13.アリーセばあちゃん
全力でグレンゼ村へ向けて帰還中のゼクティア達はユタカの放つ雰囲気に押され、黙ったまま移動を続け、もうすぐ夕日が沈む時間になるところでグレンゼ村を視界に入れることができた。
「ユタカ! グレンゼ村が見えてきました。異様に明るい! 何かが燃えています」
「クソ! まずはアリーセの家へまっすぐ行く、燃えている家も無視だ。とにかく、アリーセの無事を確認しろ」
「前方に倒れている村人を発見しました」
「気にするな! 捨て置け。とにかくアリーセの家へ」
ユタカたちはアリーセの家の裏手から近づいていたが玄関に回ることさえせず、窓をぶち破り中に入った。
「アリーセばあちゃん! アリーセばあちゃん! どこにいる。マネキン二人は周辺を警戒。他はアリーセを探せ! 早く!」
「「了解!」」
ユタカが指示を出してすぐにゼクティアのユタカを呼ぶ声がし、その声のもとに駆け寄った。
台所から少し離れたところに何かを抱えたままうつ伏せに倒れるアリーセがおり、その小さな背中には短刀が深々と突き刺さっていた。
「アリーセばあちゃん! しっかりしろ。アリーセばあちゃん!」
「ユタカ。すでにアリーセ様の心肺の動きは確認できません」
台所にはユタカたちのために用意されていた肉のスープが竈に残された火によって温められており、人数分の皿の用意がしてあった。
「あんまり遅くならないようにしなよ。坊ちゃんの好きなお肉のスープが冷えちゃうから」
と、ユタカの頭の中に最後に聞いたアリーセの声が繰り返し再生された。
「ぐぅぅぅぅっ!」
ユタカは叫びそうになるのを無理やり歯を食いしばって抑え込んだ。そして、自分の部屋として与えられていた客間へと歩いていき、ベットの布団を顔に巻き声が外に洩れぬよう泣き出した。
その間、ゼクティアは部屋の外に立ち、部屋の外からユタカの警護を続けた。
5分ほどすると目を真っ赤にしたユタカが左手を額に当てながら出てきた。それを見たゼクティアは緊張しながらロイトナンが発見したものをユタカに渡した。
「っ! ユタカ。いえ、水無殿。ロイトナンよりアリーセ様が抱えていらしたものを預かっております。アリーセ様が水無殿にお渡しする予定だったものと思われるためお持ちいたしました」
左手を額に当てたまま何の感情も載っていない、氷のような瞳をゼクティアが持っている単眼鏡に向けながら、抑揚のない言葉を発し始めた。
「その単眼鏡は私が持とう。命令、ロイトナン班は直ちに村の状況を確認せよ。ゼクティアは私の警護を続けろ」
「「了解!!」
ロイトナンは完全召喚されてから初めて見るユタカのルーティンと自己暗示を使った状態での指示を受け、強い緊張感を覚えつつ指示通り村の状況確認を始めた。
しばらくすると、村長宅の付近に集まる賊の姿をした10人程度の集団と村人らしき影を発見した。そして、そのことを直ちにゼクティアに通信を使い報告を行った。
客間の椅子に座りビクともしないユタカに向かい、ゼクティアはロイトナンからの報告を伝えた。
「水無殿、ロイトナン班が賊と村人らしき人影を発見したそうです。いかがいたしますか」
「私自ら状況を確認する。ついてこい。ただし、マネキンは私の後方で建物に身を隠しながら移動してついてこい」
「ですが、・・・了解しました」
ゼクティアが危険性を伝えようとしたが、いまのユタカには一分の隙も無いように思え意見することを控えた。
ユタカはどこからか持ってきた太い枝を持ちながら村長宅へと移動し始めた。そして、村長宅へ近づいてきたところでロイトナン班と合流し、賊たちからも見えるところで立ち止まった。
「なんだあいつら、生き残りがいるぞ!」
「どういうことだ村人は全員殺したはずだぞ」
「いや、待て。あいつらは村の外におびき出したはず、なぜすでに戻ってきている」
