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異世界コンティニュー ~ユグドラシルの奇蹟~  作者: 星神凛花
第二章 「王都聖騎士編」
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第三十八話 砕けるものと砕けぬもの

 現在、夜の二十時。

 魔力で灯る街灯が街を照らし、昼間とはまた違った雰囲気を醸し出す。


 王都には二十二時以降、一般人の外出を禁じるというルールがある。その為、この時間に出歩く人の数は昼間の四分の一程度。


 そんな時間帯に、エイジは一人で正門近くの通りを歩いていた。

 理由は人探し。対象の人物は、自分の妹である桐山瑠花だ。

 シュバラより、瑠花が王都にいると言われてもう数日が経過しており、既に王都を出ている可能性も少なくはない。


「ハァ…見つかんねぇな……」


「何かをお探しかな?」


「え?」


 ため息混じりの呟きを聞いたであろう一人の人物がエイジを尋ねた。

 その人物は見め六十代の男性だ。


「いや、いきなり申し訳ない。君が困っている様に見えたものでね。迷惑だっただろうか?」


「……あなたは?」


「おっと、これまた失礼。私はアヴィケブロンと言う者だ。どうぞよろしく」


「アヴィケブロン………?」


 アヴィケブロンという名に微かに聞き覚えを感じたエイジだが、それよりも重要視すべき点が一つある。

 それは――


「何故そう身構える?」


 エイジへと向けられた僅かな悪意。


 この場合、エイジは慎重に行動すべきなのだろうが、魔力を解放し敵意を返してしまう。


「なるほど。バレた、と言う訳か」


 当然、気づかれたと知ったアヴィケブロンの雰囲気が変わり、堂々と魔力を解放した。

 それと同時に、エイジは後ろへと大きく飛び退き、戦闘体勢に入る。


「まさか、私の殺気に気づくとわね。限りなくゼロに押さえていたのだけれど……」


「向けられた悪意には敏感でね。それに、話し掛ける寸前まで気配を消してたのは愚作が過ぎるな」


「うむ。一理あるな」


 鋭い目でアヴィケブロンを睨み付けるエイジは、自分の右手に魔法銃を出し、相手目掛けて引き金を引いた。

 しかしその弾丸は、アヴィケブロンの前で急に盛り上がった地面に防がれてしまう。


「何だよそれ…!?」


「私の魔法だよ。さぁ、『形を成せ』」


 アヴィケブロンの前で盛り上がった地面。正しく言うなれば土なのだが、それが『形を成せ』という言葉に反応を見せ、数秒の後に立派な土人形を象った。


「まさか、これはゴーレムか!?」


「大正解だよ。故に、君には褒美が必要だろうね。遠慮なく受け取るといい」


 アヴィケブロンが再び魔法を発動する。

 しかし、今度作り出したゴーレムの数は先程の倍の十倍である二十体だ。

 それも、エイジをぐるりと包囲する位置取りでだ。最悪という言葉が似合う状況だと言えるだろう。


「チッ! こんなプレゼントは願い下げだっての!」


「返却は不可だ。ゴーレムに告ぐ、『戦闘許可を出す』」


 アヴィケブロンより戦闘許可を得た二十一体のゴーレムたちは、一つしかない飾りの瞳を赤く光らせ、エイジへと荒々しい攻撃を開始しだす。


 魔法銃のトリガーを引き、ゴーレムへと弾丸を放つが、土人形のゴーレムにはエイジの雷が通用せず、ダメージを与えることが出来ていない。


「なら、単なる魔力弾で撃ち抜くだけだ!」


 複数のゴーレムが迫るなか、エイジは魔法銃に装填していた雷の魔力弾を消し去り、属性変換無しの魔力を装填し、ゴーレムの攻撃をかわして頭部を撃ち抜く。


 エイジは既にサーチエリアを発動済みで、普通なら背後からの攻撃であろうと全て見えているに等しいが、何故かアヴィケブロンと、その前に立っている最初のゴーレム以外に反応はない。


「――ああああぁぁッ!!」


 その為、背後にいたゴーレムへの反応が遅れてしまい、そいつの攻撃を直に受けてしまう。


「くッ……そう簡単に負けてたまるかよ!」


 しかし、受け身をとって身軽に起き上がり、自分に攻撃したゴーレムの足を狙ってトリガーを引き、見事命中させて吹き飛ばす。

 足をやられたゴーレムは倒れる際、近くにいた別のゴーレムを巻き込んで倒れ、その隙を突いて魔力の弾丸で頭部を撃ち抜く。


 魔物と違って知性や感情が無いゴーレムは、ただただアヴィケブロンの命令に従い、エイジへと絶えず攻撃を仕掛ける。

 だが――


「このままじゃ、俺に勝ち目は無いな……。なら、やるべきことは一つ――」


 エイジはその攻撃をかわし、ゴーレムを踏み台にして高くジャンプする。

 そして、魔法銃を左手に持ち変えで右手に雷刃を出し、それを天へと向けて振り上げ、雷を空へ打ち上げる。


「援軍を呼ばせてもらう!」


「――無駄だよ」

 

