6.班の編制
北へ移動する指示を受けたゼクティアと2体のマネキンは、早朝から持ち運ぶ荷物の準備を進めていた。背中に背負うような籠を作る技術は残念ながら誰も持ち合わせていなかったので、板材を組み合わせて江戸時代に大名が乗るような駕籠に似たものを作り、そこにユタカの食べ物として巨木の果実と丸太の内側をぎりぎりの薄さまで削り水を入れた即席の蓋つきタンク、戦闘時に投擲武器として使うための先端を鋭利に削った枝を積載させた。
「この駕籠かなりの大きさになったな。マネキンの二人がいなかったらビクともしない重さだ」
「ユタカ、出発の準備が出来ました。食料は5日分、水は4日分を用意しております。無理をすればもう数日分ずつ載せることはできますが、この温暖な気候の下では長期の保存は望めませんのでこの量で抑えております。なお、水については容器が何分即席ですので漏水や蒸発分を計算したうえで4日分となります」
「ありがとう。それじゃあ、移動時の配置だけど先頭に敵の索敵・排除を担うゼクティア、次にお荷物の俺、その後ろに駕籠を運んでもらうマネキン二人を輸送・索敵として配置するよ。二人は状況に応じて駕籠をおろして敵の排除に参加してもらう予定です」
ゼクティア、マネキンの二人がそれぞれ出発のために行動を始めた。
この黄色い果実の生る巨木にはずいぶん助けられたな、この木がなければ森のどこかで野垂れ死んでいたかもしれない。これだけの巨木になれば神様が宿ってるかもしれないし、手を合わせて感謝しないとな。
日本人的感覚に従って巨木に手を合わせていると後ろからゼクティアが「出発の合図を」と声をかけてきた。
「ここには俺を含めて4人いる。4人いればギリギリ班だといえるだろう。俺たちはこの小さな班から成長して、いつか小隊に中隊に、そう言えるぐらいの力を手に入れてこの世界を生き抜く。では、第1班出発!」
威勢よく宣言をして北に向かって移動し始めたユタカは早くも体力の限界と戦っていた。
14歳に改造されたせいか、以前の体より体力の消耗が激しい。それに、地面を覆う木の根が大きくて歩きづらい。
そんなユタカの姿を確認したゼクティアが声を掛けてきた。
「ユタカ、もう少し進むと二人が見つけた建物の跡がある場所に着きます。調査の時間を考えると本日はそこで夜を明かすのがよろしいかと」
「悪いね、俺のせいで移動速度が落ちてしまって。ゼクティアの言う通りにしよう」
「ありがとうございます。では、もう少しだけ頑張ってください」
それから、移動を続け夕方になる前には件の建築物の跡がある場所に一行は到着した。
到着するとすぐにゼクティアが二人のマネキンに周辺の警戒と樹上にユタカの寝床を作成するように指示を出していた。そのあと、ユタカはゼクティアを伴って建築物の跡を確認していた。
「なんだか、門か関所みたいな感じの建物だな。なら、」
そういいながらユタカは持っていた枝で建築物の跡の周りの地面を刺し始めた。
しばらくすると、何かを見つけたのか土を掘り始めた。
「ゼクティア。これを見て、なんだか道に敷く石畳みたいに見えない」
「相当朽ちていますが、いわれてみれば確かに石畳のようにも見えますね。それに、これが道だとすればここからまっすぐに北に向かって伸びてませんか」
「ああ、この建物が門だとすれば、このまま北に進めば門が守っていた何かがある可能性がある。まあ、北じゃなくて南側を守っている可能性もあるけどね。ただ、もしこの先に大昔の町のようなものがあればそこには、これまで見なかったような生物がいる可能性もある。その時は、より慎重にいこう」
「わかりました。あ、ユタカの寝床が出来たようです」
その夜、ユタカはゼクティア達三人が周辺警戒を行う樹上の寝床で横になりなりながら悩んでいた。