なにやら賊同士で話していると賊とは違う格好をした人物が声を出した。
「ユタカ様ー。助けてください、ライマーです。剣を突き付けられ動けないんです」
行商人のライマーが賊に剣を突き付けられながら、前に出てきた。
「おい、てめーら、あいつを切り刻まれたくなきゃ。武器を捨てな」
そう言いながら近づいてきた賊の三人を見て、ユタカはなんの躊躇もなく指示を出した。
「命令、ロイトナン班は接近する敵を殺せ」
「了解」
命令を聞いたロイトナン班は一瞬にして三人を殺した。
「な! てめー。こいつがどうなってもいいってのか」
「ユタカ様。助けてくだ」
「黙れ。そのつまらない芝居をいつまで見せる気だ、愚か者。私が気づいていないとでも思ったかライマー」
「・・・。どうして分かった」
急にいままでとは異なる態度をとり始めたライマーは悔しそうに理由をユタカに問いかけた。
「お前の現れた状況、そのときの賊と先ほど全滅させた賊の動きと武器を見れば分かる。どこに死の覚悟を持ち、統一された装備を持つ賊の集団がいる」
「ちっ! 状況の作りこみが甘かったか」
「愚か者と会話をするのは時間の無駄だ。命令。敵を殲滅せよ。ただし、ライマーのみ生きたまま行動不能にせよ」
「ふん、なんだか前にあった時とは違う雰囲気のガキだな。お前たち包囲しろ!」
ライマーがそう叫ぶとユタカの後ろに影が現れた。ただし、ライマーが思い描いていた武装した賊ではなく、息絶えた状態で首根っこをマネキンに掴まれ引きずられている姿だった。
「だから、お前は愚か者だと言ったのだ。やれ」
ライマー達は精鋭が集まっていたようで意外にも奮戦をしていたが、絶対的な力の差のある5人の自動人形相手には不足だった。
ライマー以外の排除が完了したところで、ユタカはマネキンが拘束していたライマーのそばに行き尋問を始めた。
「俺ぐごぁぁぁ!」
ユタカはライマーが何かを口する前に手に持っていた太い枝を口に突き入れた。
「無駄口をたたくな、私の問いのみに答えろ。拒否する場合はこうする。ロイトナン、こいつの右足のつま先を切り落とせ」
それを聞いたロイトナンは僅かに眉をひそめたがすぐに言われた通り実行した。
「アガァゴォー! グゥゥゥゥッ! ぁぁぁ」
「質問。首謀者は誰だ」
それを聞いたライマーは自分の右足から伝わる強烈な痛みに意識を朦朧としながらも首を横に振っていた。それを見たユタカはマネキンに地面に押し付けるように指示した。
「しゃべる必要はない、地面に指で書け。・・・まだ答える気にならないか。なら、ロイトナン、次は左足のつま先だ」
「グァァァァァッ!」
「ゼクティア、お前の持つ剣をそこの火で炙って熱してこい。こいつの傷口を焼いて出血を止めろ」
ゼクティアはユタカに言われた通り、人形のような表情をしながら言われた通りに措置を行った。
「ギィィィィィッ!」
燃える村によって明るくなった夜空にライマーの悲鳴がこだました。
そして、ユタカの問いに対する答えを弱弱しく固い地面に書き始めた。
「ボイオス伯爵か。次、その理由は」
その後ライマーから動機や計画内容、陣容など聞き出したころにはライマーは両足の膝下がなくなり、地面に文字を書いていた指は爪が剥がれボロボロになっていた。
「ライマー、私は恩には恩を、仇には仇を、を旨としている。そして、お前は仇の方だ。最後に村で会って握手をした時、お前の手は商人の手の固さではなかった。そして、私は忠告した、「よい商いを」と」
そう言ってユタカはマネキンに壊された納屋の柱にライマーを括り付けさせ、燃えている家のそばの地面に差し込み、その周辺に薪を撒かせた。
その様子を確認したユタカは全員を引き連れアリーセの家へと歩き始めた。
「この悪魔め! 絶対殺してやる、クソガキー!」
