第三十六話 勝利への誓い
アーサーの発した驚きの一言。
予想すら出来ない様な状況に、二人は頬を染め、時が止まっているかの様に固まっている。
「そんなに驚くことでもないだろ」
「いやいや、普通に驚きますよ!」
ようやく時を刻みだしたエイジがアーサーにそう言い、一旦心を落ち着かせる。
その隣に座っているフィルディアもようやく正気に戻るが、何を言って良いのかが分からずに黙り混む。
「……あの、一つ聞いてもいいですか? 何故こんな話を持ち出したんですか?」
「それは、フィルに残された自由が少ないからだ」
「残された自由?」
その言葉を聞き、フィルディアは何かに気づいたかの様な表情をした後、辛そうに俯き、黙り混んでしまった。
「フィルディアは十六歳の誕生日の日、婚約者と結婚しなくてはならない。その誕生日は五月五日、あと三週の時もない」
家庭の事情と言うか、王家のしきたりと言うのか。どちらにしろ、部外者が関わるべきではないと思えるその話を聞き、エイジは戸惑いながらもフィルディアの方を見る。
その瞳に映ったフィルディアの姿から、その結婚をフィルディア自身は望んでいないと察し、残された自由の意味を理解した。
「……でも、結婚まで三週の時もないなら、フィルの婚約者は既に決まってるじゃないですか?」
「婚約者の候補なら三名いるが、まだ決まっていない。決めるのは五月一日、方法は決闘だ」
「決闘ですか………」
決闘の単語を聞き、何故か無償に嫌な予感がした。それは、エイジの単なる直感であるが、直感とはあながちバカにできない。
「その決闘には、エイジ、お前にも参加してもらいたい」
「……何故ですか?」
「理由は簡単、十八歳ではないお前が勝利した場合、年齢を理由に結婚自体にズレが生じるからだ。そうなれば、フィルディアの自由は延長できる。だから、参加してほしい!」
アーサーも、娘の望まぬ結婚は辛いことであるが、流石に一族のルールは無視できない。
故に、このチャンスはものにしたい。
二十秒程の沈黙が続いた後、自分の考えをまとめてエイジが口を開く。
「二つ条件があります。それを承諾してくれるなら、俺は――必ず勝利して見せますよ」
三人の婚約者候補に一人が加わり、候補が正式に四人となり話は終了した。
これは、エイジの提示した二つの条件をアーサーが了承した為だ。
そして現在、エイジはフィルディアの案内の下、イーニティウス兄妹がいる場合へと向かっていた。
「目的地はこの先ですね」
「……全く人通りがないな」
「当然ですよ。この先は王家の私有地ですから、家も一軒しか建っていません。そして、今日からそこが、私たちのパーティー、その活動拠点です」
「カイトもそこまでは望んでなかったけどな」
カイトの願い。それは、パーティーの活動拠点となる場所だった。
そして、アーサーがこの場所を譲った。
流石のカイトも遠慮し、もっと普通の場所をと言ったが、結局アーサーに押し負けたのだ。
「お父様は真面目ですから、何も望まなかった二人の分も兼ねているんですよ」
「なるほど。若干伝わってきた必死さはそれという訳か……。お! 家が見えてきた」
家が見えたとき、その前にはエイジたちへ手を振るシルヴィアの姿がある。
エイジがそれに気づき、そちらへと走り出そうとしが、
「エイジさん!」
後ろにいたフィルディアに呼び止めれ、その方へ振り向いた。
「あ、あの……婚約の話に巻き込んでしまってごめんなさい!」
「いいよ、別に。それよか、二人が待ってるから早く行こうぜ」
そう言ってエイジは一人走って行く。その後をフィルディアは追いかける。
エイジがアーサーに提示した条件。
条件その一。エイジが勝利した場合、フィルディアに婚約破棄の自由を与える事。
条件その二。婚約を破棄した後、フィルディアが誰かと結婚するまでに半年の猶予を与える事。
二つとも勝利しないと無意味な条件である為、エイジは必ずの勝利を誓った。
全ては、皆でいるこの時間を守りたい為。




