第10話 弱気な理由
第10話 弱気な理由
「なあ、レナード、ランス。ライナを食堂まで連れてってくれないか? メイド達は司令室とかの定期メンテナンスをやってる最中でさ。俺も、ちょっと姉さんと話があるから」
「ああ、わかった」
「おう! ライナちゃん、こっちだよ」
「うん」
すたすたすた
あー…。
「…あいつらのアバター名、今知った、って顔してるな」
「うえ!? いや、そ、そんなことはないよ? うん、レナード…くんと、ランスくんね!」
背が高いドラゴニュートなアバターが、レナードくん。ちょっと悪っぽい雰囲気のロードのアバターが、ランスくん。うん、覚えたよ! 今ね!
「で、リアルの名前は? 俺、姉さんの前で何度かあいつらを呼んだことがあるんだけど」
「ごめんなさい、お友達の名前は一切関心がありませんでした」
「謝らなくていいけどさ。でも、関心がないことだと、とことん頭が回らないのな、姉さんって」
かも、しれない。私の容姿がどうとかさ。実際、ユリシーズさんに言われたことも、私は半分も理解していなかったらしい。こないだシメた時に、あらためてそう言われた。
あーあ。最近の私って、なんかこう、ダメダメだよね。もしかすると、拓也が割としっかりしていることを知って、相対的に私自身のダメなところが見えてきたのかもしれない。
あと、ミリアナとしてもコナミとしても、ソロ一辺倒だった時より他のユーザとの関わりが多くなったというのもある。ひとりだと気づかない、残念な自分を客観的に知る機会が増えたのだろう。それ自体は、いいことなのかもしれない。しれない、けど…。
「まあ、姉さんらしくていいけどな、そういうところも」
「…慰めて、くれるの?」
「そうじゃねえって。なんだよ、ずいぶん弱気だな。爆弾投げて誘拐犯を『討伐』してくれた姉さんは、どこ行ったんだよ」
「いやあ、アレもやり過ぎたかなあって」
「いまさらかよ」
爆弾かあ。ああうん、もしかすると、リナちゃんのこともまだ引きずっているのかもしれない。リナちゃんは結局、拓也のことただのクラスメートだと思っているみたいだけど、でも、まだまだわからないよね。
…うん、やっぱり私、嫉妬してるんだ。せっかく仲良くなれた拓也が、他の娘との関わりが多くなって、また疎遠になるのがイヤなんだ。しかも、レナードくんとランスくん…だったっけ、あのふたりと仲良くしていてもなんとも思わないあたり、最悪だよ。
ああはい、ブラコンですよ。自覚しましたよー。…あーあ、『あのこと』がはっきりしたら、もうちょっと素直になれるのかもしれないけどなあ。でも、私からは言えないよ。拓也はそのことを、私のためを思って黙っているんだし。
「…くっそ。前島の野郎の真似ができたら…とか思う日が来るなんて」
「え? 前島さん?」
「なんでもねえよ。ほら、行こうぜ。紅茶だけじゃなくジンジャーエールもあるからさ」
「…私が、ジンジャーエールさえあれば御機嫌だとか思ってない?」
「思ってるかも」
「もう!」
◇
かちゃっ
「…なるほど。じゃあ、結構うまくやってるんだ。お姉さんと霧雨くん」
「本人達はそうは思ってないみたいだけどな。気を遣ってるところが見え見えで」
「お互いにうまくやりたいと思ってる時点でアレだけどな。微笑ましい姉弟だわ」
ことっ
「でも…どう見てもあのふたり、血がつながってるように見えないよね?」
「まあなあ。隔世遺伝とか言われたって、誰も信じねえぞ」
「そこら辺はもう、昔から噂が飛び交ってたみたいだな。俺の両親も言ってた」
「霧雨家といったら、市内でも有名だしな。前島邸とは、また別の理由で」
「そうなの? 私は本社近くの実家から通っているからよくわからなくて」
「すごかったみたいだぞ? 今の御両親があのふたりを引き取ってきた時は」
「え、そのことって、御近所どころか、市内全域で知られているの?」
こぽこぽこぽ
「知らないのは、お姉さんくらいだな。俺達も実際に会ったのは最近だけど」
「そっか…。私はお父さんやユリシーズさんに聞いて、疑ったりもしたけど」
「お姉さんってとんでもなく優秀だけど、自分のことは無頓着なんだって」
「拓也が言ってたな。身だしなみとかは、あくまで常識の範囲らしいぜ」
「それって、お姉さんが完璧に自覚して、自分自身を良く見せようとしたら」
「『ミリアナ・レインフォール』が太刀打ちできないレベルになるな」
「うわー、そんなことになったら、ヘラルドがキレそう」
すたすたすた
「俺がなんだって?」
「いや、なんでもない」
「そうそう」
「ふたりの分も紅茶入れたよ。一緒に飲も」
「あ、そこの棚からジンジャーエールも出してくれ」
「ちょ、ちょっと拓也!」




