小さな勇者と魔物
『ただいま』
寝室に戻ると子供達と巨体の銀鎧の姿はなく、寝巻き姿のラミナだけがベットに腰掛私を出迎えてくれた。
「お帰りなさい」
私に微笑を向けた後、ラミナは勇者に向き直り尋ねた。
「お連れの方は宿に戻られましたよ。貴方はどうします?今夜は泊まられて行きます?」
「良いの?」
「時間も遅いですし、主人を送ってくれたお礼とでも言いましょうか。客間に寝具の用意は出来ていますのでそこをお使いください」
「ありがとう」
ラミナの申し出を勇者は素直に喜んで受け入れた。
『案内は私がするから、ラミナは先に休んでて』
「ありがとう。それじゃあお休みなさい」
私が勇者の案内を引きうけるとラミナは布団にもぐりこむと瞬く間にスースーと寝息を立てていた。
静かに寝室の扉を閉め私は勇者を伴って客間へと向かった。
客間にはふんわりとした寝心地の良さそうな布団敷かれたベットと木製のテーブルと椅子が一脚ずつにテーブルの上にはコップと水差しが置かれていた。
『ここを使ってください』
「ありがとう」
笑顔で応え、勇者は身に着けていた軽装鎧を外して床に並べ身軽になるとふかふかの布団にもぐりこんだ。
「布団、最高」
にんまりと呟く勇者の姿を見届け、私が部屋を出ようとすると
「俺を見張ってなくて良いのかい?」
何かするかもよ?と脅しをかけるような言葉だが、この人はそんなことはしないだろうという確信があった。
『気のないことを言わないでください』
「ばれてたか」
私が呆れた声で返すと、勇者は苦笑いを浮かべていた。
『私にまだ用でもあるんですか?』
私が尋ねるととたんに勇者は布団にもぐりこみなにやらブツブツと呟いていた。暫く待ってみたが出てこない。
『用がないなら、私は部屋に戻りますよ』
ドアノブに手をかけたところで慌てて勇者が布団から顔を出し
「俺と友達になってくれないか」
と私に頼んだ。
……は?友達?え?え?何を言ってるんだこの人は。
正直私は混乱していた。
『何を言ってるんだ、貴方は。貴方は勇者で私は魔物だ。魔物と勇者が友達になれるわけがないだろ』
いつから勇者が気づいていたのかは分からない。既にばれているなら私が魔物であることを隠す必要はなかった。
私の言葉に勇者は寂しそうな表情を浮かべながら呟いた。
「人と魔物ってっさ、本当に分かり合えないのかな。俺と君はこうして話し合えるのにさ」
私と勇者は話し合えている。
勇者という肩書きがなければ目の前にいる青年はどこにでもいる人と変わりなくはないのか?
私は魔物であっても人に受け入れて欲しいと願っていた。願いはかなって少ないが私が魔物であることを知っても人と同じように接してくれている人達がいる。
その人達とどこか違うところでもあるのか?
違いなどない気もした。けれど、私は答えることが出来なかった。
無言を貫く私に勇者は聞かせるように話し始めた。
「それはまだ、勇者が少年の頃のことでした。祖父と父と森に狩りに出かけました。途中、少年は子ウサギに気をとられ、一緒にきていた父と祖父とはぐれてしまいました。
はぐれた少年は懸命に父達をを探しました。
けれど、見つからず、少年は運の悪いことに足を滑らせ自分では出られない深さの地面の割れ目に落ちてしまいました。
落ちたときに出来た傷の痛みと心細さで少年は声を上げて泣きました。
すると、少年に気づいた何者かが少年を割れ目から救い出しました。
さて、少年を救い上げたのは誰でしょう?」
勇者の問いに私は分からないと首を横に振ると
「正解はオークの親子でした」
『オーク?』
思わず、驚きで声を上げてしまった。
「そう、オーク。オークの親子は少年の怪我の手当てをして町の近くまで少年を送り届けると静かに森に帰っていきましたとさ」
だから、勇者は翁に全ての魔物が悪ではないと言えたのか。私の知る魔物達も森の奥深くに静かに穏やかに暮らしているし、私自身も悪事に身を染めたこともない。
『そんなことがあったのか』
「そう、あった。だから俺と君とも…」
言い終わる前にとうとう勇者はふかふかの布団の魔力に見入られ眠りに落ちていった。
『なれるかもしれないな、友達に』
微笑むような口調で紡いだ言葉は勇者には届かなかったかもしれない。
そっと、扉を閉め私は部屋を後にした。




