第三十七話 料理スキル
現在、エイジはシルヴィアと二人で街に来ている。
シルヴィアが日用品の買い出しに行くと聞き、エイジが荷物持ちに志願したのだ。
「王都の街はかなり広いね。昨日来たときもビックリしちゃった」
「確かに、ここはイニティウムの三倍の広さはあるもんな。案内図を見て引いたよ」
「私はワクワクしちゃった! 次に来たときはいろいろと見て回りたいかも」
「ならさ、今から俺と見て回ろうぜ」
「いいの!」
「買い出しは急ぎの用じゃないしな。それに、シルヴィアには朝のお礼がしたい」
そう言って右手を差し伸べる。
「行こうぜ」
「うん!」
先ず先に二人が向かったのは街の魔道具店。
建物がイニティウムの魔道具店よりも大きいだけあり、売っている魔道具の種類や量もイニティウムの倍以上だ。
しかし、こんなに種類が多くとも、エイジは魔道具の使い方や効果をいまいち分かっていない。
その為、使い方がシンプルで分かりやすい物をシルヴィアに聞き、それを見て買うかの審議を行う。
「エイジ君、魔封石なんてどうかな! この魔石には魔法を封じてあって、低威力だけど多種の属性魔法が使えるんだ。使い方は簡単、魔力を込めて投げるだけ!」
「へぇ、試しに水の魔封石を二つ程買っとくかな」
値段が一つ千円である水の魔封石を二つ購入し、ズボンの右側ポケットにしまう。その後、二人は魔道具店を後にした。
次に向かったのが甘味処。
案内図を見たエイジが真っ先にサーチしておいた場所で、ちょうどシルヴィアを誘おうとしていた。
店に入って奥の席についたエイジは、テーブルに置いてあったメニュー表に軽く目を通すと、自分の大好きなパフェを注文。シルヴィアはクリーム餡蜜を注文した。
注文の品が届くまでの待ち時間。
話題を探そうとしたエイジは、今朝シルヴィアが王様に言った一言を思い出し、それを質問してみることにした。
「……今朝、王様が望みを聞いた時の話だけどさ、俺にしか叶えれないシルヴィアの願いってのはなんなんだ?」
そのストレートな質問に対し、シルヴィアは何も嫌がることなく口を開いていう。
「私ね、エイジ君の好きな桜の花を見てみたいんだ。それをね、皆と一緒に見て、皆で同じ思い出を共有したいんだ……」
エイジがシルヴィアと初めて出会った日の最初の話題。
まだ数日しか経ってはいないのに、それから大変な日々が続いたせいだろう、二人はその日を懐かしく思う。
「あれ? そう言えば、エイジ君の故郷って何処なの?」
「うーん、何て答えたらいいかなぁ? ごめん、いろいろ複雑で説明が難しいや」
質問に対してどう答えたらいいかを考えた結果、エイジは下手に異世界の事を話してはならないという結論に至り、怪しまれない程度で話を誤魔化す。
「そうなんだ、ちょっと残念かな……」
「本当にごめん。その代わり、シルヴィアの願いは絶対に叶えて見せるから」
「うん! 期待してるね」
その後、二人が注文した品がテーブルへと運ばれ、美味しそうなパフェと餡蜜が二人の前に並べられる。
「やっぱり美味しそうだな!」
「こっちの餡蜜も美味しそうだよ!」
「あ、そうだ。シルヴィア、帰ったらスイーツの作り方を教えてやるよ」
「本当! やったー! 後で材料を買わないとだね!」
溢れ出す笑顔はとても可愛らしく、心の底から喜んでいることがうかがえる。
そして、エイジ自身も喜んでもらえたことに喜びを感じていた。
甘味を堪能し終え、店を後にしてからようやく本来の目的である買い出しに向かった二人。
次もまた二人で来るという約束ができて満足なシルヴィア。その表情は曇りなき晴れである。
元より買う予定だった物に加え、スイーツの材料を大量に買い込んだ後に帰宅。
帰りついた時刻は十四時で、昼食を食べていない留守番二人が空腹で待っていた。
「やっと帰ってきた~! エイジ、何かご飯を作ってよ~。または、高級ステーキを奢ってよ~」
「ざけんな! 前者はともかく後者は論外だ!」
「え! エイジさんは料理ができるんですか!?」
「まぁな。俺の両親は料理が苦手だったからさ、代わりに俺が料理スキルを磨いたって訳だ。ほれ、おみあげのマカロン。これ食べながら待ってな」
二人へのおみあげに買っておいたマカロンをカイトに渡し、材料の入った袋を持ってエイジはキッチンに向かっていった。
「家庭的なエイジ君……うん! 何がとは言わないけどいい! 私との完璧な未来像が見えるよ!」
「いいえ、その未来像は間違いなく幻ですね」
「何を根拠に! 最終的未来の終着点は分からないじゃない!」
「残念ですが、終着点行きの切符を手にしているのは私です。諦めてください」
全く持って醜い争いである。
その醜い争いの中、戦場の中心にいるべき人物は、カイトを戦場に置き去りにして昼食の準備中だ。
「これは…かなりしんどいな……。よし! キッチンへ避難しよ」
エイジより受け取ったおみあげをテーブルに置き、中に入っていたマカロンを一つ口に運ぶとキッチンへと向かって行った。
「エイジー、何か手伝うことない?」
「別にないけど」
「味見なら任せて!」
「自分でやらないと味を調節できないし」
「他者の意見も重要だって!」
「必死だな……分かったよ」
エイジに押し勝ったカイトは見事手伝いの役割を獲得した。
しかし、エイジが作ろうとしていたのはパエリア。味見を行う過程がほぼ無いに等しく、カイトはガチ目に手伝わされる羽目となるのだが、それを知るのは数分も後の事。
「さぁエイジ! 料理を始めようか!」




