第56話 誘拐
ある意味いろいろと不発に終わった、私の素性に関する件。拓也には全く進展がなく、私にはますます謎が増えてしまった。はー、現界絡みの不可思議な『意識』に加えて、現実の私自身が謎を抱えているなんて…。
それはともかく。
「終わりよ! 『電撃来氷』!!」
「ぐはっ」
「がっ」
日曜日の昼下がり、みなさまいかがお過ごしでしょうか。
私は、通算13回目の防衛戦に臨んでおります。瞬殺ですけど。
「はあ…つまんない。もう、ログアウトしちゃおうっと。当番じゃないけど、夕食は私が…」
ぽーん
「え、ユリシーズさん?」
『き、霧雨さん、大変です! 拓也くんが…誘拐されました!!』
「…なんですって!?」
なに!? なにがどうなって、そんなことに!?
「そ、それがどうやら、現実世界で『ミリアナ・レインフォール』と生身の拓也くんが会っているところを見られたらしく…」
現実世界で? 確かにこの間、拓也の部屋に『現界』したけど…。
あっ、そういえばあの時、窓のカーテンが開いていたような。もしかして、ウチが監視されていた!?
「誘拐犯からの要求は、当然ながら『ミリアナ・レインフォール』本人です。それも…」
「なに!? まだあるの!?」
「いえ、『必ずログアウトして、現実世界の姿そのままで来い』と…」
「…そういうこと」
…わかったわよ。
行くわよ。行けばいいんでしょ?
拓也、今、助けに行くよ!
◇
ある市の郊外にある、廃ビル。
銃を持った男二人に、縄で縛られた少年がひとり。
ぎしっ
「いい加減、縄をほどけよ! 俺が現界中のミリアナと会っていたのはたまたまだ!」
「ふん。たまたまで、貴様の自室に『現界』するはずがないだろう? よほど親密でなければ…」
「んなことねえって! そりゃあ、お互いが気になってることで、話はしたけど…」
かちゃっ
「それだけで十分だ。あまりうるさいと、頭をぶち抜くぞ? 死んだとしても、お前が寝ていると思わせればいいんだからな」
「くっ…」
がたんっ
「ふん、来たか…な、なに!?」
「おい! ミリアナ本人が来いっていったんだぞ!? なんで、お前が!」
ざっ
「あら、私のこと知ってるの? それは光栄だわ」
「ね、姉さん…?」
「拓也、無事!? ユリシーズさんに聞いて、飛んできたよ!」
「くっ、こうなったら、お前も人質にするまでだっ!」
たったったっ
「『ボム』!」
ドガアアアアアアアアアアアンッ――――
「ごふおぁ!」
「な、なんだ、今の!?」
「あら、ゲームの中の私、生産&調合トッププレイヤー『コナミ・サキ』のことを知ってたんじゃなかったの?」
「な、なに、が…?」
「ミリアナは、他のアバターを連れて現実世界に転移できるのよ! 今の私も『現界』アバターよ!」
「そ、そっか、姉さん、現実の姿と全く同じアバターだから…!」
と、いうことにした。
いやでも、まるで嘘はついてないねえ? 犯人の要求にも従ってるし。あ、ログアウトはしてないなあ。それは些細なことだ。
「『暴発』エンチャントの魔石、たっぷりと食らいなさい! 『ハイ・エクスプロージョン』!」
ドゴオオオオオオオオオオオオオッ―――
ガシイイイッン
ガンッ
…
……
………
「かふっ…」
「おお…」
よし、死んでない死んでない。ぴくぴくしているだけだ。手加減したからね!
「うん、討伐完了!」
「と、討伐って…。姉さんってもしかして、ミリアナの攻撃スキルに匹敵する装備が揃ってるんじゃ…」
「そうだよ? あと、HP上昇アイテムは私も持ってるからね。ドラゴンブレスの1回や2回じゃあ私のHPはなくならないわよ」
「えええ…」
「欲しくなった? 格安で売ってあげようか」
「ぜ、ぜひ…」
◇
「失敗、しただと…?」
「はい。まさか、姉が『現界』した上に、あれほどの攻撃力をもっているとは…」
「油断したか…。いや、次は、その姉を生身の時にさらって…!」
ピシッ
ゴゴゴゴゴゴ…
「な、なんだ!? 何の音だ!?」
「ビル全体が、傾いて…!?」
ズシャアアアアアアッ
ズンンンンンン―――…
…
……
………
◇
バー『雨宿り』。
この店には一応、現実世界のニュース映像も映し出せるスクリーン設備がある。
『昨日、◯◯国首都近郊で直下型地震が発生した模様です。いくつかのビルが倒壊し、一部には鋭い切れ目も入っていたことから、ビルの材質に問題が…」
ピッ
「なあ、姉さん、今のって…」
「うん、ミリアナが◯◯国の諜報組織を壊滅させたって。まあ、他の国からも散々嫌われていた組織だったからね、どこからも文句は出ないでしょ」
「はあ…」
これで、ウチの監視をしている連中も撤退するでしょ。はー、さっぱり。
「あ、マスター、ジンジャーエール」
「だから、飲み過ぎだと言ってるだろう?」
そう?




