7.都市遺跡
ユタカが2枚目の肉を食べる機会を逸した失意の底から帰ってきたのは、翌日の昼前だった。
「おはようございます。今日で元の拠点を離れて2日目となります。昨日の襲撃で分かったように襲撃してくる生物の種類に変化が起きてきました。これが森の出口に近づいていることを示唆しているのか、そうではないのかわかりませんが、一層気を引き締めて移動を行いましょう。なお、本日で私に関する物資が食料2日分、水1日分になる予定です。これらの物資の補給も考えつつ移動することが求められますが、よろしくおねがいします」
「・・・わかりました。物資の補給を念頭に置きつつ移動をいたします」
気まずい。ユタカは昨日のことを何も引きずっていないように見えるが、それは本心からなのか。
ゼクティアは昨日のことに気まずさを覚えつつ移動を開始した。
「昨日のこと気にしてるの、ゼクティア」
「ユタカ、その、私も少し悪かったかなという気持ちがあったりします・・・」
「は~、さすがの俺でも数週間の果物生活の後の肉があれほど上等なものならもっと食いたいって、思いはあるよ。でも、俺が一枚しか食べれなかった理由がゼクティアにあるとは微塵も思ってないぞ」
「え?! でも、ユタカは拗ねたように昨日は床に着かれたようでしたし、」
「あれは、もう一枚食べられたのに、目の前で火が消えてもう食べられないってなったから気分的な落差でダメージを受けただけ。むしろ、ゼクティアはいい仕事をしたと思っているぞ。あの肉は薄く切って食べるのが一番おいしく食べる方法のような気がする。そして、俺は新たに目標が出来たぞ。いつかあの牛コーンの肉で焼き肉パーティをする!」
萎れていたゼクティアはユタカが怒っていないということがわかると、急に満面の笑みでこう言った。
「わかりました、ユタカ! いつあの牛コーンの肉を手に入れても大丈夫なように、道中枯れ枝の収集を鋭意行うようにいたします」
それは、やめてやれ。集めた枯れ枝を運ぶのはマネキンの二人なんだから。とユタカは思わなくもなかったがあのゼクティアの表情を前に止めることが出来ず、後ろを歩くマネキンに手を合わせた。
焼き肉の準備に余念のないゼクティアを先頭に、サルもどきや六足犬から数度の襲撃を受けてはいたがその全てを危なげなく退け、所々で水と果実(あの巨木の果実ほどおいしいものではない)の補給を行いつつ2日目の夕方、ついに変化が現れた。
「ユタカ、この先で森の密度が薄くなっています。それと、石の壁のようなものが見えます。もしかしたら、ユタカが予想していた町の跡かもしれません。どうしますか、このまま接近しますか」
「そうだね、もう少し近づいて様子を窺いたい。ただし、スピードは落として警戒しながら進もう」
ユタカの指示通りゆっくりといつも以上に周辺を警戒しながら町の跡へ近づくと石の壁や建物がいくつも見えてきた。
すごいな、最初に見つけた建物と違ってかなり原形を残してるぞ。もしかしたら、人がいなくなってからそれほど経過してないのか。規模を見るにこれは町じゃないな、都市という表現が正しいかもな。
「これ以上進むと、木が少なすぎて我々の姿を隠すことできなくなりますが」
「うん、今日はもうすぐ日が暮れてしまう。このあたりで、一番大きな木を探してそこを仮の拠点として、明日丸1日を使って都市遺跡の様子を探るとしよう」
ユタカ一行は都市遺跡の周辺を少し移動し、森から都市遺跡に流れ込む小さな川のそばにある比較的大きな木を仮拠点と決定して行動を始めた。
川の水は飲料水として問題はなく、仮拠点からそれほど離れていないところにはおいしくはないが栄養価の高そうな木の実があった。
ほんとにこの森は豊かだよな。澄み切った空気、清らかな水、沢山の実をつける種類豊富な木々、変異体がいなければまさに楽園だな。
「みんな、ありがとう。無事に仮の拠点としては恵まれたロケーションを発見できました。明日はここを起点にあの都市遺跡の調査を行います。ゼクティアは悪いけどこの木に登ってできるだけ高いところからあの遺跡の様子を見ててくれる」
「わかりました。二人は周辺の警戒をしてください。遺跡が近くにあり、今までとは環境が少し違います。いつも以上に警戒を厳としてください」
ユタカはおいしくない木の実を水で流し込み、早めに床に着いた。
翌朝、細かい揺れを感じつユタカは目を覚ました。
なんだ、この揺れは地震ではないな。重量物が地面を移動したような感じの揺れだな。
「ユタカ! 寝起きにすみません。先ほど都市遺跡の中心付近で土煙と地面が削れるような音がしました」
ゼクティアがユタカの寝ているところよりずいぶん高いところから、都市遺跡に視線を向けつつ報告を行った。
「おはよー、ゼクティア。あの揺れからするとかなりの大物が遺跡には居そうだね」
さて、どうしたものか。この遺跡はかなり危険なものだということは早くも分かってしまった。なら、遺跡の周囲を回り込んで北への移動を続けるのがベストか。でもなー。
