第四十三話 苛烈な日常
「お祭りキターー!!」
本日の午後から行われる姫様の婚約者決定戦は国の未来に関わる一大イベント。
それ故、前日よりキャメロット全域でお祭り騒ぎである。
出店も多く、雰囲気自体は日本のものとなにも変わらない感じで、違いと言えば浴衣客がいないくらいなものだ。
そんな人混みのなか、事前に用意しておいた浴衣に身を包んだエイジが歓喜の叫びを上げていた。
「生前を含め、実に三年ぶりの祭だ!」
目を輝かせながらそう口ずさんだエイジの隣で、可笑しそうにシルヴィアがクスリと笑う。
「エイジ君は面白い事言うね。生前って、エイジ君は今も生きてるじゃん」
「分からんぞ。もしかすると、君の前にいる俺はゴーストだったりするのかもしれないだろ?」
「まさか、それはあり得ないよ」
「何故言い切れる?」
「だって、お化けなら触れ合う事が出来ないもん。それに……」
「それに?」
そう答え、シルヴィアは右手でエイジの頬に触れ、
「シルヴィア?」
そのまま力強く頬を引っ張る。
「いだだだだだ!?」
「お化けなら痛みを感じないでしょ?」
「いやいや、お化けでも痛みは感じるだろ!」
「そうかなぁ?」
自分の頬に指を当て思考するシルヴィアを隣に、痛い頬を擦りながらエイジが気を取り直して辺りを見渡す。
「出発すんぞ、離れんなよ」
「あ、待ってよ!」
先に歩みだしたエイジの後を追ってシルヴィアが走り出そうとした時、ある出店が視界に入り足を止めた。
「ねぇ、エイジ君」
「ん?」
名前を呼ばれて振り返ると、シルヴィアが無言で右方向にある屋台を指差しており、今度はそちらの方を向く。
すると、そこには見知った人物が屋台を出していた。
「何してんだ? カイト」
「お! エイジとシルヴィアじゃん、デート?」
「違う。お前が約束をすっぽかしたから二人なんだろうが」
「人の妹に手を出しといて言い訳か? まったく、最近の若いもんは責任の取り方も分かっとらんな!」
カイトがそんなふざけた事を言った刹那、カイトの首元に雷刃の刃が当てられる。
「屋台を解体してやろうか?」
「この状況だと解体されるのは僕自身ですよね!?」
血相を変えて両手を上げているカイトに、
「次にふざけた事を言ったら――」
首元に当てた雷刃から強めの静電気程度の威力で雷を弾かせた。
「痛ァ!?」
「雷をくらう事になるぜ」
「次にって言ったよね!? 本当にマジで超痛かった!」
「あっはは! 言い回しがバカみたい」
「誰のせいだと思ってんだ! 急な電撃に思考が追い付いてないんだよ!?」
面倒な客を相手していたカイトは、少しだけ痛い目に遭わせてやりたいと考え、自分の屋台を見渡す。
カイトの出している屋台、それは日本で言うところの射的に似ている。
プレイヤーは自分の指先に魔力を集中させ、的目掛けて放って倒すだけの簡単ルール。
故に、銃を使って戦うエイジ相手では痛い目に遭わせるなどほぼ不可能。
(この出し物だと部が悪い……。コイツにやらせたら大損害は見え見えだし………。方法が無いのならしたかないか)
方法を決め、急に笑顔を作って接客モードに入ると、自分の策略を見抜かれない様、自然な流れでエイジを出し物に誘う。
「エイジ、ぶちのめしてやるならやってけ」
そう言うカイトは、親指だけ立てた右手を逆さに向けている。
「自然の欠片もないね……」
「ああ、笑顔でも目が血走ってるし、殺意しか感じらんな……」
誘いに乗らないエイジを見て、カイトは不思議そうに言う。
「どうした? もしかして、断るつもりか?」
「――うん、そのつもりだけど」
迷いなく即答で答えを返し、「じゃあな」と残して去ろうとするエイジの背中に向かって、カイトが小学生レベルの挑発をぶつける。
「え? もしかして、エイジってば腰抜けか?」
「んな訳ねぇだろ! よし、俺がこの店の景品全部奪い去ってやろうじゃねぇか!」
存外、エイジはチョロかった。
深く酸素が吸い込まれ、次にたった今溜め込んだばかりの酸素が二酸化炭素混じりに吐き出される。
心を落ち着かせて集中する為のちょっとしたルーティンを行い、右手で銃を象る様にして的に向ける。
「…………」
だが、的である羽の生えた金のボールが素早く動く為に照準が定まらない。
「……て、これはまずいだろ!? 魔法男子高校生の映画で見たことあるぞ!」
「エイジが何を言っているか分からないけど、これは偵察用で開発中の魔道具だよ。試験運用で借りてきた!」
そう答えた刹那、エイジはルール無視に魔法銃を出して引き金を引き、弾丸がカイトの頬をかすって通過した。
そして、後ろの方からガシャッと恐ろしげな音が瞬間的に聞こえ、おそるおそる振り替える。
「ギャアァァァ!! スニ〇チが死んだあぁ!」
「名前までまるまる一緒じゃねぇか!?」
地獄の光景を前に悲痛の叫びを上げた後、カイトは犯人であるエイジの胸ぐらを掴もうとしたのだが、一瞬何かに気がついた様な表情を見せてギリギリでその手を止めた。
理由は簡単、
「ねぇ、お兄ちゃん。今さ、エイジ君に何しようとしたのかな? エイジ君は怪我してるよね」
にこやかに笑う妹の内に鬼を見たからだ。
「……えっとね、服が乱れてるから直してやろうかと思ったんだよ~。ね、エイジ」
そんな見え透いたウソを述べるが、
「いやぁ、どうだろう。てっきり俺は、胸ぐらを掴まれた後に殴られるのかと」
「おい!?」
エイジは助け船を出すどころか、カイトに重りを付けて大海原に甲板から突き落とす。
「お兄ちゃん、ちょっと話があるんだけどさ、良いよね?」
「僕としてはあまり宜しくないんですが……」
「あ、俺はそろそろ時間だし、控え室に戻るわ」
「待て! 僕を置いて逃げるのか!?」
その台詞を背中で受け取ると、エイジは振り替えってカイトの方を向き、何も言わずにただニヤリと笑ってその場を去って行く。
「ま、待て! 本当に待てください! 頼みます、お願いします! 僕を助けてください! あ、ああ、ぎゃあああああぁぁぁぁ!!」
「ふ、ハッピーエンドだな」