次第に撒かれた薪に燃える家の火が移り、ライマーからは叫び声しか聞こえなくなった。しかし、それも数分すると聞くことが出来なくなった。
「ふん、私がお前にとって悪魔になったのはお前自身の選択の結果だ」
アリーセの家に着くとユタカはすぐにゼクティア達の手を借りアリーセを自身のベットの上へと移動させた。
「明日、アリーセの埋葬を行う。それまで、各自交代で周辺の警戒を行え」
そう言ってユタカは客間へと入っていった。
「「了解」」
「ふ~、怖かったぜ。なんだあの変わりようは別人じゃねえか」
「覚えているかもしれませんが、以前都市遺跡の中に不完全体を偵察に入れようと私が提案した時、我々を囮みたいに使うことに対して強く忌諱されていました。何とか説得して命令を下してもらったのですが、そのときに我々を囮に使うような冷徹な判断ができるようにルーティンと自己暗示を使って作り上げたのがあの状態のユタカです」
「そんなこともあったな。その時は個として独立してなかったから感情的な部分で感じることはなかったが、完全召喚された状態で前にするとこえーな。だが、あの状態での指揮は的確で無駄がなく、命令に従っていれば何の問題もないって感じにさせるものがあったな」
「はい。私からお願いしたことですが、本当に我々や敵を将棋かチェスの駒のように見て、盤上から指しているように感じます。だからか、周囲に対する観察力や落ち着きは目を見張るものがあります。ですが、普段のユタカとの乖離が大きすぎるような気がします。通常、自己暗示はあれほどまでに思考を変化させることは出来ないはずです。無理やり異世界に召喚され後、すぐに森で殺されかけた経験がユタカの何かを変えてしまったのかもしれませんが、副作用のようなものが不安であんまり多用してほしくないと思ってしまいます」
「ま、そこは俺らがいかに今回みたいなふざけた状況にならないようにするかってことだろう。二度とあの婆さんのようにユタカから身近な人を奪わせない! これは、お前や俺やこれから加わる自動人形の全てが心に刻み込むべきことだ」
「ええ。二度とないように一層の努力を誓いましょう」
長い一日が終わり再び日が昇った。
「おはよう、みんな。昨日は取り乱してごめん。いやー、さすがにアリーセばあちゃんのことは効いた。今日はアリーセばあちゃんのお墓を作って村を出るよ。その前に、アリーセばあちゃんの家で最後の朝ご飯を食べよう」
朝起きてきたユタカは普段となんの変わりもなく飄々と昨日のことと今日の予定を語った。その姿を見たゼクティアは一瞬なにか言いたげにしていたが、朝食の準備を始めた。
「これは昨日アリーセ様お作りになっていた肉のスープです。アリーセ様の最後の料理ですのでいただこうかと思います」
「そうだね。アリーセばあちゃん、いただきます」
ユタカはアリーセのいつも座っていたダイニングテーブルの端、台所のそばの席を見た後、ゆっくりと肉のスープを食べた。
「アリーセばあちゃんが作った肉のスープはやっぱりうまいな」
アリーセの席の方へ向かってそう言った後、しばらく顔を天井へ向けていた。
「よし! アリーセばあちゃんには世話になったから不格好な墓は作れないな。時間が掛かってもいいから、今作れる最高の墓を作ろう」
「ユタカ、まず報告しなければならないことがあります。昨晩のうちに報告するべきことでしたがあのような状況でしたので、今朝まで延ばしておりました」
ゼクティアはスッっと立ち上がったあと直立不動になり人形のような表情となった。
「水無殿、『自動人形召喚・指示』の段階が進行したことをご報告申し上げます。現在行使可能な力は、完全体3体の召喚、不完全体5体の召喚となります」
次回は10月28日午前0時の投稿となります。
誤字・脱字、語句の選びの間違いなど指摘いただければと思います。




