表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/215

5.力による毒

 ユタカは徐々に姿を現すマネキンの姿を見ながら妙に欲と高揚感を覚えていた。


 会社勤めの頃は下っ端で雑務を処理する日々を送っていたが、そこに何の不満もなかったし出世して部下が欲しいなんて考えたこともなかった。なのに、従順に俺の言うことに従ってくれるゼクティアや今新たに加わろうとする2体のマネキンを目にすることで自分が偉くなっていく錯覚をしている。これは毒だ、まさか自分にこんな支配欲が満たされるようなところがあるとは。こういう感覚に突き動かされると致命的なミスをする。そして、この世界ではミスが命取りになる。欲が一概に悪というわけではない、生きたいと思えばこそ周辺の環境を自分のコントロール下に置こうと試行錯誤するし、より良い生活がしたいと思えばそれに向けた努力もできる。

 これからも従ってくれる人形が増えれば毒も強くなっていくだろうし、この毒といかに折り合いをつけるかがこの力の使用に関する要点か。


「水無殿、不完全体2体の召喚がただいま完了しました」


 ゼクティアがそう報告すると、新たに現れた2体のマネキンがユタカに向かって敬礼をした。


 なんだかゼクティアの時より大きな体をしてるし、軍人然とした感じが強いな。それにまた、アブストラクトマネキンか。まさか俺の人形に対するイメージが雑だから抽象的な姿になるのか。まあ、動きに問題がないからいいけど2体のマネキンが並んでると洋服店に居るみたいだな。


「召喚に応じてくれてありがとうございます、が正しいのかな。俺は水無隆です。これから二人には色々と助けてもらうことになるかと思うけどよろしくお願いします。あと、敬礼は普段はいらないから楽にして」


 ユタカは先ほど感じた毒を念頭に置きつつ、丁寧にかつ、召喚主として最低限の立場を示せるように言葉を選び2体のマネキンに声をかけた。

 すると、2体のマネキンはスッと頭下げて反応を示してくれた。


「それで、来てもらった直後に申し訳ないけど周りに散らばる死体の処理をお願いします。処理方法については穴を掘って埋めてしまおうか。必要な道具はゼクティアに加工してもらって用意してください。じゃあゼクティア、二人に細かい指示をしてもらっていい」


「了解しました。私を含め三名で死体処理を開始いたします。なお、この付近での作業ですので問題はないかと思いますが、何か危険が迫った際は声を挙げていただければ我々のうち誰かが直ちに駆けつけるようにいたします」


「わかったよ。急いでやる必要はないから、無理のないペースでやってね」


 そこから三人の働きぶりはすさまじいもので、ゼクティアが作業に必要になりそうな板材や鋤を作成し、マネキンに渡すと4mほどの穴を瞬く間に掘り、板材を使って死体をかき集めるようにして穴に投棄する作業が夜間を通して行われた。そして、日が昇るころには巨木の周辺に大量にあったサルもどきの死体は残っていなかった。


「おはよう、みんな。夜通しで働いてもらったようだけど、おかげさまで周りがきれいになったよ。それで、作業が終わったばっかりで申し訳ないけど、今後の方針を考えるために情報が欲しいからここを中心に半径1km圏内を二人で偵察してください。ただし、なにがあるか分からないからお互いがすぐにサポートできる距離以上に離れて行動しないようにしてください。それでは、お願いします。あと、ゼクティアはこっちに来てもらえる」


 ユタカは指示を出し終えると、ツリーハウスの側の森に見える昨日まで存在しなかった枝で串刺しになったままの気味の悪い生物の死体を見ながら、ゼクティアが来るのを待った。


「改めてお疲れ様、ゼクティア。今後の方針について打ち合わせたいけど、まずアレはなに?」


「はい。まず初めに経緯からご説明すると昨晩の死体処理作業中に突如アレが現れ、破棄途中であった死体の肉をあさり始めました。最初は不完全体がそばで監視をしていたのですが、襲ってくる様子もなく死体のみに興味を示す生物かと思いました。しかし、私がそばに近づいたとたんに襲いかかってきたため、手持ちの枝で対処した次第です。結果としては、肉食であり、獰猛で動きが早く、我々の警戒に対してもかなり近くまで接近できる隠密性も兼ね備える生物だと判断いたします」


「やっぱり、サルもどきより危険な生物が存在してたか。あの二人を一緒に行動させたのは正解だったな。しかし、気味の悪い生物だな。全体のシルエットは犬とも言えなくないが、サルもどきと同じで毛がないし、赤黒いけど六本足で首みたいな部分まで口が裂けてるぞ。とりあえず、あの変異体は六足犬って呼ぼう。んー、六足犬が現れてすぐに死体をあさり始めたってことは、こいつもこの森で最強ではない可能性が高いな」