このまま進むことは、正解なのか。さっき俺が言ったように町の跡が現れるとすればそこを住み処にする生物がいるはずだ。その生物が今のゼクティア達で対処可能ならいいが、もしそうでなければ。しかし、そこには森を脱出するためのヒントがある可能性もあるし、出てくる生物がゼクティア達で対処可能な範囲に収まるのなら、力の段階を進める良い機会にもなる。
今の自分に驕りはないか、根拠のない自信に突き動かされていないか、ユタカは一晩考えて今後の方針を決めていた。
夜が明け、日の出とともにユタカは出発の合図を出していた。
「おはようございます。それでは、当初の予定通り北に向かって進んでいきます。今日の移動で元の拠点からかなり離れることになるので、危険な生物との遭遇の可能性が高くなると思います。周辺の警戒を怠らず、小さな異変を発見すればその都度移動を中止して安全の確認をしていきましょう。では、出発!」
移動を開始したユタカ一行は前日と比べて速いペースで移動を続けていた。大昔の石畳が敷かれていたであろう道の上を歩いているせいか、周辺と比べ木の根に移動を阻まれることが少なくなっていた。
疲れるが、昨日ほどの悪路じゃないせいかスピードを維持できるな。にしても後ろの二人はすごいな、あんな重い駕籠を担いで昨日からずっとペースが変わらない。
自動人形の能力にユタカが感心していると、先頭を行くゼクティアが左手を挙げて歩みを止めた。すると、ユタカの後ろを歩くマネキン二人が担いでいた駕籠をゆっくりと地面に下ろし、一人はユタカのそばに近づき、一人は後方を警戒するように位置を取り始めた。
「ゼクティア、なにが来る?」
「すでにかなり接近されてています。おそらく、あの六足犬だと思います。しかも複数です。ですが、ご安心ください、敵の位置はすでに分かっているうえ三人で情報を共有しております」
それは、心強いな。なら、俺はこの場から動かず騒がず戦闘の邪魔をしないように心がけるとしようか。
ユタカ一行が迎撃の準備を整えると、突然、ユタカに向かってそばの草むらから人を一飲みできるのではないかと思えるほど口を開けた六足犬が飛び出してきた。しかし、準備を整え位置を把握していたマネキンが組んだ両手を六足犬の頭へ振り落とし、そのまま地面へ叩きつけた。
ダブルスレッジハンマーってやつか、あれは指を悪くしそうだけどマネキンには関係ないのか。っと今度は同時攻撃を仕掛けてきたな。
その後、六足犬は4人への同時攻撃や一番弱くそうに見えるユタカへの集中攻撃、波状攻撃など高い知能を使った攻撃を仕掛けてきたが、その全てを撃退することが出来た。
「周辺にもう敵は存在しないようです」
ゼクティアがそう報告をすると、戦闘開始から黙っていたユタカが状況を確認し始めた。
「いやー、結構な数が襲ってきたね。30頭近くは来たんじゃないかな、初めて、会った六足犬ははぐれか何かで普段は群れで行動する生物なんだろうね」
そういって、ユタカが近くにある比較的原形を残している六足犬の死体のそばに行き、腰を下ろした時突然ゼクティアが叫んだ。
「ユタカ! 何かがすごい速さで接近しています」
ゼクティアの叫びを聞き「え?」とユタカが顔を上げると5mほど離れたところを猛烈な勢いで突進してくる牛に似た変異体がいた。
まずい、こままではユタカが。私の位置からでは止められない。ならば、
「そこの二人! 水無殿の盾となりなさい」
ゼクティアの指示を受けた二人のマネキンが素早くユタカと変異体の間に割って入った。と次の瞬間、変異体と二人は衝突し、変異体の突進が止まったが受け止めた二人は後方へと吹き飛ばされていった。
その隙を見逃さず、ゼクティアが装備している剣を使い変異体の頭を切り落とした。
「ありがとうゼクティア、助かった。君の指示がなかったら俺は死んでいた。でも、あの二人が心配だ、ものすごい勢いで飛んで行ったけど無事なのか」
