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レイチェルの末裔  作者: 柏木 裕
16/22

Memo.006 花見月へと至る道 その10

                          □ □ □ □


 花見月の後ろ暗い歴史、地下施設に闘技場、そこに囚われた戦闘用の奴隷。そして、花見月栄一郎の凄惨な過去の出来事。

 洗馬がこの場で伝えた内容は、(まさ)しく解雇(クビ)を覚悟するに値する重大な秘密だった。

 だが、それを聞いて考えても解せない点が久瑠実には一つあった。

 幾ら他人の心が読めるとしても、治癒魔法の能力が高いとしても、集団と個人では流石に相手にならないのでは無いか、と言う疑念だ。

 当然にして、空気の読めない久瑠実はそれを追及した。

対する洗馬の答えは、「(みはり)を数名配置の後、各自【情報神の巻物(エルメスクラル)】に新たに組み込まれた機能を確認して見て欲しい」だった。

 今朝の皆を叩き起こして居た時、導入された新機能は、状態照合(ステータスチェッカー)と言うものだ。

 説明文も何も無しなのは、何時もの仕様だ。一度、触れて見て解らなければ、そこで(ようや)く詳しい説明文が表示される事になって居る。逐一、理解不能時の脳波でも調査(チェック)して居るのだろうか。

 何時もより消化不良が少ないとは言え、肝心な所をはぐらかされ気が沈む。それでも、洗馬の指示通り、久瑠実は哨役を東西南北に二名ずつ配置し、新機能と覚しき図柄(アイコン)をタップして見た。


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■名前 [性別]          □久瑠実 橘 [女]

■年齢               □19歳

■レベル              □27


■Strength▼強さ         □389

■Dexterity▼器用さ       □408

■Vitality▼丈夫さ        □360

■Agility▼敏捷さ         □466

■Intelligence▼賢さ       □427

■Mind▼精神力          □589

■Memory point▼記憶力    □475

■Recast time▼再詠唱時間  □18[s]


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 目下、突き付けられた文字とそれに対応して居るだろう数字の優劣は、判断が付かず困惑が増すばかりだった。再詠唱時間と表示された十八秒だけが、感覚的に一番しっくり来る項目と言えた。改めてこうして視覚化して見れば、確かにそれ位、時間を置かないと全く同じ魔法を発動出来ない気がする。

 哨以外の分隊の皆も、首を(ひね)ってよく解らなそうにして居るのが彼方此方(あちこち)で見られた。自分一人だけが、こう言う科学技術(テクノロジー)に疎い訳で無い事にほっと胸を撫で下ろし、何となく放念として視線を泳がせた。

 (やや)あって、久瑠実は他人に長い間、焦点を合わせると、魔物の生死判定時に見えた波とよく似た青い波紋が、視界一杯から人の形へと重なって行く光景を(とく)と見た。

 その時、意識せず注視した相手は洗馬だった。現状、栄一郎が留守だった所為もあり、この中で最も偉い上司の一挙一動をつい見てしまうのは自然の流れだった。それが更なる災いを久瑠実に運ぶ事となる。


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■名前 [性別]          □朱雀 洗馬 [男]

■年齢               □56歳

■レベル              □67


■Strength▼強さ         □915

■Dexterity▼器用さ       □830

■Vitality▼丈夫さ        □962

■Agility▼敏捷さ         □1043

■Intelligence▼賢さ       □854

■Mind▼精神力          □872

■Memory point▼記憶力    □997

■Recast time▼再詠唱時間  □5[s]


+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++


 あれ、これ他人(ヒト)の勝手に見れちゃう奴なの……?

 眼が円かになり空いた口が塞がらない久瑠実が居た。洗馬は栄一郎の消えた最奥の真っ暗闇を、じっと見据えて居る為、此方を見て居ないが、野生の勘や戦士の勘とかで何時知られるか冷や冷やする。

 見えては行けないものを勝手に見た様で気が引けた。

 だが、どう言う訳か、辺りの隊員は洗馬に注目して居る様子は無かった。

 折角の機会だから、普通は確りと見るのではと訝しむ久瑠実の許に、新たなステータス表示が浮かび上がる。


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■名前 [性別]          □? ??? [女]

■年齢               □?歳

■レベル              □175


■Strength▼強さ         □3496

■Dexterity▼器用さ       □3892

■Vitality▼丈夫さ        □2954

■Agility▼敏捷さ         □5789

■Intelligence▼賢さ       □4024

■Mind▼精神力          □4305

■Memory point▼記憶力    □9999

■Recast time▼再詠唱時間  □13・4[µs]


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 あぁれえぇ、何これ…………?

 久瑠実は思った事をその儘、声に出してしまって居た。

「どうされました久瑠実隊長?」

 後衛の年の近い魔法担当の子が、心配して近寄り話を掛けて来る。

「んーん、何でも無いよ」

 明らかに引き攣った顔で、何かあると解り切った返事をしたが、久瑠実とは違い場の空気を読める子だった。

「何かありましたら、ご相談下さい。私たち後衛一同、何時でも久瑠実隊長のお力となる積もりで居りますので」

 そう言って一礼し、元の後衛の集まりに戻って行った。

 私よりずっと出来た子だ、確か一つ下だったかな。

 応対が完璧過ぎて久瑠実は常日頃そう思って居たが、本心から心配してくれて居るかは解らない。

 解らないと思い思考停止する事で、必要以上に親しくなる事を嫌って居る自分が居る事も承知して居た。

 でも、個人的に優しくしてくれる人に、きちんと接する事が出来ないのも、それはそれで辛いものがあった。

 どちらにしても、今回の依頼達成までの期間限定となるなら、下手に踏み込まない関係性の方がお互いの為かも知れない。と、そう言う所が戴けないとは解りつつも、最優先事項に着目する。

