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力と覚悟

『して、アステルよ。主はその剣で何を斬る?』


『わたしは…』


わたしは家族を守りたい。ラミナがソアレが幸せに暮らせるように。それならば斬るべきものは


『わたしの家族に降りかかる災厄を斬る』


わたしの答えに翁は『ほう』と感嘆の声を上げた。


『大きく出たな。これは面白い、主の心意気と技量見せてもらおう』


そう言うと翁は腰に差していた片手剣を抜き構える。

今のわたしにどこま出来るのか?それはわたしも知りたかった。わたしは翁の提案にのることにした。

わたしも左肩に担いだ槍を地面に置き、背中に担いだ双剣を構えた。


『全力で掛かって来い!』


これを合図にわたしは踏み込み翁に斬りつけた。

打ち込むたびにカーン、キーンと金属がぶつかり合う音が森に響く。

上段、中段、下段、背後と様々な角度から斬り込むがその全てを翁は一歩も動くことなく片手でいなしていた。


『ふむ、筋は悪くないな。だが軽い』


わたしの攻撃の合間に顎を摩りながら話す余裕が翁にはあった。

逆にわたしの方は全力で動いたせいでかなりの魔力を消費したのと槍を放したことでまたぶり返した吐き気で既に息が上がっていた。


『さて、今度はわしから行くぞ。耐えてみよ』


言葉と共に斬撃が襲ってきた。重い。両手で剣を交えてやっと耐えるのが精一杯だ。


『初撃は耐えたか。これで終わりではないぞ』


横からの斬りに辛うじて防御が間に合ったが勢いを殺しきれずよろけた。

すかさず次の斬撃が上から落ちてくる。防ぐことは出来たが、立っていられず片膝をついていた。


『反応も悪くないのお。では、これならどうかの?』


斬ると見せかけて翁からくりだされたのは鳩尾目掛けた蹴りだった。

防御しないと!

思ったときには翁の踵が深くわたしの鳩尾にめり込み、勢い良く吹っ飛ばされた。


『ぐはっ』


あまりの痛みに鳩尾を押さえたまま、わたしはその場に蹲ったまま気を失っていた。




「マスター!いくらなんでもやり過ぎですわ」


『まさか気絶するなんて思わんかんたんじゃよ』


パナと翁の口喧嘩の声で目が覚めた。

気持ち悪くない。視線を巡らせるとわたしに触れるようにパナの本体の霊槍が置かれ、わたしは仰向けに寝かされていた。

翁に蹴られて凹んでいた腹部甲も既に元通りに修復され、痛みも引いていた。

ゆっくり上体を起こすとパナと目が合った。パナはぱっと顔を輝かせ、わたしに駆け寄りわたしの隣に座った。


「良かった、気がつかれたんですね。全くもって、うちのマスターが失礼しましたわ」


わたしには笑顔を向けてくれるものの、翁の方を下から見上げるときっと睨みつけた。


『面目ない。すまんかったのう、アステル』


頭を下げる翁にわたしは逆に年長者に頭を下げさせていることに居心地の悪さを感じていた。


『翁も顔を上げてください。ね、パナもそんなに怒らなくて良いから』


「まあ、貴方がそういうなら…許しますけど」


許すとは言ってもパナの顔はまだ、不機嫌なままだった。


『翁もそんなに畏まらないでください。わたしが未熟だったせいですから』


己の未熟さは理解しているつもりだったが、翁との試合とも呼べないもので痛感させられた。

わたしは立ち上がり真っ直ぐ翁を見据えると、


『翁にお願いしたいことがあります』


『なんじゃね』


わたしの真剣な調子に少しばかり翁は驚いていた。


『わたしに稽古をつけてくれませんか?』


どんな難問が来るのかと身構えていたようで、わたしの願いに翁は安堵のため息を吐いた。


『そんなことか、構わんよ』


翁は快くわたしの願いを受け入れてくれた。ただ、その後に続けた言葉は真面目でわたしを心配する口調だった。


『じゃがな、わしは人に教えるのが得意でなくてな、加減も出来ん。わしの稽古は常に辛い思いをするが、それでも良いか?』


そんなの迷うことはない。わたしが少し辛い目に合うだけでわたしの守りたいモノ達が守れる力が手に入るなら、そんなの辛さに入らない。


『はい。覚悟の上です』


わたしを見つめる翁の赤い目をわたしは真っ直ぐ見つめ返した。


『分かった。では、始めようかの』


翁が腰に差した片手剣に手を伸ばすとパナが待ったをかけた。


「ちょっと、待ってください」


薄緑色の毛で編まれた紐を手に翁とわたしの間に割り込こみ、紐をわたしの左手首に結びつけた。


『この紐は?』


わたしが尋ねると、パナはにっこり微笑み、


「アステルが眠っている間に作りましたの。これで、私の本体がなくても大丈夫ですわ」


『知ってたのか?』


思わず驚いた声をわたしが出すと、


「最初に会った時、とても具合が悪そうでしたけど、わたしの本体を持ってもらってる間は楽になっているみたいでいしたから、それならばと。ここの瘴気は光属性の貴方には毒のようですから、私の加護があれば毒を中和出来るので少しは楽でしょ?私これでも凄い霊槍ですのよ」


えっへんとパナは胸をはり、誇らしげに茶目っ気たっぷりに笑っていた。その胸はちょっとばかり残念なことは本人には黙っていようと心に決めた。



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