 アヴィケブロンがそう口にした刹那、雷刃から放たれた雷が空中で何かにぶつかり、呆気なく妨害された。


「はッ!?」


 増援にこそ失敗したが、エイジは着地と同時にゴーレムの包囲網から脱出に成功。不利な戦況は変わらないが、先程に比べてましだと言えるだろう。


「クソ! いったい何が起きた…!」


「流石に驚いているね。しかし、驚いているのは私も同じだよ。まさか、本当に魔道具で外部干渉不可領域を作りだせるなんてね」


「魔道具だと?」


「ああ。発動した刹那に時間軸のズレた空間を形成し、半径五メートル以内にいる人物を隔離する能力でね。話し掛けた際に発動させてもらった」


「つまり、助けはこないと……」


「そうだとも」


「つまり――本気で暴れても街に被害はでない!」


 絶望やむなしの現状だが、エイジは勝利の一点を見据え、切り札を切る。


「ユニーク発動!!」


 エイジの魔力が高まり、黄色く眩い稲妻が周囲で弾ける。

 密度の高い雷の魔力に反応し、エイジが右手に握る雷刃もバチバチと雷を放つ。


「行くぜ!!」


 全力で駆け出したエイジは閃光が如く速さで量産型ゴーレムの前まで距離を詰め、鮮やかな刀さばきで両断し、魔法銃で周囲に立つゴーレムたちの身体に風穴を穿つ。

 ゴーレムの数は一気に減り行くが、エイジの勢いは加速の一途をたどり、次々と土人形を土塊に還していく。


 サーチエリアに反応しないゴーレムは最後の一体になり、攻撃をかわしたエイジが懐に潜り込み、ゴーレムの顎に魔法銃を当て、


「これで――チェック」


 迷いなくトリガーを引いた。


 崩れるゴーレムを迂回し、アヴィケブロンの前に立つ最後のゴーレムへと一直線に進み、


「チェックメイトだぁ!!」


 魔力を纏わせた雷刃を振るった――のだが、その攻撃はゴーレムの左腕に見事防がれ、魔力を纏わせていた雷刃が勝利への希望と共に砕け散た。


「――ッ!?」


 そして、攻撃に大半の魔力を回していたエイジはゴーレムの繰り出すカウンターに対し、防御系魔法の発動を間に合わせる事が出来ず、


「――があああああああぁぁぁぁ!!」


 右腕の強打を直で受けてしまい、そのまま建物の壁まで吹き飛ばされ、壁を破壊した。


 崩れた瓦礫を押し退け、直ぐに起き上がったエイジではあるが、反射的に攻撃を防ごうとした左腕の骨は今の一撃で折られてしまい、魔法銃を持ち直した右手で左腕を押さえている。


「なんだ、そのゴーレムは……!?」


「知りたいかい? まあ、当然のことか。一体だけ戦闘能力が違うのだからね」


 勝利を確信して余裕を出すアヴィケブロンは、戦闘能力の違うゴーレムの種明かしをなんの躊躇もなく行う。


「今、私の右手には一つの魔石がある。そして、ゴーレムを作る際に、この魔石を体に組み込むだけで完成だ」


 エイジに見せた魔石を、アヴィケブロンはゴーレムを象る段階にあった土に投げ込み、魔石を取り込んだゴーレムが完成し、サーチエリアに反応が一つ増えた。


「どうだね?」


「……確かに、ウソじゃなさそうだ。でも、直にお前を倒せばいいだけだ!」


 アヴィケブロンの前に立つ二体のゴーレムにできるだけ接近して、ユニークで強化された脚力でジャンプし、二体を無視してアヴィケブロンの背後に回り込む。

 着地と同時に銃口をアヴィケブロンと向けたが、三体目のゴーレムを作られた為、後ろに飛び退いて距離を取り、今度は右側に回る。


「切り札が破られたというのに、少年君はまだ諦めないのか……」


「当然! 勝ち筋はまだあるからな!」


 エイジの進行方向にゴーレムたちが回り込もうとするも、その速度はエイジに劣っている為に間に合わない。


「もらったッ!!」


「それはどうかな?」


 アヴィケブロンもエイジの方は見ておらず、ゴーレムも間に合っていない。

 エイジが逆転の一手を決めるには他とないチャンス。故に、もっと警戒すべきであった。


「――なッ!? ああぁ!!」


 距離を詰めに接近したエイジの足元には、アヴィケブロンが先程見せた魔石と同じものが落ちており、それを取り込んで生成された巨大な腕に拘束されてしまったのだ。


 巨大な腕の力は強く、ユニークを発動したエイジでも抜け出す事ができない。


「捕獲完了。私の勝ちだね」


「何言ってやがる! 俺はまだ負けてなんか――がああああああぁぁぁ!!」


 エイジを拘束している腕の力が少し強まり、折れた左腕を始めに、全身に激痛が走る。


「今ので分かったろ? 私は何時でも君を殺す事が可能だ。つまり、君の敗けだよ」


「くッ……!」


「今の君では、私に勝つことは不可能だ」


「……なら俺が、今ここで進化した俺になればいいだけの話だぁ!!」


 覚悟を叫び、暴走や自滅を覚悟でエイジが全魔力を解放しようとした瞬間だ、


「その覚悟よし!」


 誰も干渉不可能な筈であるこの空間に、謎の青年男性一人が干渉し、空間に侵入を遂げた。

 そして、何も無き虚空より一振り剣を創成し、エイジを拘束している巨大な腕を易々と切り裂き、落下するエイジを抱えてアヴィケブロンから距離を置いた。


「大丈夫…ではなさそうだな、腕が折れている。ティア、応急処置を頼む」


「任せておいて、ジーク!」


 エイジを救出したジークが応急処置を頼むと、ティアと呼ばれた青年の女性もこの空間に干渉し、エイジの側に表れた。


「うむ、実に最悪だな。まさか、君たちファンタズマに出会すなんてね」


「俺は逆だよ、アヴィケブロン。貴様を倒すチャンスなのだから、最高に他ならない」


 ジークが剣を構える。

 それに対するアヴィケブロンは、一気に十個の魔石を取りだし、戦闘能力の高いゴーレムを十体も作り上げる。


「私も、少しは本気を出すとしよう」


「ならば俺は、本気である貴様を凌駕しよう。この(つるぎ)、バルムンクに誓って!」

 

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