第八話 約束のペンデュラム
二つに分かれた選択肢。
どちらを選ぶかで未来は変わる。
選んだ先の未来は選ばなければ分からないが、選ぶことさえできないなら未来はない。
故に、エイジは決断する。
自分の心に従って。
「……優先すべきは自分の意志か。なら、答は決まったな」
エイジは朝早く宿を出て、街にあるいろいろな店を見て回ることにした。
その為にも、エイジは三度目の案内図の場所に来ていた。
「まだ六時だってのに、開いてる店は多いな」
エイジの見ている案内図も魔道具の一種で、街の中で現在開いている店には番号が書かれてあり、図面の隣に店の名前が書かれてある。
閉まっている店は、その店が開くまで番号が書かれず、図面の隣に番号も名前も載らない。
しかし、宿屋の場合は、貸せる部屋が無くなった時点でリストから消える。
その為、カイトが泊まっている宿は番号が書かれていない。
「あ、エイジさん! おはようございます!」
「ああ、フィルディアか。おはよう」
案内図で行きたい店をエイジが探していると、フードを被っていないフィルディアに話しかけられた。
「フードはいいのか?」
「はい、大丈夫です。この街には私を知る人はいないみたいですから。あ! 違いますよ! 私がお尋ね者って訳じゃないですからね!」
「分かったから、落ち着けよ。だいたい、お尋ね者ならそんな悪目立ちする様な格好はしないだろ?」
「確かに……」
フィルディアは、ブラウンカラーのローブで全身を覆っており、回りから浮き、逆に目立っている。
「俺は疑ってなんかないよ。疑ってるのなら、パーティーの話を承諾なんかしないって」
「そうですか……え?」
ホッとして胸を撫で下ろし、少しの間を空けてから重要なことに気づき、エイジを見る。
「俺は王都に向かう。それでも構わないのなら、俺をフィルディアのパーティーに入れてほしい」
エイジが右手を前に出すと、前のことを気にしてか、フィルディアは即座に両手で握る。
「構いません! むしろ、好都合です! 私も王都に用があるんです! なので、不束者ですが、末永くよろしくお願いします!」
「言葉のチョイス!? 俺がプロポーズしたみたいたいだろ!」
「そんな事はどうでもいいです!」
「いや、全然よくないから!」
「エイジさん! ギルドでパーティーの登録をしましょう! 善は急げです!」
「話を聞けって!」
エイジの言葉はフィルディアに届かず、握った手を引っ張ってギルドの方へ連れていかれた。
冒険者がパーティーを組む場合は、ギルドの受付嬢にライセンスカードを渡して申請しなければならない。
パーティーを組む場合に条件は存在しないが、人数は最大でも五人までと決まっている。
しかし、クエストに同行できる人数に制限はないため、多数のパーティーでクエストに向かう事は可能だ。
その場合、報酬が極端に少なくなるため、強い魔物の討伐クエストか緊急クエスト以外に行うものはいない。
「エイジさん、ライセンスカードを」
そう言われ、エイジはカウンターでパーティー申請中のフィルディアに、パーカーの内ポケットから出したライセンスカード渡す。
「では、お預かりします」
フィルディアは、エイジから受け取ったライセンスカードを受付嬢に渡し、手続きを進める。
「登録が完了しました。では、こちらのライセンスカードはお返しします」
受付嬢に返されたエイジのライセンスカードには、パーティーという項目と、その欄にフィルディアと言う名前が書かれ、フィルディアのライセンスの方にはエイジと書かれていた。
「エイジさん! よろしくお願いします!」
「ああ、よろしくな」
フィルディアに返事を返すと、エイジは受け取ったライセンスカードをパーカーの内ポケットにしまう。
その後、エイジが朝早くから宿屋を出た本来の目的である店巡りをするため、二人はギルドをあとにする。
「エイジさんはどのような店に行くんですか?」
「魔道具店だよ。クエストに役立ちそうな物をさがしにな」
「なるほど。私もお供します!」
「もう付いて来てんじゃん」
「はい、リーダーですから!」
「それは関係無いぞ。…あ、見つけた」
案内図で行きたい魔道具店の場所は全て把握しており、エイジは一番近い魔道具店に向かっていたのだ。
二人が店に入ると、中年の男性店員が話しかけてきた。
「いらっしゃいませ! どんな魔道具をお探しですかい? 」
そう言われたエイジは、迷うことなく即答で返す。
「便利な魔道具」
「ざっくりしてんなぁ。まぁ、魔道具は便利じゃなきゃ意味はねぇがよ。具体的には?」
「戦闘に役立つのがいいな。どの辺りにある?」
「それなら、あっちの棚がだいたいそうだ」
中年の男性店員は、店に入ったエイジ達から見て左の棚を指差した。
その棚には、小さく持ち運びやすい魔道具から、大きすぎて使いづらそうな魔道具までいろいろ並んでいる。
棚に並ぶ戦闘用のほとんどが安い値段で使い捨ての魔道具だ。
「あの、このお店で一番凄い魔道具はなんでしょうか?」
「それなら、『神秘のペンデュラム』だな。イニティウムの近くにあったレベル七十のダンジョンで見つかった魔道具なんだぜ!」
「いやいや、冗談だろ。レベル七十を制覇したのはミズガルズの王だろ? 魔道具がここにあるのはおかしいんじゃないか?」
「そうでもありませんよ、エイジさん。レベル七十のダンジョンは、王が手にしたばかりのユニークを暴走させ、破壊してしまったんです。その壊れたダンジョンの瓦礫下からは、いくつかの魔道具が見つかったそうです」
「これが実物だ!」
中年の男性店員は、カウンターの奥からケースに入った神秘のペンデュラムを二人に見せ、それを見たフィルディアは本物と確信した。
「店員さん、神秘のペンデュラムのお値段は?」
「二千万ガルズだ!」
「高!?」
「買います!」
「「え!?」」
驚きのあまり、エイジと中年の男性店員は声をハモらせた。
その後、フィルディアは十万ガルズのお札を二百枚積み重ね、本当に神秘のペンデュラムを購入し、エイジと共に店をあとにした。
「朝食は何処にする? クエストに行くならギルドにするか?」
「そうですね、そうしましょう。でも、その前にいいですか?」
「どうした?」
フィルディアはそれに答えることなくエイジの後ろに回りに、先ほど購入した神秘のペンデュラムを首にかけた。
「私からのプレゼントです! 似合ってますよ、エイジさん!」
「似合ってますよ、じゃなくて! 流石に受け取れないだろ」
「金額は気にしないでください。贈り物に必要なのは気持ちです!」
「いやいやいや、気になるから!」
エイジがフィルディアに神秘のペンデュラムを返そうとすると、フィルディアが言う。
「女の子からのプレゼントを返却するつもりですか? 」
「それは……」
そう言われ、エイジは返す言葉を失う。
「…ありがとう、フィルディア。約束だ、いつか最高のお返しを贈くる!」
「じゃあ、期待しておきます」
フィルディアはエイジに笑顔をみせる。
エイジはその笑顔を恥ずかしさのあまり直視しできず、僅かながらに視線をそらしてから言う。
「……まぁ、あれだ。末永くよろしく頼むぜ、リーダー」
「はい! エイジさん!」