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第56話 誘拐

 ある意味いろいろと不発に終わった、私の素性に関する件。拓也には全く進展がなく、私にはますます謎が増えてしまった。はー、現界絡みの不可思議な『意識』に加えて、現実の私自身が謎を抱えているなんて…。


 それはともかく。


「終わりよ! 『電撃来氷(サンダーストーム)』!!」

「ぐはっ」

「がっ」


 日曜日の昼下がり、みなさまいかがお過ごしでしょうか。

 私は、通算13回目の防衛戦に臨んでおります。瞬殺ですけど。


「はあ…つまんない。もう、ログアウトしちゃおうっと。当番じゃないけど、夕食は私が…」


 ぽーん


「え、ユリシーズさん?」

『き、霧雨さん、大変です! 拓也くんが…誘拐されました!!』

「…なんですって!?」


 なに!? なにがどうなって、そんなことに!?


「そ、それがどうやら、現実世界で『ミリアナ・レインフォール』と生身の拓也くんが会っているところを見られたらしく…」


 現実世界で? 確かにこの間、拓也の部屋に『現界』したけど…。

 あっ、そういえばあの時、窓のカーテンが開いていたような。もしかして、ウチが監視されていた!?


「誘拐犯からの要求は、当然ながら『ミリアナ・レインフォール』本人です。それも…」

「なに!? まだあるの!?」

「いえ、『必ずログアウトして、現実世界の姿そのままで来い』と…」

「…そういうこと」


 …わかったわよ。

 行くわよ。行けばいいんでしょ?


 拓也、今、助けに行くよ!



 ある市の郊外にある、廃ビル。

 銃を持った男二人に、縄で縛られた少年がひとり。


 ぎしっ


「いい加減、縄をほどけよ! 俺が現界中のミリアナと会っていたのはたまたまだ!」

「ふん。たまたまで、貴様の自室に『現界』するはずがないだろう? よほど親密でなければ…」

「んなことねえって! そりゃあ、お互いが気になってることで、話はしたけど…」


 かちゃっ


「それだけで十分だ。あまりうるさいと、頭をぶち抜くぞ? 死んだとしても、お前が寝ていると思わせればいいんだからな」

「くっ…」


 がたんっ


「ふん、来たか…な、なに!?」

「おい! ミリアナ本人が来いっていったんだぞ!? なんで、お前が!」


 ざっ


「あら、私のこと知ってるの? それは光栄だわ」

「ね、姉さん…?」

「拓也、無事!? ユリシーズさんに聞いて、飛んできたよ!」

「くっ、こうなったら、お前も人質にするまでだっ!」


 たったったっ


「『ボム』!」


 ドガアアアアアアアアアアアンッ――――


「ごふおぁ!」

「な、なんだ、今の!?」

「あら、ゲームの中の私(・・・・・・・)、生産&調合トッププレイヤー『コナミ・サキ』のことを知ってたんじゃなかったの?」

「な、なに、が…?」

「ミリアナは、他のアバターを連れて現実世界に転移できるのよ! 今の私も『現界』アバターよ!」

「そ、そっか、姉さん、現実の姿と全く同じアバターだから…!」


 と、いうことにした。

 いやでも、まるで嘘はついてないねえ? 犯人の要求にも従ってるし。あ、ログアウトはしてないなあ。それは些細なことだ。


「『暴発』エンチャントの魔石、たっぷりと食らいなさい! 『ハイ・エクスプロージョン』!」


 ドゴオオオオオオオオオオオオオッ―――

 ガシイイイッン

 ガンッ


 …

 ……

 ………


「かふっ…」

「おお…」


 よし、死んでない死んでない。ぴくぴくしているだけだ。手加減したからね!


「うん、討伐完了!」

「と、討伐って…。姉さんってもしかして、ミリアナの攻撃スキルに匹敵する装備が揃ってるんじゃ…」

「そうだよ? あと、HP上昇アイテムは私も持ってるからね。ドラゴンブレスの1回や2回じゃあ私のHPはなくならないわよ」

「えええ…」

「欲しくなった? 格安で売ってあげようか」

「ぜ、ぜひ…」



「失敗、しただと…?」

「はい。まさか、姉が『現界』した上に、あれほどの攻撃力をもっているとは…」

「油断したか…。いや、次は、その姉を生身の時にさらって…!」


 ピシッ


 ゴゴゴゴゴゴ…


「な、なんだ!? 何の音だ!?」

「ビル全体が、傾いて…!?」


 ズシャアアアアアアッ


 ズンンンンンン―――…


 …

 ……

 ………



 バー『雨宿り』。

 この店には一応、現実世界のニュース映像も映し出せるスクリーン設備がある。


『昨日、◯◯国首都近郊で直下型地震が発生した模様です。いくつかのビルが倒壊し、一部には鋭い切れ目も入っていたことから、ビルの材質に問題が…」


 ピッ


「なあ、姉さん、今のって…」

「うん、ミリアナが◯◯国の諜報組織を壊滅させたって。まあ、他の国からも散々嫌われていた組織だったからね、どこからも文句は出ないでしょ」

「はあ…」


 これで、ウチの監視をしている連中も撤退するでしょ。はー、さっぱり。


「あ、マスター、ジンジャーエール」

「だから、飲み過ぎだと言ってるだろう?」


 そう?

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