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謎の青年

 色々あった気疲れからか、ノティヴァンは語り終えると早々にソファアで寝ようとしていた所を私にベッドに移動させられた。きちんと休むならベットの方が良いに決まっている。

 ソアレも慣れない異国故に疲れが出たのか気づけば瞼をしきりに擦っていた。


『二人とも、もう今日は休んだ方が良いんじゃないか?』


 私の提案に二人は「そうする」「そうするわー」と頷くと上着をその辺に脱ぎ散らかすと下着一枚で布団に潜り込んだ。

 こんなの見たら、ラミナとフィーネが怒るだろうな。私は小さくため息を吐きながら二人の服を回収して畳み、ローテーブルの上に置く。服を置き終え二人の方を振り返ると、既に二人は気持ちよさそうに寝息をたてていた。


 ふと見た窓の外に広がる中庭の木々は明るく二つの月が照らされている。私が寝るにはまだ早い。稽古用の木剣を手に私は無人の中庭へと足を向けた。


 シンと静まり返った中庭に私の木剣の発する風切り音が小気味よく響く。


『見事なものだね』


 聞き覚えのある声が背後から掛けられた。振り返ると火の国の民族衣装に身を包んだ褐色の肌に藍色の瞳の人のよさそうな笑みを浮かべた青年の姿があった。


『確か貴方は……』


 彼の声は玉座の間で聞いた覚えがある。私が言い終える前に青年は嬉しそうに私の手を取ると


『やっぱり、君には聞こえていたか。そんな君に頼みがある』


『頼みですか?』


『勿論、ただでとは言わないさ。報酬は……そうだな、火の宝珠のありかなんてどうかな?』


 いたずらっぽく笑う青年に私は薄っすら寒いものを感じた。初対面のはずの彼が何故、私達の目的を知っている?正体の分からない薄気味悪さはあるが、青年からは悪意は感じられない。

 話を聞くくらいなら問題ないだろう。そう、判断した私は青年に依頼内容を尋ねた。


『私に何を依頼したいんですか?』


 私の返答に青年の顔が喜色に染まる。


『ありがとう。あるものをある人に届けて欲しいんだ』


 物品の配送。実に曖昧だ。子供でも出来ることではあるが、渡すもの、場所、人によって難易度が変わってくる。


『何を誰に渡すか教えてもらえないと受けるか判断できかねます』


 私の言葉に青年は『それもそうだ』と納得すると懐からやや太さのある文様の描かれた指輪を取り出した。


『この指輪をある女性に渡してほしい』


 女性に指輪を渡す。一見、簡単そうに見えるが女性がどこかの姫君だったら、指輪が呪いの品で、結果、暗殺に加担してしまったら……。


『その指輪が呪いの品で女性の暗殺とかないですよね?』


 心配が思わず口をついて出てしまった。言って、本気で暗殺しようと思っているなら答えるわけがないと気づく。そんな、私を前に青年は大慌てで首を横に振りながら


『ないないない!光の女神に誓ってそんなことはない』


 渾身の全否定。そんな青年の姿に私の中で演技ではと疑う気持ちと信じてはという気持ちが揺れ動く。最終的に勝ったのは青年を信じるというほうだった。


『分かりました。貴方の依頼お受けします』


 苦笑を浮かべたような息を吐く私に青年は何度もありがとうと言いながら何度も頭を下げた。

 青年が落ち着いたところで今度はこちらの番だ。


『それで、火の宝珠はどこにあるんですか?』


 国王は蛇人ラミア族が奪ったと言った。しかし、私達にはそれが真実とは到底思えない。あのラミナの動揺ぶりから蛇人女王ラミアクイーンがそのようなことをする魔物とは思えなかった。ならば、本当の宝珠のありかはどこにということになる。


『火の宝珠は先代魔王を倒した後から変わらず、火の神殿に安置されてるさ』


 青年の答えは意外なものだった。


『王家が保管してるのではないんですか?』


『3大国はそうらしいけど、うちは違う。火の神は武の神でもある。勇者が宝珠を持つにふさわしい者か、毎回試練を課しているんだ。宝珠を集めて魔王の元に行っても返り討ちにあったら元も子もないだろ?』


 言われれば確かにそうだ。なるほど、火の神は勇者の素質を量る試験官なのか。


『言われるとそうですね。勇者を量る火の神の祀られた火の神殿はどこに?』


『火の神殿はここから駆鳥テレチプリの足で半日といったところかな。もちろん案内はするさ。準備が出来たら駆鳥テレチプリ乗り場に来てくれ。僕はそこで待っているから』


 そう言い終えると眼前にあったはずの青年の姿は消えていた。

 あの青年は何者なんだ?それに青年が指輪を渡したい女性とは誰なんだ?答えの出ない疑問を抱きつつ、木剣を振るっていると気づけば夜は明け、燦燦と輝く太陽が昇り始めていた。

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