第七話 過ぎ去りし歴史を求めて
これは、俺の運命を変える選択しなのだろうか?
一瞬でもそう考えてしまい、エイジはフィルディアとパーティーを組むかどうか答えを出せず、明日の朝に答を出すという事になった。
「はぁ、どうしたら良いんだぁぁぁ」
そう唸り、宿屋のベッドの上に倒れこむ。
今日の一日をエイジは心の底から楽しみ、最高の思いでとなったが、同時に、エイジが異世界に来た目的を果たす為の足枷となっていた。
もし、パーティーを組んだとしても、エイジの目的は変わることがなく、フィルディアを終わりの見えない旅に連れ回すことになる。
それをフィルディアに伝えたが、フィルディアは旅をする事には問題ないと答えた。
しかし、エイジは旅にフィルディアを連れ回すのは避けたいため、断りたのだ。
だが、エイジの中で何かがその答を妨げる。
自分には見えている答えは、本当に自分の出した答えか分からず、エイジは悩む。
「明日…には…答えを………」
どちらを選ぶか考えていたエイジだったが、疲れによる眠気に負けてしまい、そのまま眠りについた。
「あれ? ここは……」
宿屋のベッドで寝ていたはずだが、エイジが目を開くとそこは宿屋ではなく、空虚なる世界だった。
「パーーン!」
その声の後に、微かにパンっ、というよりはポスっという音が聞こえ、さすがに二度目では驚かなかったエイジが後ろを振り返る。
そこには、椅子に足を組んで座り、ほぼ不発に終わったクラッカーを手に持っているシュバラがいた。
「オッス! オラ シュバ――」
「言わせねぇよ!! いろいろと危ないから! てか、暇潰しなら帰してくださいよ、シュバラ様」
「君は失礼だな。でも、暇潰しというのは、半分正解!」
「正解してんのかよ!」
正解したエイジに、シュバラは何処からかだしたクラッカーを鳴らそうとしたが、そのクラッカーは湿気っていた。
「残念! じゃあ、くす玉で」
そうシュバラが言うと、
「危な!?」
くす玉がエイジ目掛けて直に落ちてきた。
直感的に危ない気がしたエイジは、警戒心を全快にしていたが、くす玉が急に頭上数メートル地点に現れたため、避けはできたがギリギリだ。
さらに、そのくす玉の素材は鉄なのか、落ちた空虚なる世界の地面を易々と砕く。
「おい、悪魔! これが直撃したら、俺は間違いなく死んでたぞ!?」
「あー、ミスった。くす玉を吊るす準備をしてなかったわ。笑えるね!」
「笑えねぇよ!!」
シュバラは笑って誤魔化す。
この空虚なる世界の主であるシュバラは、この世界に自由に物を出したりでき、挙げ句の果てには、こうしてエイジを連れて来るほどだ。
しかし、出したクラッカーは必ず湿気っているというように、僅かながらに欠点は存在する。
「よし、時間があまり無いから本題に入ろうか」
「急にスイッチが入ったな」
「何か?」
「いえ、何も? 本題をどうぞ」
そう言われ、シュバラは咳払いをした後、語り始めた。
「エイジ、君はノストラダムスを知っているか?」
「まあ、一応は」
「今から話すのは、君のいる異世界が創られた時の話だ」
地球には、遥か昔から魔力が僅かながら存在していた。
それは、人々が気づく事が無い程に僅かではあったが、希に、圧倒的な魔力を持って生まれ、ユニークを保有している人間が生まれる。
ノストラダムスはその一人で、未来予測のユニークを保有していた。
そして、その魔力が引き起こす災厄をノストラダムスはユニークで予測していた。
千九百九十九年、七月。
恐怖の大王がアンゴルモアの大王を蘇らせるために天から来るだろう。
この予言は間違っておらず、事実、世界の争いによって生まれたは負の魔力が集合し、恐怖の大王は誕生した。
アンゴルモアの大王もかつては存在し、地球が地球と呼ばれる遥か昔に、シュバラがその地で倒し、永劫の眠りについた。
その戦いで、シュバラは大きく弱体化し、またアンゴルモアの大王が表れても勝ち目は無くなっていたが、恐怖の大王は悪夢を現実に変えようと企んだ。
しかし、ノストラダムス予言により、恐怖の大王が表れるのを知っていたシュバラは、地球から魔力ごと恐怖の大王を切除し、魔力と恐怖の大王を閉じ込めるための世界を創ったのだ。
だが、アンゴルモアの大王との戦いで力を大きく失ったシュバラには、新たな歴史で世界を創る事ができず、地球に存在するユグドラシルと、九つの世界の神話を題材にして世界を創造し、いろんな伝説の物語などで形を整えた。
力を失っていたシュバラには、ここで誤算が起こる。
それは、残り力のほとんどをユグドラシルに奪われ、恐怖の大王と魔力ごと世界を消し去る事ができなくなったのだ。
ユグドラシルの世界は、完成した瞬間、五千年以上の歴史を刻み、それを奪ったシュバラの力で現実のものとした。
そして、九つの世界に住まう全ての種族に、その世界を納める王が誕生した後、全ての種族による侵略戦争が始まる。
シュバラの力を奪ったユグドラシルは、ここまで刻まれた歴史の中に恐怖の大王、もとい、魔王を降臨させた。
その驚異を前に九つの世界は協力して戦い、魔王を倒し、九つの世界は争いをやめた。
「私は力を奪われたが、この結果で良かったと思っているよ」
「なぁ、シュバラ様。俺とその話に何の関係が? 嫌な予感しかしないんだが……」
「言っただろう、半分正解だって。ただの暇潰しに昔話をしただけだよ。でも、どんな世界か分かっただろ?」
嫌な顔をするエイジに対し、シュバラはそう話す。
確かに、エイジが異世界で過ごすならば、その世界の歴史を知る必要があるし、知らないのは不自然だ。
「…残りの半分は? 今の昔話が暇潰しなら、残り半分の用は何なんだ?」
「おーっと、忘れてた。君に妹の居場所を教えようとしてたんだったな」
「…詳しく頼む」
「君の妹は、今 ミズガルズの王都にいるよ。中二病の君なら分かるだろ?」
「元な! …まぁ、ミズガルズが何かは知ってるよ。九つの世界の内、人間が住む世界だろ」
「せいかーい! くす玉はいるかい?」
「いらん」
シュバラにエイジは即答で答えた。
「エイジ、君はその世界を楽しむといい。迷った時は自分の心に従え」
シュバラが真面目に話すのを気味悪がっていたエイジの足下に、大きな魔方陣が表れ、光輝き出す。
「もう時間なのか?」
「そうだ。今の君は生ある者だ。この世界に長居はできない」
「そうか。まぁ、いろいろ助かったよ。たまになら、今日見たいに暇潰しに付き合っても構わねぇよ。たまにな……」
「たまに、か。じゃあ、また今度」
「またな」
魔方陣の光りがエイジを包みこみ、エイジを異世界へと帰す。
「魔王を倒した雷魔法使いの英雄。エイジ、君は二人目の英雄になれるかな。期待しているよ」
エイジがいなくなった虚無なる世界で、シュバラは一人呟いた。