第三話 最初の魔法
二人は話し合いの後、受けるクエストを決めて発注し、カイトは少し用があるからと言って宿に戻って行った為、エイジは先に街の外に来ていた。
受けたクエストはコボルドの討伐クエストで、エイジの今いる街、イニティウムの辺りで一番多い魔物だ。
候補はもう一つ、森を縄張りとしているゴブリンの討伐という上がっていたのだが、森の近くに危険な魔物目撃されたとの情報を受付嬢に聞いたため、カイトがコボルドの方を選択した。
それに、エイジはまだ魔法が使えない。それ故、できる限りの危険回避は仕方ない。
しかし、魔法が使えない事をエイジは隠さずにカイトに告げると、カイトはエイジに魔法の使い方を教えると言い、直ぐに使えるようになるとの事だった。
「さて、カイトが来る前に、少しは魔法の練習でもしてみるかな。迷惑ばかりは掛けられんしな」
街の入り口から少し離れた場所で、周りに魔物や人がいないことを確認したエイジは、目を閉じて意識を集中する。
(カイトは直ぐに使えるようになるって言ってたし、魔法を使えるのは普通の事。つまり、何も難しい事じゃない。必要なのは感覚だな…)
エイジはカイトとの会話を思いだし、魔法が使えないと聞いたときに見せた驚きの表情と、後から発した言葉から推論を出す。
そして、その推論は当たっており、意識を集中するエイジの周りに光が現れ、エイジはその光りから力を感じとり、目を開いて自分の手足に視線を送る。
「これは、魔力か? これを魔法に変えるには……ダメだ、分からん!」
溢れる光りを消し、エイジは近くの木陰に腰を下ろしたとき、エイジの頭に葉が落ちた。
その葉を右手で取り、エイジは葉が落ちてきた上を見上げた。
「街の何処にも桜の木が無かったし、この世界では桜は咲かないのか? もしも、そうだとしたら、なんか切ない感じがするな……」
そう呟いたとき、強めの風が吹いて、エイジが指先で掴んでいた葉をさらっていく。
エイジが、葉が飛んでいった方を向くと、そこには白髪の少女が一人立っていた。
「ねえ、あなたがさっき言ってた桜ってなに?」
その少女はエイジの呟きを聞いており、桜についてエイジに訪ねてきた。
「桜って言うのは、淡いピンク色をした綺麗な花の事だよ」
「そうなんだ。あ、私の名前はシルヴィア。あなたの名前は?」
「俺はエイジ。君は一人で外に来たのか?」
「違うよ、お兄ちゃんと来たんだ。街から出たら、こっちの方に光りが見えたから気になって、お兄ちゃんを置いて走ってきたんだ」
同じ苦労を味わった事のあるエイジは、何処かにいる兄に同情を送ると共に、シルヴィアに一言告げる。
「あんまり兄ちゃんを困らしてやんなよ。多分、今も必死で探してると思うぞ。ほれ」
エイジは、遠くで走り回るカイトの方を指差した。
「シルヴィアの兄ちゃんって、カイトの事だろ?」
「正解! なんで分かったの?」
その質問に、エイジは自分の髪を指先で掴んで答える。
「街で見掛けた白髪はカイトだけだからな。それに、冒険者のほとんどが酒を飲んでたし、危険な街の外にでる人は限られてくるからな」
「私はギルドに行ってないから分からないや」
「そっか。お、カイトがこっちに気づいた」
エイジはカイトに軽くてをふり、隣に立っているシルヴィアに話しかける。
「一緒にクエストに行くんだろ? よろしくな、シルヴィア」
「よろしくね、エイジ君。それじゃ、行こっか!」
エイジに笑みを見せたシルヴィアは、カイトの方へと先に走って行き、エイジはその後を歩いて追う。
カイトは軽くシルヴィアに説教しており、歩いて来ていたエイジ方をチラチラと見て救助を求めていた。
「カイトー。説教もほどほどに、魔法を教えてくれるか」
「エイジ君、ありがとう! 私を助けてくれるんだね!」
「説教の続きは街でやってくれ」
「鬼!!」
「冗談だ。そのくらいで勘弁してやれよ」
「……まあ、エイジが言うなら」
そう言って、カイトの説教タイムは終了し、エイジに魔法を教えてくれるはずだったのだが、邪魔が入る。
「「ガアアアアアアアァァァァァァ!!!」」
それは、鬼の姿をした二体の魔物だ。
「どうしよう、エイジ君! 鬼が三体に増えちゃったよ!?」
「お前、全く反省してないだろ?」
「話してないで逃げて! この二体は手負いのせいで興奮状態になってる! かなり危険だ!」
(あ! 俺、なんか身に覚えがあるな……)
「僕が相手をする!」
カイトは二人の前に立ち、魔法を使う。
「武装魔法・『クリムゾンフランベルジュ』」
その魔法により、カイトの前に刃が炎の様に波打つ剣が現れ、カイトはそれを右手で掴み、二体の魔物に立ち向かう。
そして、エイジはその魔法発動の瞬間を目に焼き付ける。
「シルヴィア、武装魔法の発動に必要な事ってなんだ?」
「こんな状況でどうしたんです?」
「こんな状況だからだ! カイト一人に戦わせる訳にはいかない! 頼む!」
カイトを置いて逃げることなく、エイジは戦いに加わる為にシルヴィアに魔法についての質問をした。
「うーん。全ての魔法において、発動に必要なのはイメージと技術力に魔法式ですかね。武装だと、魔法式がいらない代わりに、武器種のイメージが必要不可欠です」
「サンキュー! それさえ分かれば十分だ!」
シルヴィアにそう礼を言って、エイジは魔物の方に向かって走り出す。
そして、自分の使いやすい武器を頭で思い浮かべ、それを武装魔法で造り出すイメージをして叫ぶ。
「武装魔法、発動!!」
すると、エイジの前に強い光りが現れ、それがエイジのイメージした武器をかたどり、エイジがそれを掴むと光りが弾け、刀身が黒色で、稲妻を描く様な黄色いラインが入った刀が姿を表した。
武器をもったエイジは、カイトと戦っている魔物の内一体の身体を傷口にそって切り裂き、刃が通った宙を雷が走りる。
その攻撃で魔物は倒れ、振り替えったエイジがもう一体の魔物も傷口を切り裂き、雷の攻撃で倒した。
「雷刃」
エイジは、自分の持つ刀の刀身を見ながら、刀につけた名前を呟いた。