「ゼクティアー、ちょっと降りてきてくれない。これからのことで相談がしたい」
木の上からユタカが寝るために設置した板材のある所まで降りてきたゼクティアは、夜間の遺跡の様子をまず報告した。
ゼクティアの報告によると遺跡の中を時々、サルもどきや六足犬、牛コーンが徘徊している姿は確認できたが今まで出会ったことのない生物はいなかったとのこと。
「なるほど、朝の土煙を除けば遺跡の中の危険度はそれほどでもないってことか。なおさら迷ってしまうな、運命なんて信じないけど移動を決めたときに見つけた建築物の跡、それによって決めた北への移動、建築物の跡で見つけた道も北に延び、その先に現れた都市遺跡。安全確実なのはこの遺跡を回り込んで北への移動を続けることだけど、ん~」
「ユタカ、私はこの遺跡を探索すべきかと思います。朝に中心部で土煙が発生して以降、周辺は静かです。あの付近に近づきさえしなければこの遺跡の危険度は想定できる範囲に収まるかと。ただし、ユタカが立ち入るのは我々が偵察を行い安全を確認してからにしてもらえればと思います」
「俺に君たちを鉱山のカナリアのように使えってこと? それはあまりにも君たちに対して無礼にすぎないか。自動人形という力によるものだとしても君たちは確固たる意志を持っている存在だ。それを試しに危険かもしれないところに放り込むのは違う気がする」
「ユタカ。そう言っていただけるのは自動人形としてとても嬉しく思います。しかし、あくまで我々は自動人形ですし、死という概念を持つ存在ではありません。万が一、私の体を全損するようなことがあっても一か月ほどすれば、私は再び召喚されることが出来ます。ユタカの世界にあったゲームのプレイヤーと同じで、復活可能な存在です。ですが、ユタカは違います。あなたにもしものことがあれば我々全員が完全消滅してしまうのです。決して、あなたの命と我々の命が等価なのものだとは思わないようにしてください」
「・・・わかった。君たちは死ぬことはないんだな。再召喚したとき外見は同じだが中身が別人っていうこともないんだな」
「はい。そのようなことはありませんし、そもそも、”死”という表現が違うかもしれません。故障してしまったから修理のために一時的に召喚状態が解除される。修理が終了すればまた戻ってこれるといった感じが近いかもしれません」
「こういう人の使い方は納得がいかないが、俺の死がみんなの本当の意味での死になってしまうことは理解した。これからは、感情で俺の命を守るのではなく、理性で俺の命を守ることを誓うよ」
「ありがとうございます。ユタカは我々を大切にしてくださいますが、それが我々にとって最善ではない時があるといことを知識として知っておいてください。そして、そのときは理性と知識のみを使い冷徹、戦力を成す数字として我々を扱い指示を出すようにしてください」
ユタカはゼクティアの言葉をゆっくりと頭の中で反芻し、自動人形が求める最良の主を想像し始めた。
有事において、なによりも自身の命を重視し、そのためなら自動人形をただの数値に変換して行動できる指揮官。左手で自分の額を覆いながら自己暗示をかけるように指揮官像を具体的に脳へ焼き付けた。
ルーティンにしてしまおう、手で自分の額を覆えば俺は、私は冷酷な指揮官、・・・
ゼクティアはかれこれ30分ほど左手で自分の額を覆ったり、外したり、ブツブツとつぶやき続けるユタカの姿を見て、心配になっていた。
厳しすぎる言葉を掛けてしまっただろうか、ユタカは優しい人だから。でも、この先厳しい判断を迫られる時が必ず来る。そのときユタカに生き残ってもらうには必要なことのはず。
そうして、ゼクティアがユタカを案じているとユタカがしゃべりだした。
「ありがとう、ゼクティア。ゼクティアに言われたことの重要性をよく理解したよ。これから先は迷わないよ。ただ、素の俺では荷が重いからルーティーンと暗示を組み合わせてみることにしたよ。これから練習すれば良くなっていくと思うよ」
ユタカはそう言いながら、自分の左手を額に当て二人のマネキンに命令を出した。
「命令。不完全体二体は直ちに都市遺跡の偵察を行え。本偵察の目的は中心部付近の危険度判定とする。以上」
命令を受けたマネキンの二人はスッと敬礼をし、都市遺跡内へと足を踏み入れた。そして、抑揚のないしゃべりで命令をだしたユタカは大きく息を吐いて、
「疲れたー。頭に糖分が欲しいよ」
「水無殿! 偵察に出ました2体より報告がありましたら、順次報告を上げさせていただきます」
ゼクティアは少し緊張した様子でユタカに対していた。
「そうしてくれると嬉しいよ。あとそんなに緊張しないでよ。俺ショック受けちゃうじゃん。二人が戻ってくるまで話をして待ってようよ」
ユタカの変わりように戸惑いながらも、今は普段と同じように話しかけてくる様子を見て落ち着いたゼクティアはユタカと雑談をしながら時間を過ごした。
次回は9月16日午前0時の投稿となります。
誤字・脱字、語句の選びの間違いなど指摘いただければと思います。