 記憶力9999って何? 教官でも敏捷さの千弱が最大だから、その十倍って事? もしかして、計測停止(カウンターストップ)って奴なのかな? と言う事は、本当は一万超えてる? 想像すらできない。これって教官が送って来た情報(データ)だよね絶対。これが地下に居るって? でも、性別が女性なんだよね? だから人間だよね多分。どの位、強いのかよく解らないけど、私が十八秒掛かるものが一瞬。さっきの話だと治癒魔法が使えるんだったっけ。分隊全員で教官に敵わないのに、その教官より五、六倍は速く動くってことか。ことかー。無理だね、うん。無謀且つ無理だ。不可能ってこう言う時に使う言葉だと思われる。そもそも戦闘にならないのでは? デコピンで頭パンされるんじゃないかな。それにあれだ、この人、栄一郎様の兄妹なんだよね確か。こんな莫迦げた相手を傷付けない様に気遣いつつ戦って取り押さえる? 無理無理絶対無理!!

 色々、考えて少し頭を働かせると手に負えない案件だと解る。どうやら冷静さを欠いて居た様だ。洗馬が無理を通して付いて行かなかった事実からも、成熟して居ればどうにかなると言う簡単な話でも無い事だと裏付けられる。

 久瑠実は、今一度周囲を見回して確信を持った。やはり、洗馬に気を留めた者が見当たらない。これらの情報は、分隊長二人のみか、或いは私個人に宛てて開示された秘密の可能性が高い。

 もう一人の分隊長も周りの隊員のステータスを物珍し気に確認して居る様子はあるが、円の台座の前に陣取る洗馬へ向け視線が急に固定されたり、変な顔付きなる事も無さそうだった。

 なら、どうして私だけに……? 久瑠実は自身と他の隊員の違いを片っ端から考え、もしかしたらの糸口に辿り着いた。

 この依頼を終えたら、私が分隊を抜けるから。仮にそうだとしたら……あの時、教官は私を花見月預かりにすると言った。あの場で言う必要は無かったかも? 花見月預かり? あの日、保護された時見たく、あの立派なお屋敷で寝泊まりするって事以外に何かあるとしたら……? そう言えば、今回の依頼、護衛対象が増えるんだよね。確か栄一郎様とその増えた人達を……その救助者の中に栄一郎様の兄妹も入る筈……その子と何か話せばいいって事なのかな?

 根拠は乏しいが、自分自身を納得させる答えに行き着いた久瑠実は満足げに頷いた。押し黙って独り熟考して居る時の久瑠実は、大概百面相になって居り、それが意外にも周りの人の好感を博して居た。

 久瑠実が立った儘、深く何かを考える仕草は、多くの場合、より存命率の高い作戦を組む為の再考だったり、新しい訓練の具体的な方法だった。その弛まぬ努力が幸いを運び、これまで数多くの天鳥船の面子が助けられ、日の目を拝む事に繫がって来たのだ。

 それから小一時間にも及ぶ時間、他の憶測についても風呂敷を広げ考える像と化した久瑠実は、洗馬へと真剣な眼差しを向けて周囲に要らぬ誤解を招くのだった。



 茜色の陽光が草木を夕映えの彩りで(うら)らかに照らし、遠方に臨める建造物の陰も滑り込む様に足許まで這い出しては、あと幾分かの日没の訪れを告げてくれる。泰平と言えた一昔前なら観光(ガイド)買い物(ショッピング)等の(しめ)には中々悪くない境遇(シチュエーション)だったと自慢話に花も咲かせられただろう。不意に警戒を緩めてしまわない様に心掛けなければ、ずっと眺めて居たいと(たわ)けた事を抜かしそうな日入りの美景に、どこか(むな)しい寂寥感を蒙った。

 視界の端に各々の趣味に合わせたデザインの時計やらセグメント表示が映り込んだ。凝り性なら、自前の魔法発光スペクトルから抽出した【心象色(ヘルツファルベ)】と極めて近い色合いで形作ったものを時計の秒針にして、製作者が夜を意識し始めると蛍光色の様に僅かに発光する。

 意識を傾けると拡大され、逸らすと縮小される久瑠実の時計は、デジタル式のアラビア数字を示し、今は亡き幼馴染から譲り受けたニキシー管に似せた穏やかな乳白色の時計表示をつんと指先で小突いた。

 時刻は既に十八時を回って居た。刻限(こくげん)まであと十分、十五分と言う所だろう。最悪、手ぶらでも構わないから栄一郎だけは帰って欲しいと言う理想もあるが、出来れば異常性はステータスだけに留め、話し合いが通じる相手であれば良いと渇望せざるを得ない。こう言う時、お腹が痛くならない人は羨ましいと思う久瑠実だった。

 結局の所、洗馬は必要以上に他の事を語らなかった。後日の依頼の日程だとか、久瑠実が抜けた後の隊の再編成とか、そう言う事の相談には乗ってくれたが、簡単に襤褸(ぼろ)を出す人でも無いので仕方がない。徹底して居るとも言えるが、その後何をさせる積もりなのか少々怖くもあった。


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