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10.農村

 森を脱出し、眼前に広がる草原を眺めていたユタカにゼクティアが声を掛けてきた。


「おめでとうございます、森の脱出は叶いましたね。それでは次の目標は人里の発見ですね」


「ああ、ありがとう。これもゼクティアをはじめとしたみんなのおかげだよ。もし、みんながいなかったらここにはこれなかった。本当にありがとう。この後はゼクティアの言った通り、人里を見つけてこの世界についての情報を集めたい。俺たちは自分たちのいる世界についてあまりにも知らなすぎる。いまどこにいるのか、どんな人たちがいるのか、国があるのか、勢力図は、帝国とは」


「わかりました。当面はそれらの情報の収集を目標に行動します。まず初めに、この付近にある人里の発見のために周辺の探索を行いたいと思いますが」


「そうだね、このままみんなでこの遮るものの少ない草原に出るのは危険だ。まずは、周辺をロイトナン班に探ってもらおう。では、ロイトナン、周辺の偵察を命令する。森と比べて危険な生物の気配はないけど、十分に警戒すること。あと、誰か人を見つけてもむやみに接触せず様子見に徹すること」


 いつもは飄々とした感じのロイトナンはユタカの命令を聞くと敬礼をしながら返事をした。


「はっ、了解」


 返事をして部下の二人のマネキンを伴い、草原へと踏み出していった。残ったユタカとゼクティア、マネキンは森と草原の境目で、何かあればすぐに森に戻れる状態で待機していた。


「念願の森からの脱出が叶ったのに安心して隠れていられる場所が森ってのも皮肉な話だな」


「仕方ありません。草原にどんな危険があるか分からないのに対して、我々は森の危険については相当程度理解が進んでいる状態です」


「確かに、森はなんだかんだ生きていく分にはいいところだったけど、もう少し文明的な生活を送りたいって思うのは人間のさがだよ。そろそろ、布団で」


「すみません、ロイトナンから連絡が来ました。集落とそこから少し離れたとこで畑仕事のようなことをする高齢女性を発見したそうです。いかがいたしましょうか」


 こんな田舎みたいな場所で畑仕事をする婆さん、状況的には非常に牧歌的な感じがするな。この世界で初めて話しかける人物としては無難だな。この世界の婆さんが見境なく襲ってくるようなすごい攻撃的な習性を持っているってことはないだろう。


「俺が話しかけてみよう。年寄りは子供に対して優しいことが多いのはこの世界でも同じだということに賭けよう。でも、念のため護衛としてゼクティアが一緒に来て」


「わかりました。それでは向かいましょう」


 婆さんを観察しているロイトナンのところに合流すると、状況が変化しようとしていた。


「ユタカ、向こうから一つ、いや二つの集団があの婆さんと集落の方に向かって移動してるぜ。どうする」


 ユタカがロイトナンの報告にあった集団の来る方向を見ると砂埃を挙げながら集落の方へ向かっていく、一台の馬車と3騎の武装した騎馬の姿が見えてきた。


「うわ、なんともありがちなシチュエーションだな。テンプレ通りなら先頭の馬車は商人か行商人で、後ろの騎馬は賊の類か。こんな状況が俺たちが来て早々起こるのか、っていう感想はあるがロイトナン、マネキンを連れて武装している騎馬を撃退しろ。まだ状況がよくわからないからできれば死人を出さずに済ませられるようだったらそうしてくれ。無理なようなら油断なく、躊躇いなく敵を殺せ!」


「了解」


 ロイトナンは接近する馬車と騎馬の間に割って入り、武器を捨てるように大声で通告した。


「お前ら、死にたくなかったら武器を捨てて投降しろ!」


「なんだか妙な恰好した奴が現れました。どうします、隊長」


「とりあえずあいつを殺してそのままアジトに帰るぞ」


 そう言ってロイトナンに向かって槍を突き出し、走ってきた勢いのまま串刺しにしようとした時、ロイトナンの体術によって先頭を行く賊は槍を抱えたままう落馬してしまった。それを見ていた後続の賊は槍で刺すのではなく、槍の投擲に変えようとした瞬間、そばの草むらから飛び出してきたマネキンに騎乗したまま後ろをとられ、あえなくマネキンとともに落馬することになった。


 ロイトナンが最初に落馬させた男の首を足で押さえつけ、尋問を開始しようとした。


「おい、てめーらは何者だ。答えろ!」


 当の男は首が動かせない状況の中、目だけを動かし周りの状況を確認したとたん、口から泡を吹きだし痙攣を始めた。


「すみません、助かりました。近くの村に行商をしに向かっていたのですが、途中で賊に追いかけられてしまい、ヒィッ!」


 賊の襲撃を受けていた行商人が馬車を止めて、ロイトナンのそばにやって来ていた。


「ちっ、自決しやがった。おう、お前は無事みたいだな」


「すみません、変な声を出してしまい。死体を見たのは初めてでしたので、思わず。それで、あなた様は傭兵か何かでいらっしゃるのでしょうか」


「俺か? 俺は~、なんだろうな説明しづらいな。今から来る俺らのリーダーに話をしてもらってくれ」


「リーダー?」


 ユタカは戦闘の終了をゼクティアから受けた後、現場に向かって歩いていた。


「ユタカ、ロイトナンの報告によると賊は尋問しようとしたとたん、全員が自決したそうです。なお、追いかけられていたのは行商人だそうです。なお、行商人を名乗る男は特に武器を持っていません」


