8.遺跡の主
ユタカは遺跡へ偵察に行かせた二人の報告が来るまで、ゼクティアと話をして、新たに分かったことがあった。
なんでも、不完全体であるマネキン時の意識は個として存在しているのではなく、自動人形という無数に存在する自我意識の種のようなものの集合体として存在しているらしい。そして、完全体になったときに初めて個として確立するとのこと。このような、成り立ちがあるからこそ無線機もないのに離れていても通信ができる能力が存在するらしい。
なお、自動人形の自我意識の種はホワイトアウト空間の謎の存在が作成したらしく、この世界に関する極々基本的な情報とユタカの脳内の記憶にある情報が転写されているとのこと。
ゼクティア達には俺の過去が全部ばれているってことか、恥ず! いや、見られて恥ずかしいような記憶はないはず、ないと思いたい。
ユタカが己の記憶の中にまずいものがないか割りと真剣に調査を始めた頃、ゼクティアが緊張した様子でユタカにマネキンの二人からの情報を伝えた。
「都市遺跡の中心部に二人が到達したようです。そこまでの道のりは比較的安全で不完全体が一人でも難なく移動できる程度で、森より安全なのではないかとのことです。それで、中心部の様子ですが大きなドーム状の建物があり、そこから地面が削られたような跡が伸びてるそうです。なお、二人は今現在ドーム状の建物には地面の削られたところ以外に侵入口がないので近くで様子を窺っているとのことです」
「近づく分には問題ないか。なら、俺が自分の目で状況を確認したい。そのうえで、さらなる調査か撤退かを決めるよ。一度二人をここまで戻らせて、合流した後4人でそのドーム状の建物を確認しに行こう」
「わかりました。ユタカの身は必ずや私たちが守ります」
「ゼクティアたちの守りなら何があっても安心だよ」
二人のマネキンが戻るとすぐにユタカ一行は都市遺跡の中心部に向け移動した。
大きな建物だな、その建物を中心から四方に向かって同じような長さと幅で直線的に地面が削られている。それも、かなり新しいものもあるなだな。朝の振動はここからで間違いないだろう。
「んー、あのドーム状の建物の中には何かいる気配はあるけどほとんど動いていないな。まずは、いくつか試してみるか」
ユタカはそういうと建物から距離を置いたところから地面の削れているところへ石を投げるようにマネキンに指示をした。
「なんの反応もなしか。次は、っ! みんなそこの建物の陰に隠れて!」
ユタカの目線の先には牛コーンが一頭で徘徊しており、次第に地面の削れたところへ近づいていた。そして、牛コーンが削れたところに完全に入るとドーム状の建物から黒い物体が目にも留まらぬ速さで飛び出し、牛コーンは丸のみにしてしまった。
「ゴホッゴホッ! この世界の食物連鎖はダイナミックだな。捕食時の勢いは物凄いものがあったが、戻るときは、ずいぶんゆっくりなんだな」
黒い物体は飛び出した時とは打って変わりずりずりと大きな音と振動を伴い、ゆっくりとドームの中へ戻っていった。
ユタカはもうもうと立ち上がる砂埃の中から黒い物体の動きをじっと見て、口角をぐっと上げた。
「みんな、この都市遺跡に来たのはかなり正解だったようだよ。あのヤツメウナギみないな生物はここまで頑張ってきた俺たちへのご褒美なのかもね」
「ユタカの言っていることがよくわからないのですが、あの生き物の速さは異常です。私では視認することはできても避けたりするのは不可能なほどです。ここは、この生物を避けて行動するのが良いように思えるのですが」
「ゼクティアの言う通り、飛び出してくるときを狙って攻撃するのは不可能だろうね。でも、見て分かるように戻るときは非常に遅い。そこを叩く!」
「確かにそのタイミングでの攻撃は容易ですが、あの巨体です。私の剣では切りつけたところで大したダメージを与えることはできないように思えます」
「そこも、ちゃんと理解してるよ。今の我々の攻撃力は低いけど、それを延々繰り返し与えていけばダメージの蓄積は期待できるはず。まあ、試しにやってみよう! もしだめならゼクティアの言う通りアレを避けて移動すれば問題ないんだし。具体的なことは仮拠点に戻って説明するよ」
そういうとユタカ一行は仮拠点に戻り、ある作業を始めた。
