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魔王降臨から10年

あの誕生日会の後、ソアレとキキは王立の学校に通えるようになっただけでなく、国王の厚意で学校の近くに私達の住む家まで用意してくれた。

国王曰く、働きに対して褒美が少なかったということらしかった。後にデイジーとリーリエの爺やの老執事の話を聞いて納得がいった。

デイジーとリーリエの生みの母は国王の妹姫であり、姫の夫も国王が信頼する近衛騎士の1人だった。姫と近衛騎士は大変仲睦まじい幸せな夫婦であったが、魔王降臨の際に夫である騎士は国のために、愛する妻のために出兵し帰らぬ人となり、そのショックでもともと病弱だった妹姫はデイジーを産んで間もなくして亡くなった。

最愛の妹と信頼していた騎士も失い、悲しみにくれていた国王には忘れ形見であるリーリエとデイジーは小さな希望でもあった。

王妃は騎士の妹で国王の妹姫とは義姉妹でもあり、学生時代からの友人でもあった。彼女もまた、国王と同じ気持ちであり、忘れ形見の2人を我が子のように愛していた。

そんな2人がデイジー達姉妹を養子に引き取らないはずはなかった。

帰らぬ人の忘れ形見。

これほど大切なものはそうあるものではない。

その2人の危機を救ったというのは確かに相当な報酬を望んでも良いのもなのかもしれない。


理解は出来た。


出来たからこそ、やはり私達の望んだもので良かったのだと改めて思った。

人の心の拠り所に付け入るようなまねはしたくない。

それはそれとして、厚意はありがたく頂戴し、私達一家は森の家から引越し王都に住むことになった。

その際、ラミナはソフィアに森の家に戻れるように移送の合鍵を作ってもらっていた。

家はそれなりに大きいものだったが、ラミナの全ての蔵書を持ってくると部屋が狭くなってしまうのと、人族には見せられない魔族の蔵書なども存在していたため、置いてこらざるえなかったもの読むためだった。

私も翁の所に合鍵を作ってもらうため、魔鎧の森の翁の塒に一軒のログハウスを建てた。翁は『家などあっても意味はないだろう』と家には否定的だったが、パナが「雨風を防げるだけでも素晴らしいではないですか」と大層喜んでくれた。自然の一部である精霊でも雨風を防げる場所というのは安らげるようだ。


私は王都で冒険者の仕事をしながら魔鎧の森に通い、ラミナは王都で薬師の仕事に付いた。ソアレとデイジーは同じ魔術科クラスになり、キキは一般教養を学ぶクラスに通うことになったが、3人は仲良く学校へ通っていた。


5年の歳月がたち、ソアレは10歳、私は20歳になっていた。




季節はグリフォンの時期(秋)になり王立学校内は近々行われる学園祭に向け王都は俄かに騒がしくなっていた。

私が家に戻るといつもなら既に眠っているソアレがこのところ毎晩、机に向かって紙になにやら書きながら頭を抱えていた。なんでも学年代表による魔術論文を発表するため原稿をまとめているとのことだ。


『無理しすぎないようにな』


声をかけ暖めた牛乳に蜂蜜を入れたコップを手渡すと


「ありがとう、父さん。ここが終わったら寝るよ」


と少しばかり疲れた笑みを私に向けるソアレの頭を撫で『分かった。お休み』と声をかけて部屋と後にする私の背中に


「お休み、父さん」


とソアレの声が投げかけられた。




学園祭当日、町はいつも以上の賑わいを見せていた。町のいたるところには学園祭の告知のビラが貼られ、催し物の所には水の国一の歌姫が招かれるとか、闘技場では武術大会(特別来賓あり)や、ソアレも参加する魔術論文発表会や役者による演劇などが書かれていた。

ソアレの論文発表を見るためにラミナと連れ立って王立学園に来た私達は人の多さに目を丸くした。例年、学園祭は学生達の催しが中心で訪れ、来場するのもその親族が殆んどで身動きの取れないほどの人が訪れることはなく、今回の催し物に対する町の人々の関心度の高さが伺えた。


『凄いな』


思わず漏れた言葉にラミナも「そうね」と半ば呆れたように呟いた。

キキはクラスの催し物のケーキ屋の手伝いで後から合流する予定だ。デイジーはソアレと共に魔術論文の発表会に出ることになっていた。

魔術論文発表会の行われる講堂に着くと、周りは我が子の発表を楽しみにしている煌びやかな衣装を纏った貴族と暗い色のローブ姿のいかにも魔術師といった体の老若男女が会場を埋め尽くしていた。

そんな中、黒い全身鎧姿の私と少しばかり着飾ったラミナの姿はやや周りから浮いた存在だった。

論文の発表は低学年(6歳)から高学年(15歳)へと順を追って難易度が上がっていき、ソアレはちょうど中学年(10歳)なので発表の順番は真ん中辺りだった。


低学年の発表が終わり、ソアレを含む中学年の生徒が講堂に入室し発表の準備をし始めたあたりで可愛らしいウエイトレス姿のキキが私達の席まで駆け寄ってきた。


【お父ちゃん、お母ちゃん。ソアレの番まだだよね?】


『大丈夫、まだだよ』


「大丈夫よ。これでも飲んで落ち着きなさいな」


息を切らせているキキにラミナは持ってきていた水筒を手渡し、自身の隣の席に座るように促した。


【ありがとなのね】


キキが一息つき、席に座ったところでソアレの論文発表が始まった。


ソアレの発表が始まると会場は俄かに騒がしくなったと思ったら、突然、会場を水を打ったようにな静けさが覆った。

正直、魔術も魔法も基礎しか分からない私には識者達が何に驚き興奮しているのかは分


かりかねたが、大人も舌を巻くような内容を臆することなく、朗々と語る息子の姿は誇らしくもあり、感慨深いものもあった。

ふと初めて言葉を話した日のことが思い出され胸にこみ上げるものがあった。思わず涙の零れそうになる目頭を押さえていると、ふと見たラミナの横顔は既に感動の涙で頬を濡らしていた。


『立派に育ってくれたな』


感慨深く、静かにラミナに語りかけると


「ええ、本当に自慢の息子よ」


とラミナも涙を拭いながら私に微笑を向けた。


満場総立ちの盛大な拍手と共にソアレの発表が終わり、次いでデイジーの発表が行われた。最初はソアレの後ということで緊張しているようだったが、次第に自分のペースで恙無く発表を終えた彼女に惜しみない拍手が送られた。


発表が終わり講堂の外で待っていると、私達と同じ理由で待っているリーリエとその隣にはデイジーの義兄であるクラジオ王子の姿があった。その後ろには護衛の双子の女性騎士のミッサとネッサが控え、その1歩後ろには巨漢の巌のような逞しい男性の騎士が控えていた。


「アステル達も着ていたのか」


私達に気づいたリーリエが私に声をかける。


『勿論。我が子の晴れ舞台を観ないなんてありえないからな』


私の言葉にうんうんとリーリエは深く頷いた。

リーリエとそんなやり取りをしていると講堂の扉が開き、金色と深い青色の毛玉が私に向かって飛び込んできた。しっかり受け止めると毛玉の正体は満面の笑みを浮べたソアレとデイジーだった。


「父さんちゃんと観てくれてた?」


「お兄様観てくださってました?」


被るように問いかけるソアレとデイジーの2人の頭をゆっくり撫で、


『勿論。2人とも素晴らしい発表だったよ』


私が褒めると、「やった!」「やりましたわ」と口々に言いながらソアレとデイジーは手を取り笑い合っていた。


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