第36話 オフライン
天空城ミストライブラ。
拓也のアバター『ヘラルド・ミストライブラ』が所有することになった、ユニークウェポン…いや、ユニーク施設だ。
ギルメンの要望もあって、しばらくギルド『神々の黄昏』のホームの上空に鎮座…座ってないけど、これみよがしに浮いていた。
なのだが、さすがに一週間もずっと浮いていると、あちこちからやっかみも受けるようになる。普通のユーザも少し頑張ればギルドホームが手に入るわけだが、さすがに城はないだろう。運営へのクレームはないが、まあ、いろいろと不満も噴出してくる。
「とかいって、ミナはメイドさん達のことが一番気になるんじゃないの?」
「なんのことなのかな、前島さん? それとも、前島さんもメイドさん欲しいの?」
「え、いや、そんなこと…。ミナ、なんか怖いよ?」
「そんなことないよ? あるわけないじゃない」
「姉ちゃん、まだ機嫌悪いのかよ…」
「別にー? 私が機嫌悪くなる理由ってどこにもないよね? ねえ、拓也?」
「…うう」
では、城は今どこにあるかというと…『フォークロア・コーポレーション』上空である。つまり、現実世界に『現界』させたままなのである。
そんなことしたら、いくらなんでも大騒ぎになるだろうと思ったら、城の基本機能として、認識阻害魔法が利用できるのだそうだ。もちろん、その魔法も『現界』して、現実世界で機能している。
それなら、ギルドホームの上空のままで認識阻害かければいいじゃないかって話になるのだけれども、現実世界での顕現常態化を希望した人々がいた。他ならぬ、運営会社である。
「おおお…! わ、我々が作り上げたNPCが、現実に…!」
「あの、天上の方々ということは承知しておりますが、我々に何かを御要望なら、御主人様を通していただかないと…」
「ああ、ああ、もちろんだ! その思考パターンも含めて、現実の人間との違いをぜひ比較研究してみたいものだ!」
城の大ホールは、技術スタッフによるお祭り騒ぎモードだ。そりゃあそうだろう。現実の人間の操り人形でしかないアバターやモノでしかない装備が現実化しただけでなく、『プログラムやデータとして自ら作り上げた仮想の人間』が現実化したのだ。これに興奮せずになんとする、という勢いである。特に、男性スタッフの方々が。とりあえず、セクハラ禁止。
「こちらもなかなかいいわね…。霧…おっと、ミリアナの男性の趣味って結構悪くないよね」
「そうね、渋いおじさまのツボを心得ているって感じで」
「あの、私はバーテンダーの仕事しかできないよう設定されていますので、何かを期待されましても…」
「「それがいいのよ!」」
ついでに連れてきた、バー『雨宿り』のマスターも、城と一緒に『現界』してもらったら、女性スタッフが興味津々だ。とりあえず、こちらもセクハラ禁止。ていうか、私の趣味って何よ。
「しかし、ここまで来たら、試してみたいですね」
「何がですか、ユリシーズさん?」
「こうして『現界』したまま、『ファラウェイ・ワールド・オンライン』がメンテナンスに入ったら…ということですよ」
「「「あ」」」
ユリシーズさんのその言葉にはっとする、私、霧雨美奈子、弟の拓也、私のクラスメートの前島優希の面々。
仮想世界の、完全オフライン…本当に、そんなことが?