ゼクティアと一人のマネキンが一緒になり森の中に入り、大量の木材と何匹かの腱を切断したサルもどきを集め、仮拠点に残ったマネキンとユタカはその木材を材料にして、先端を鋭く削った杭のような形状へ加工した。
「もう、日が暮れてしまったね。かなり数の杭ができたし、これくらいで作業をいったん止めようか。三人ともお疲れさまでした。それで、今後の動きについて順を追って説明するよ。
1.明日の夜明けと同時に今日作った杭をヤツメウナギもどきのいるところへ輸送する。
2.杭に巻き付けたサルもどきを数匹程度、同じくヤツメウナギもどきのいるところへ輸送する。
3.サルもどきを地面の削れたところへ投げ入れ、ヤツメウナギをおびき出し戻っていくところを狙って、ありったけの杭を投擲してダメージを与える。
以上。
なお、俺とゼクティアはここに残って引き続き杭の作成を続ける。こんな具合で行こうと思ってるよ」
「質問をいいですか? 攻撃方法等はわかりましたが、ユタカが一番気にするであろうマネキン二人の作戦中の危険はどう考えますか」
「そのことだけど、遺跡内での移動は今日見たように危険性は二人であればかなり低い。そして、おびき出すときや攻撃中にヤツメウナギもどきが予想外の動きをする可能性。これは考えてたんだけど、あの地面の削れた跡を見るに無視し得るほど低いものだと思う。理由は削れた跡がすべて直線的だったこと。もし、急にカーブできるならもっと複雑な跡が残っててもいいと思うんだ。それに、削れ具合を見るとあのヤツメウナギもどきは昨日今日あそこに住み着いたとも思えない。長い間、直線的な動きしかしていない、あるいはできない証拠になると考えた」
「確かに、そう言われればそうだった気がします。もう一つ質問ですが、やはりあの巨体に対して木の杭のみが攻撃手段では与えるダメージが少なすぎませんか」
「一回や二回程度の攻撃じゃあほとんど意味はないと思う。でもそれを何十回と繰り返せば馬鹿にならないダメージを与えることはできるはずだよ。もし、途中で出たら攻撃されるって学習しても受けた攻撃で体力が減っていけば回復のために捕食行動をとらざるおえないし、完全に引っ込んでしまうようなら相手が衰弱死するまで待つつもりだよ」
「なるほど、初めから長期戦を覚悟していてこの拠点では杭の作成を続けるということですか」
「じゃあ、みんな納得いった? それなら明日からヤツメウナギもどきの討伐作業を粛々と行おう。一週間続けても変化が見られなかったら討伐は中止する予定だからそのつもりで」
そうして、夜が明けると二人のマネキンは大量の杭と杭に括りつけたサルもどきを何度かに分けて輸送したのち攻撃を開始した。
「おー、やってるやってる。二人は順調だっていってる?」
「はい、今のところなんの問題も発生していないようです」
ユタカとゼクティアは都市遺跡の中心に舞う砂埃を観ながらガリガリと杭を作り続けていた。
「しっかし、サルもどきは便利な存在だな。今回はヤツメウナギもどきの釣り餌に使えたよ」
「だんだん、サルもどきが哀れに感じてきました。でも数がいて生きのいい餌とみるならあれほど良いものはないでしょう」
お昼を過ぎたころに二人のマネキンが追加の杭と餌をとりに戻って来たが、すぐに攻撃を開始しその日は砂埃が絶えることはなかった。
「さて、攻撃を開始して一日目だから大したダメージも与えられていないだろうけど、これが三日四日と続けばどうなるかな」
攻撃開始から4日目、仮拠点の周りの木々が杭の材料として切り出されたせいでだいぶ減ってきた頃にヤツメウナギもどきの動きに変化が現れた。
「ふーん、餌に反応しなくなったんだ。ダメージが結構溜まってきたんだろうな、あとは奴が体力回復のために捕食を続けるか、衰弱死するかだな」
その結果は意外な形で攻撃開始から5日目の朝に分かった。
「結局、昨日はあの後一度も餌に食いつかなかったな」
ユタカが昨日のことを思い返しながら目を覚ますと、目の前に直立不動で立つゼクティアの姿があった。
「水無殿、『自動人形召喚・指示』の段階が進行したことをご報告申し上げます。現在行使可能な力は、完全体2体の召喚、不完全体3体の召喚となります」
次回は9月23日午前0時の投稿となります。
誤字・脱字、語句の選びの間違いなど指摘いただければと思います。