「では万全を期して、もう少しここを拠点として力の段階を進めることを目指しましょうか」


 確かにゼクティアが出した案は無難であり、俺の安全だけを考えれば最適解だろうな。でも、昨日でこの周辺のサルもどきを大方駆除しきってしまった。新たに加わった二人を広範囲に移動させ狩りをさせても数はたかが知れてる。それに、移動範囲を広げるほどあの二人だけでは対処が困難な敵が現れる可能性も高くなる。戦力の分散は基本的に避けるべき愚策、なら自動人形を三人で行動させるのが最善か。


「ゼクティアの案は俺の安全を一番保証できる魅力的な案だけど、どうも先々のことを考えるとじり貧な気がする。ところで、ゼクティアはあの二人と感覚が共有出来たりするの」


「そのような能力はありませんが、今は私が最先任の自動人形という理由であの二人と念話による通信経路が確立しています」


「無線みたいな感じだね。朝令暮改だって怒られるかもしれないけど、二人には偵察を終えて拠点に戻ってくるように伝えてもらっていい。あの六足犬を見てリスクの大きさを感じてしまった」


「わかりました。二人には帰還するように指示をします。それで、今後の方針はどうなさるので」


「この拠点を放棄して移動を開始する! 移動は太陽でしか方角がわからないことから昼間のみとするよ。ゼクティア、次に俺の力の段階が進むと何ができるようになる?」


「はっ、次の段階では完全体2体と不完全体3体の召喚になります」


「おー、一気に戦力が強化されるね。つまりは、段階を進めるために必要な”情報体”も多くなることが予想される。だから、この狩りつくしてしまった拠点から移動して新たな”情報体”の収集を狙おう」


 もちろん、今の戦力で森の脱出が出来ればベストだが、そうは問屋が卸さないだろう。はぁ~、自分が決めたことだけどこれから徒歩での移動か、億劫だ。


 ユタカがこれからの移動を思い、げんなりしているとゼクティアが偵察より帰還中の二人から報告が入ったと知らせてきた。


「この拠点から北の方向へ進んだところに人工の建築物と思われる跡があるそうです。今現在、二人には帰還を最優先と指示しておりますので詳しくは確認をしておりませんがいかがいたしますか」


「よし、移動する方向を決めかねていた時に素晴らしい発見をしてくれた。移動は北に向かって行おう。途中でその建築物を調べつつ移動だよ」


 建築物跡の発見の報告からしばらくすると二人が偵察から帰還した。


「二人ともよく無事に帰って来てくれたね。そして、偵察をお願いしておいて、その後すぐに帰ってくるように言ってごめんなさい。この周辺にあるリスクを今までより高く評価する必要があったので帰還をお願いしました」


 ユタカは二人に指示の取り消した件を謝罪し、その理由の説明を行った後に今後の方針を発表した。


「この拠点からの移動を行う。移動する方角は二人が建築物跡を発見した北。これはゼクティアと協議した結果なので、決定に至る経緯をゼクティアと情報共有するようにしてください。明日の日の出より移動準備を行い、準備ができ次第出発します」


「了解しました!」


 ゼクティアは言葉で、マネキンの二人は敬礼でユタカの発表した方針に従うことを示した。


 その夜、ゼクティアは外の警備をマネキンの二人に任せ真剣な表情で話をするユタカとともにツリーハウスにいた。


「ゼクティア、実は今日新たに召喚されたマネキンを見て俺は気分が高揚してたんだよ。自分に従う部下が増えた、このまま増えていけば何でもできるようになるって。この感覚は危険だ、これが過ぎれば支配欲とか自尊心が肥大化して周りを顧みない傲慢な判断をして、結果ゼクティア達や俺自身を滅ぼす可能性がある毒だ。だから、ゼクティア、これは命令だ。君は俺が毒に侵されたと判断すれば俺を痛めつけてでも止めろ」


「ユタカ。今日の指示を出している姿は素晴らしかったです。むしろ、我々への態度が丁寧すぎるようにも思えます」


「今日はこの毒の存在を意識して行動したし、みんなに命令するときはある程度の命令口調が組織として正しいことも理解してるから、あんなしゃべり方をした。でも、俺自身が気づかぬうちに毒に蝕まれている可能性があり得るのなら予防策を取っておくべきだよ。だから、お願いゼクティア」


「・・・了解しました。もしそのようなことがあればどのようなことをしてでも、水無殿をお止めいたします」


「ありがとう、ゼクティア」

次回の投稿は9月2日午前0時を予定しております。



誤字・脱字、語句の選びの間違い、ご指摘いただければと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