「賊が全員、自決? ふ~ん。その行商人が武器とか持っていないなら俺が直接話をしてみようか。ゼクティアは一緒に来て。ほかのみんなは賊の所持品で有用なものがあれば回収しておいて」


「わかりました。お供いたします」


 ユタカとゼクティアはロイトナンに話しかけている行商人へと話しかけた。


「どうもこんにちは、お怪我はされていませんか。ご無事なようで何よりです、あなたはこのあたりを回ってらっしゃる行商人の方ですか?」


 ユタカが外向け用のしゃべり方で話しかけると行商人の男は、パジャマ姿の14歳の子供に不審な思いを抱きながらも笑顔で答えた。


「君が、いや、あなたがこの方がたのリーダーですか? 先ほどは助けてくださり誠にありがとうございます。私は行商人をしておりますライマーと申します。この辺りは新たな市場開拓を、と思いやって来たのですがいきなりこのようなことになってしまいました」


「そうでしたか、ライマーさん。私はユタカと申します。我々も初めてこのあたりに来まして、この先の村に行こうとしたときに追いかけられてるライマーさんをお見かけした次第です。どうです、このまま一緒に村まで行きませんか」


 なんだこの子供は子供に似つかわしくないしゃべり方だ。それに、ともに連れている美しい少女や等身大の白い人形といい、何者なんだ。


 ライマーはますますユタカを不審に思いつつも、共に村に行くという提案に乗った。


「ライマーさんは何を運んでらっしゃるのですか?」


「今は塩と農具一式、衣服なんかを運んでいます。何分初めての村ですので、様子見のためにまずは無難なものをと思いまして」


「なるほど、まずは消費者の経済状況やニーズの確認が必要ですもんね。おっと、すみません。あそこのおばあさんに話掛けてきていいですか」


 ユタカはゼクティアを伴って、こちらの様子を窺っていた高齢女性のもとへ行った。


「ユタカ様は商いをされている方なのですか。なんだか、商人の話に出てくるような単語をお使いになっていましたので」


「いや、ユタカは特に商売をしてたってことはないはずだ」


 その割には、使う言葉が商人のそれに近いものを感じる。話す内容と外見が一致しなさすぎる。


 ライマーが混乱した様子でユタカを待っていると、ユタカが年相応の笑顔で高齢女性と話しながら戻ってきた。


「すみません、お待たせしました。この方はこの先の村に住んでるアリーセさんです。アリーセばあちゃん、この人はこのあたりに初めてやって来た行商のライマーさんだよ」


「よ、よろしくお願いします。私は行商をしておりますライマーです。この後皆さんの村に立ち寄らせていただこうかと思っておりました」


「ほ、ほ、ほ。なんじゃ。ユタカ坊ちゃんたちが来たと思ったら、行商さんも来たのかい。今日はにぎやかになりそうだねー」


 ニコニコしながらしゃべるアリーセとユタカを観ながらライマーとロイトナンは状況についていけていなかった。


「おい、ゼクティア! あの数分で何があった。ユタカと村人が孫と婆さんみたいな感じで話し込んでるぞ」


「・・・これがユタカが言うには「年寄りは子供に対して優しいことが多い」の典型例だそうです」


「ユタカは完全にガキの姿をうまく使っているな。あざといというか、なんというか。これで中身が30代のおっさんなんだから、詐欺だな」


 アリーセの案内のもと村へと到着したユタカたちはライマーと別れ、アリーセの家へと向かっていた。


「ありがとう。アリーセばあちゃん! 急に来たのに家に泊まらせてくれて」


「いいんだよ、坊ちゃん。わたしゃ独り暮らしだから、にぎやかになってうれしいのさ。いつまででもいていいんだよ」


「そうだ、ばあちゃん。泊まらせてくれるんだから何か手伝うよ。何でも言って、力仕事はそこのロイトナンの大好物なんだ」


「ちょっ、おいユタカ。そんなの俺の好物じゃない」


 すすっと、ロイトナンのそばに寄ったユタカが、

「中身が30代のガキの姿をした詐欺師は一度言われたことを根に持つらしいよ」

 とぼそぼそっとつぶやいて、アリーセのもとへ走って行った。


「な! ユタカの奴、聞いてたのか」


「自業自得です」と言いながら哀れみに満ちた視線をゼクティアが送っていた。

次回は10月7日午前0時の投稿となります。


誤字・脱字、語句の選びの間違いなど指摘いただければと思います。

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