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3.副官兼秘書

 そこには、18歳ほどになろうかという美少女が立っていた。透き通るように白い肌と肩口で切り揃えていた純白の髪の毛を持つ彼女は、人形のように整った顔を隆の方へ向け致命的な状況のままゆっくりと柘榴石(ガーネット)のような瞳を隠していた瞼を開き、報告を始めた。


「水無殿! ただいま受肉が完了しました。『自動人形』副官兼秘書職能付与型、1体の完全召喚を報告します」


 隆は目の前の状況にしばらく理解が追い付かず硬直していたが、徐々に思考力が戻り平静を装いながら口を開いた。


「報告ありがとうございます。まず初めにしていただきたいのは何か身に着けるもの用意しませんか? あなたのように可憐なお嬢さんが裸でいるものではありませんよ」


 うわ、今までにあんなにかわいい子見たことないぞ。いい歳したおっさんが興奮して声を上げるところだった、落ち着け、落ち着け、あのマネキンは女だったのか、いや、女なのか、いや、裸とはなんぞや、最近髭が伸びないなー・・・


 隆の思考が意味不明なところに飛び始めたころ、指摘を受けた元マネキンは自分の状態を確認すると頬をうっすらと赤く染めながら、黒い闇のようなもので身を覆い衣服を着衣した状態へと変化させた。

 折襟型の黒い軍服に似た服を着た元マネキンは元の人形のような顔をして隆の方へ直立不動となった。


 なんだろうあの軍服は、軍人なのか。あの容姿とはちぐはぐな感じだが、初めて会ったときから終始きびきびとした動きだったし、それが軍人のような動きだったといえば納得か。さてと


「自己紹介したのがずいぶん前に感じますが、改めて。私は水無 隆(みずなし ゆたか)といいます。あなたのお名前をお聞きしてもよろしいですか」


「水無殿、以前は失礼いたしました。何分不完全な状態での召喚でしたので返答できずにおりました。本官に個体名は存在しません。しいていえば、副官兼秘書職能付与型1号機となるかと。加えて、そのように丁寧なお言葉をお使いいただく必要はありませんので、水無殿が普段使うような言葉を掛けていただければ」


「わかったよ。でも、名前が何とか型1号機じゃ味気がなさすぎないか。なにか名前を、副官、秘書・・・そうだゼクティアにしよう。これから君はゼクティアだよ、よろしく」


「ゼクティア、ゼクティア・・、了解しました、水無殿。これより本官の個体名をゼクティアといたします」


 元マネキンは隆に与えられた新たな名前を愛おしそうに数度つぶやき、ゼクティアとなった。


「うん、そうしてくれると嬉しいよ。それとゼクティア、その言葉遣い何とかならない? 何か仕事をお願いしてるときは別にしても、今みたいな普段はもっとフランクな感じでしゃべろうよ」


「いえ、それでは水無殿との関係に相応しくないかと。あくまで水無殿は本官より高位に位置し、指揮・命令を行う立場です」


「ゼクティアは固いなー。それじゃあ、その高位の者としての命令。平時においては対等な関係で会話するように言葉を選ぶこと。それと”殿”はいらないから。隆とでも呼んで」


「了か・・・、わかりました。ゆ、ユタカ」


 ゼクティアは戸惑いながらも、ユタカの命令通りしゃべり方を変えていった。


「ですます調も必要ないけど、そこは追い追い直してもらうか。それで、本題だけどいつまでも外にいると話しづらいからツリーハウスに入ってこない?」


 そうユタカが言うと「わかりました」とゼクティアは返事をしながら、相変わらずの身のこなしでユタカのいるツリーハウスにやってきた。


 こうして改めて近くで見る恐ろしいほどかわいい子だな。しかも、マネキンの頃より背が小さくなったか?


「いらっしゃい、ってほとんどゼクティアが作ってくれた家だけど。早速本題に入ると、まずゼクティアは俺の異能が由来の存在ってことでいいのかな」


「はい。私はユタカの力によって召喚された存在です。召喚といってもどこか別の場所から現れるというより、召喚されて初めて存在が確立するようなものと考えてください」


「へー、あの連中とは違って別の場所から連れてくる召喚ではないのか。それは、とても良いことだよ。無理やり連れてきたなんて言ったらあいつらと同じ穴の狢になっちゃうから。それと、俺の力っていうの? その詳細ってわかる?」


「はい、それをユタカに伝えるのが副官としての職能になります。ユタカの力の名称は『自動人形召喚・指示』となります。内容としては、私のような自動人形を呼び出し、指示を出すことのできるものです」


「おー、なんだか俺みたいに動くのが好きじゃない人向けの能力じゃん。ところで、ゼクティアは何とか型って自己紹介してたことろを見るに、ゼクティアの他にも異なる型の自動人形を複数召喚できる可能性がある力ってこと?」


「さすがですね、ユタカ。この力というものには段階が存在していまして、その段階を進むとより強力な力の行使が可能になります。今のユタカの段階は第二段階といったところです。第一段階で一体の不完全召喚、第二段階で一体の完全召喚といった具合です。この段階が進んでいけば複数体の召喚も可能です」


