには若干の怒りと憤りが混じり、2人は口を紡ぐ。
辛気臭い話は終わり。とばかりにジークは手を叩き、器に入ったスープを勧める。
日も落ち、ベヒーモスからどうやって逃げたのか。どうすれば倒せるのか。謎や不安…分からない事ばかりの2人は、作戦会議とばかりに話し合う。
夜の見張りのために火を焼べるジークはどこか嬉しそうで、懐かしむ表情を浮かべ2人が眠りにつくのをじっと待つ。。。。
ベヒーモス
モンスターランクS級。土系統の魔法と雄叫びによる波動を放つ。
古獣種であり生体は不明。
ジーク
冒険者ランクS3級。人族。25歳?
ウルとメイルの先生
ウル
冒険者ランクB級。鬼人族。
刀による剣技と火系統の魔法を使う。
メイル
冒険者ランクB級。竜人族。
水系統の魔法を得意とし、ジーク、ウルと同じ刀を使う。