第31話 ミリアナというアバター
コンコン
「はーい」
がちゃ
「…姉ちゃん、ちょっといい?」
「…」
「姉ちゃん?」
「拓也が、ちゃんとノックしてくれた…」
「姉ちゃんがしろっていつも言ってるじゃねえか」
「言ってもしなかったじゃない、今まで」
ううむ、話し方は徐々に内面(?)に戻っている感じだけど、ノックといい、まだなんか混在している感じだ。でもまあ、うん、なんか新鮮だ。もちろん、いい意味で。
「それで、何?」
「俺達これから、部屋で2時間ほどログインするから。あいつら、自分のフルダイブ装置持ってきてるんだ。どっちも、ウチから自転車で数十分のとこに住んでてさ」
「うん、わかった。通信容量のこともあるから、私はログインしないでおくね。今回もユニークウェポン探し?」
「まあな。あいつらも一応『神々の黄昏』のメンバーだし、少しは役立ってもらおうかと。…お仕置きも要るし」
「お仕…え?」
「な、なんでもない。じゃ」
バタン
…何か、とんでもなく不穏な言葉が聞こえたような…気のせいであってほしい。拓也の謎が更に深まってしまう。って、それは大げさか。
さて、『ログインしないでおく』とは言ったが、ログインしよう。オンライン通知をオフにして、偽装アバター『コナミ・サキ』にしなければいいだけである。つまり、本来の『ミリアナ・レインフォール』として活動すれば良い。
とはいえ、通信容量が心配なのは確かなので、フルダイブ装置の設定を変更して、最低限の情報のみやりとりするようにする。でもねえ…やっぱり私にはあまり違いが感じられないのよ。念のため、派手な戦闘とかはしないつもりでいるけど。
フルダイブ装置を付けて横たわり、ログイン手続きを行う。
「受諾せよ、遥かなる大地への旅路を」
◇
周囲がマイホームとなる。あらためてオンライン通知がオフになっていることを確認して、エリア1の街のランドマーク、中央噴水の前に転移…する前に、装備についても少し変更しておくことにする。最終クエストをクリアしてからだいぶ日数が経過したとはいえ、もともと『ミリアナ・レインフォール』は有名人みたいだからね。未だよくわからないんだけど。
スタンドミラーを模した表示画面で、装備をあれこれいじる。剣や鎧はキーワードですぐに呼び出せるからアイテムボックスに収納し、代わりに、フードの付いたコートを着る。気分は隠密だ。もっとも、エルフ耳だけはどうしてもフードの外に出てしまう。
「ちらっとでも顔を見られるとバレそうだよね…。フードは深くかぶらないと。それにしても、このアバター容姿、我ながら趣味に走ってるよねえ」
女エルフを素体にした長身設定に加え、腰まで伸びた銀髪、少女というよりは女性という趣の凛とした顔、そして、スレンダーな体型。リアルな私、つまり、偽装アバターセット『コナミ・サキ』と何から何まで正反対である。これで、リアルと同じ年齢、かつ、同じ体重という設定なのだからアレである。リアルではがんばってお腹回りの肉を落としているけど…。
「…よし、じゃあ、転移」
【エリア1『中央噴水前』に転移します。よろしいですか? [はい/いいえ]】
[はい]を、押す。