「ゼクティアのように強力な自動人形を複数召喚できるようになるのか、それはかなり強力な力だな。だけど、気になるのは段階が一つ進んでいたということだな、なにが要因となってその段階を一つ進むことが出来たんだ? 俺が色々試したころは変化がなかった。ゼクティアが完全召喚されたときに何があった、んー、サルもどきの襲撃? そうか、サルもどきの殺傷数がカギになってるのか! でも俺自身は一匹たりとも殺してないことを考えると、俺が倒すというよりゼクティアという俺由来の存在が殺すことで力の段階を進めることができる?」


「はい、あのサルの変異体を殺傷し続けたことで、変異体が保有していた”情報体”が私を通してユタカに流れていきました」


「”情報体”? わからない単語が出てきたけど、今何よりも重要なことは俺が直接サルもどきを殺す必要がないってことだな。よかったよ、最後に出てきたサルもどきの1匹をゼクティアに捕まえてもらって、俺が殺そうかなって思ってたんだ」


「なんて危険なことを! いいですか、ユタカは直接戦闘に関与しないでください。ユタカの体は情報体と違って一部しか改変が行われていないんですから、あの変異体に抵抗されたらすぐに死んでしまいます! いいですねっ!」


 ゼクティアは今までになく感情をむき出しにして声を張りながらユタカに詰め寄っていた。しかし、当のユタカとしてはゼクティアの発した言葉によって気が気ではなくなっていた。


 ん? 「体は情報体と違って一部しか改変が行われていない」情報体は意志とか魂を示す言葉と仮定すれば改変は納得できる、『自動人形召喚・指示』という力が加わったんだから。でも体の改変とはなんだ、改変された部分がわからない。


「ゼクティア。俺の体は何が改変されたか分かる」


「ユタカ、話をそらさないでください。はあ、体の改変は主として肉体年齢の調整です。だから、気を付けてくださいと言っているのです」


 そういわれ、自身の体を見ると若々しい肌に覆われた四肢、スジが全くない爪、そして、腕や足にはあったはずの毛がなくなっていた。


「この世界の人間やものが平均的に大きかったわけではなく、俺が小さかったのか。しかし、若いな。鏡がないからわからないけど、もともと鍛えてないにしてもここまで細くはなかった」


「ユタカの情報体の外殻に関する改変歴から推測すると14歳相当に変更されているようです。あと、筋力的な強化は全くなかったようですが、細菌やウイルス、病気などに対する抵抗力は幾分強化されているようです」


 14歳、中学2年生か。32歳の気分でしゃべってたがその言葉が中坊の口から出てたとなると違和感しかない。とはいうものの、平均的な中学生が話す外向きの丁寧なしゃべり方なんて覚えてないぞ。


「ゼクティアってそんなことまでわかるの? あのホワイトアウト空間にいた機械みたいな奴に近い存在なのかな」


「いえ、ここまでユタカの情報体に関することがわかるのは私がユタカによって召喚された存在だからです。普通は”情報体”を知覚することすらできません」


 その後、ユタカは日が暮れるまでゼクティアから情報を集めた。

 『自動人形召喚・指示』の段階を進めるために必要な生物の殺傷数は、”情報体”の質にも依存するので一概に言えないこと。そもそも、どれぐらいの”情報体”を吸収すれば次の段階へと進むのかはゼクティアにも分からないそうだ。しかし、次の段階でどのような力の強化が行われるかは副官という職能からわかるとのこと。

 そして、ゼクティアを含め自動人形は怪我つまり損傷を受けると軽微なものは瞬時に修復され、体の欠損など重度になってくると召喚状態が強制的に解除され、一定期間再召喚が出来なくなってしまうらしい。


「体が全損すれば一か月ほどは、再召喚はできないかと思います。それでは、ユタカ、夜も更けてきました。私は外に出て、警備を行いますので体を休めてください」


「待って。ゼクティアをずっと外に出して働かせるというのは、俺の心情的にすごい抵抗感があるんだけど」


「しかし、今まではそうしていたではないですか。このツリーハウスも空間的に余裕があるわけでもないですし、私が外にいた方が利点が大きいのでは」


「今まではマネキンだったから気にならなかったけど、こんな美少女の姿でいられると同じようにはできないよ。これも命令ってことで、ゼクティアなら家の中からでも十分に外を警戒できるでしょ」


「・・・命令でしたら、そのようにいたします」


 ゼクティアは美少女と言われて嬉しそうな表情をしながらユタカの命令を受け取った。一方のユタカは、狭い空間にゼクティアと一緒に一晩過ごすことに緊張をしていた。


 俺は大人だ、体は子供だが、大人の精神がある。冷静にいこう、ゼクティアは美少女だが、俺の精神からみれば子供だ、子供。大人として紳士的に・・・


 ユタカは落ち着こうと明け方まで思考をめぐらすことになった。

物語を書く上で悩んだのが名称ですが、本作中に出てくるのはドイツやフランス当たりの古い地名などを適当に選んでみました(安直)。ちなみに「ゼクティア」はドイツ語で秘書に当たるのがSekretärという言葉らしいのでそこからとってみました。おそらく「ゼクルティア」の方が近い?のかもしれませんが、名前としては「ゼクティア」かなと。ドイツ語も全く知らないのでググった結果の知識です。


誤字・脱字、語句の選びの間違いの指摘いただければと思います。

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