「ユタカが無事で本当に良かったです。あの二人なら無事です。もうこちらに向かって移動しています。多少の擦り傷があるかもしれませんが何の問題もないと思います」
すごいな、トラックに轢かれたような衝撃があったと思うけど、擦り傷程度なのか。
ユタカが自動人形の頑丈さに驚いていると二人のマネキンががさがさと藪をかき分けて現れた。確かに二人の表面には無数の擦り傷があったが、黒い靄が傷口を覆うと次の瞬間には元の白い合成樹脂のようなツルっとした状態へと戻っていた。
「二人とも無事でよかった。そして、助けてくれてありがとう、二人があの変異体を受け止めてくれなかったら俺は今ごろ、そこらにある六足犬と同じような状態になっていたよ」
二人のマネキンはどこか嬉しそうにユタカの話を聞き、最後に頭を下げた。
「でも、また新しい生物が出てきたな、毛がなくて赤黒いってのは変異体の共通点なのか? 今度はイッカクみたいな角を生やした牛ときた。名前を付けるのが面倒になってきたな、もうこれは牛コーンでいいや。・・・ゼクティア、一つ聞きたいんだけど変異体って人が食べても大丈夫なの」
「これを食べる気ですか? まあ、私の知っている知識の中には変異体を食べることが危険であるようなものはありませんが、」
「今までに出てきた生物の中では一番おいしそうじゃん。もう2週間近くあの黄色い果実しか食べてないんだ、そろそろたんぱく質と脂質を摂取するべきだと思うんだよね」
ユタカのそんな話を聞いたゼクティアは渋々牛コーンを食べることを認め、マネキンの二人に枯れ枝を集めるように指示をした。
「食べることことは認めますが、いくつか条件があります。まず一口目は毒味を兼ねて私が食べます、食べる部位については寄生虫がいる確率が幾分か低い背中の肉を、最後に薄くスライスし火で炙って食べる。これを守ってくれなければ私は断固反対します」
「その条件を全部認める! 早く食べよう」
久しぶりの肉にユタカは興奮を隠しきれずにいた。そんな、ユタカの様子を呆れたように、何処か愛おしそうに見ながらゼクティアは牛コーンの背中の肉を切り取った。
その後、マネキンが拾ってきた枯れ枝に自動人形の力技で火をつけ、食欲を誘う音を立てながら肉を炙った。
「まずは私が食べます。ん~っ、ユタカこれは素晴らしい肉質です。サシの入り方が絶妙で、脂っぽくなるギリギリ手前のバランスを作っています。脂にはあっさりとした甘み、赤身には強すぎないうま味。それに、なにも味をつけていないのに臭みを全く感じない。・・・あ、ユタカ、毒性はないようです」
ジーーー
勝手に食レポを始めたゼクティアをユタカは横から穴が開くほど見続けていた。そして、ゼクティアの毒味終了し可食判定が下りると一心不乱に肉を頬張った。
旨い! そして、この脂が口の中をコーティングする感じ、もう遠い過去に経験したように感じる。
幸福絶頂のまま2枚目の薄切り肉を炙ろうとしたとき、火が消えた。
「・・・すみません。このあたりに火の付きやすい枯れ枝がこれしか見つからなったもので、」
あまりの幸福と絶望の落差に死んだ目をしたユタカが「今日の移動、おつかれさまでした」と小さな声を出し樹上に設置された自分の寝床へ向けてズリズリと這い上がって行った。
残されたゼクティアは二人のマネキンからジトっとした視線のようなものを送られ、目を泳がせながら言い訳を始めた。
「・・・私は悪くありません。しっかりとあの肉の判定を行っただけです。確かに少しだけ味に感動して毒味以外のことも確認してしまいましたが・・・あれは、必要な作業でした!」
次回は9月9日午前0時の投稿となります。
誤字・脱字、語句の選びの間違いなど指摘いただければと思います。




