第33話 特殊クエスト
教会、遺跡、村々を回ってみたが、特に何もなかった。特殊クエストのフラグどころか、NPCにもユーザアバターにもほとんど会うことがなかった。
遺跡から村々に移動する途中の森で、MPハイポーションを作るための薬草をたっぷり見つけたので、ほくほくではあるが。あと少し回ったら、マイホームで大量生産しよう。もちろん、次の大規模攻略に備えて。大幅アップデート、まだかなあ。
村から街に戻る途中で、それを見つけた。
「あれ? これって…」
人ひとりが通れる程度の、小さな扉。最終クエストの攻略によって開放された、『転移門』のひとつ。それが、木々の合間にひっそりと佇んでいた。
こうして、もともと何もなかったところに出現すること自体は、多くはないが、珍しくもない。ただ、この手の『野良』の転移門は、どこに飛ばされるかわからない。一度転移が発動したら、次の転移は全く別のところに飛ばされることさえある。
ある程度の大きさならば、その先にある未知のものを求め、パーティを組んで万全の体制を整えるだけの価値がある。しかし、これほど小さいと単独で入るしかない。
「つまり、ユニークウェポンがドロップする特殊クエスト発動が期待できるわけか…」
かなり確信めいた予感を覚えながら、私は扉に手をかける。
【―――――――――――――――。――――――――――――】
私だけに聞こえる、個別アナウンスが聞こえる。
ふむ。
なるほど。
◇
エリア1市街地の裏路地、バー『雨宿り』。
「じゃあ、彼は…」
「ああ、高い情報料を払って買っていったよ」
「そう。この店に誘導するまでが大変だったけど、なんとかなったみたいね」
あの扉は、確かに特殊クエスト発生のフラグだった。ユニークウェポンがドロップするという確かな証拠はなかったけど、まあ、未攻略情報なんてそんなものだ。
バー『雨宿り』のマスターが、ユニークウェポンに関わる特殊クエストの情報をもっているらしい。そういう噂を、ギルド『神々の黄昏』の関係者だけに流す。店にやってくるお客を吟味して、マスターからそれとなく匂わせるのはなかなかに地味な仕事だ。拓也…ヘラルドにうまく伝わるかはわからなかったし、伝わっても活用しようとするかはわからない。
一応、ヘラルド以外には情報を渡さないようにはマスターにお願いしていたけど、今回に限ってはうまくいったようだ。私が露骨に贔屓するような形になってもダメだし、かなり遠回しに進めた。前島さん…ユーマの件と併せて特別扱いするようなことを私がしたと広まったら、ユーザの間に不信感が出てしまう。運営側も困るだろう。
「他のギルメンと一緒に店に来たが、ギルマスがユニークウェポンを入手するのにずいぶんと協力的だったよ」
「そう、なの…」
ギルマスを出し抜いて先に攻略してしまおうとしても不思議ではない。ゲームユーザとしてのギルメンは、別にギルマスの部下というわけでもない。でも…えっと、まさか、ヘラルドがギルド内で『どうしても欲しいんだよ!』と駄々をこねまくってきたとかじゃないよね? こないだの友達との様子を見ているとねえ。
からんからん
「いらっしゃい。…おお、アンタか。注文は?」
「…ジンジャーエール、だな」
…ヘラルド!?
え、拓哉もジンジャーエール好きだったっけ? いや、そういう話ではないか。挙動不審になりそうなのをぐっとこらえ、あらためてフードを深くかぶって椅子に座り直す。
ギルメンふたりとやってきた拓哉…ヘラルドは、カウンターのマスターに向かって注文をして…突然、ふっと振り返る。
「…アンタのおかげで、手に入れたよ。ミリアナ・レインフォール」
「!?」
あっさりバレた。なぜに…とは言えないか。このエルフ耳は目立つ。目立つ容姿を選んでおいて、あえて姿を隠すユーザはほとんどいない。相応の理由がない限り。私には、理由があった。
フードをとり、顔を晒す。
「…こうして直接顔を合わせるのは、初めてだよね」
「ああ。お互い、ワールドアナウンスの常連なのにな。まあ、俺は『神々の黄昏』ギルマスとしてだが」
ごめん、常連だったのは知りませんでした。いやだって、オンライン通知を切ってるとワールドアナウンスも聞こえないんだもん。一応、後でログをざっと見るけど、それだって適当だ。たぶん、前島さん…ユーマも常連なんだろうなあ。
「まさか、魔物討伐を伴わないクエストだとは思わなかった。さすが特殊といったところか」
「そうだったの?」
「知らなかったのか?」
「私は、扉を開けてないから」
「なのに、ユニーク装備がドロップすると確信したのか…」
勘が働いたのは確かだ。ヘラルドが扉に手をかけた時、たぶん、こういう個別アナウンスが流れたはずだ。
【アバター名『ヘラルド』が特殊クエストを開始しました。『封印されし地』への転移門を開放します】
私の時は、そのまま扉を開けずに放置して、タイムアウトで終了した。
だが、『封印』という、いかにもなキーワードが出てきたわけで。そして、扉はひとりしか通れない。そういうことだろうなあと思ったわけだ。
「いずれにしても、助かった。礼を言わせてくれ」
「情報料は払ったんでしょう? それなら、礼なんて」
「いや、そういうわけにはいかないんだ。なにしろ、俺はこれで念願の…」
ぽーん
あれ? 現実世界から連絡?
『「ミリアナ・レインフォール」に緊急クエストです! 資料を送りますから、すぐ現場に向かって下さい!』
「ちょ、ちょっと、ユリシーズさん…」
うわあ、こんなタイミングで。ユリシーズさん、私がゲーム内ではいつもぼっちとか思い込んでない?
「おい、緊急クエストってなんだ?」
「そ、それは…」
『そこにいるのは、ヘラルドくんですか? 聞かれてしまいましたか…』
まあ、いずれは話す予定だったことだ。それが今回だったということで。でも、他のギルメンもいるのはまずいかなあ。
「見せてみろよ、パーティ攻略が必要なクエストなら、俺達も参加するぜ! なあ!」
「ああ!」
「ミリアナ・レインフォールとパーティ組めるなんて、みんなに自慢できるぜ!」
いや、そういう話では…。
「それに、手に入れたユニーク装備…いや、ユニーク設備と言った方がいいか。早速役に立つかもしれない」
「設備?」
「ああ。『天空城ミストライブラ』だ」
天空…城!?
「期待できそうだろ? やろうぜ!」
「いやあの…この緊急クエスト、転移先は『現実世界』なんだけど」
「「「…はい?」」」
互いが互いに突拍子もない情報でびっくりし、呆然と佇む。
ちなみに、NPCなマスターはコップを磨いていた。




