第三十五話 それぞれの望み
エイジ、カイト、シルヴィアの三人が招かれたのは城内にある一室。
ソファーに座っているアーサー、台を挟んだ先のソファーに三人も座る。真ん中にエイジ、その右にカイト、左にはシルヴィアだ。
「病み上がりのところを呼んでしまってすまない」
「いえ、休んで体力も全快してたので大丈夫です。お気遣い、感謝します」
そう答えたエイジが頭を下げ、左右に座る二人もつられて頭を下げる。
「あっはは! 止してくれ。ソファーに座っている今では格好がつかない。もっとフランクに話してくれ」
領主相手にも同じ様な事を言われ、それを了承してフランクに話していたエイジだが、流石に王様相手には了承しかねている。
「強制はしない。好きな方で構わないさ」
アーサーがそう優しく言った後、エイジの隣に座っていたカイトが口を開く。
「僕はお言葉に甘えるよ。丁寧な口調はどうも苦手だからね」
カイトは躊躇わずに堂々としているが、妹のシルヴィアは緊張で口数が少ない。
エイジの場合は、どちらかに片寄りがある訳ではなく曖昧な感じだ。
「あの、王様。内のリーダーの姿が見当たらないんですが………」
故に、アーサーに対して敬語のままだ。
「フィルディアなら別の部屋だ。まぁ、その話は後にしよう」
一旦フィルディアの話を打ち切ると、アーサーは台の上にあるものを置いた。
「エイジ、お前にこれを返しておく」
それは、エイジの武装魔法である銃だ。
エイジがそれを手に取ると、中に込められていた魔力は無くなっており、死神に囚われていた人たちを助け出したと直ぐに理解できた。
だが、エイジには唯一気になる事があり、銃を消し去ってからその事をアーサーへと尋ねる。
「皆は無事でしたか………?」
そう口にしたエイジの拳は強く握られており、質問の答えに対する恐れを抱いている事がうかがえる。
「皆、魔力を大量に抜かれ消耗していたが、命に別状はない」
「そうですか。よかった………」
アーサーの答えを聞いた瞬間、握り締められていた拳から力が抜け、心の底から安堵し、心の底から喜びが沸き上がる。
「皆が助かったのはお前たちのおかげだ。故に、俺は王として礼がしたい。何か望みはあるか?」
アーサーの口にしたその一言を聞き、エイジは心を落ち着かせて少し考えてみたが、思い付くものは何一つなかった。
同じく、シルヴィアも何一つ思い付かないようで、エイジの隣で首を傾げている。
「お前たち二人に欲はないのか?」
「いえ、望みはあります。ただ、その望みは自分自身で叶えたいものなんです」
「私の望みは、エイジ君にしか叶えられないことですから!」
真っ直ぐな瞳で答え、エイジの方を向いてシルヴィアが笑顔を見せた。
しかし、エイジには望みの内容に見当がつかず、頭の上にハテナマークを浮かべるかの様な様子だ。
「となると、後はカイト、お前だけだな」
「うーん………」
二人と同じく他人に望むような願いを持ち合わせていないカイト。必死に考えてはみるが、それもシルヴィアと同じくエイジにしか叶える事が出来ない。
その為、カイトは考え方を変える。
自分が今何を望んでいるかではなく、自分たちに今何が必要か。
そう考えるといろいろ思い付く。
その中でも重要で、あとあと必須になりそうなものへと案を絞る。
それでようやく答えにたどり着く。
「願いが決まったよ」
俯き考えていたカイトがソッと顔を上げ、アーサーの方を向く。
そして、今絞り出した願いを言う。
「僕の願いは――」
カイトが願いを告げた後、カイトとシルヴィアは席を外す事となった。
「それじゃ、僕とシルヴィアは準備をしないとだから、先に行ってるね」
「エイジ君、また後でね」
「ああ、俺も話が終わったら直ぐに向かうよ」
部屋から出て行く二人へと手を振り、扉が閉まるのを確認するとアーサーの方を向いた。
「それで、話ってなんでしょうか?」
「お前たちのリーダー、フィルディアの話だ。入ってこい」
アーサーの一言から数秒後、今二人が出ていったばかりの扉が開き、ドレスに身を包んだ人物が入ってきた。
その人物の名はフィルディア、エイジたちのパーティーリーダーだ。
「よお、フィル」
「エイジさん………」
フィルディアは悲しそうに、そして辛そうに呟く。
エイジ自信、フィルディアが何を言わんとしているかは知っている。
ここにはアーサー王がいる。
そして、フィルディアは聖剣に選ばれた一族とグリムリーパーが言っていた。ここまで情報が揃えば間違いようがない。
「私の名前は、フィルディア・ペンドラゴン。ミズガルズの王、アーサー・ペンドラゴンの娘です………」
「………え! 妹じゃないの!?」
間違いようがない筈であったが、エイジの予想、確信は外れており、驚いてソファーから立ち上がる。
しかし、驚くのも仕方ないかもしれない。
「え、だって王様こんなに若いよ!?」
そう、アーサーは何処をどう見ても二十代前半にしか見えない程に若いのだ。
「お父様は異常なので、あまり気にしないでください。それより………怒らないんですか?」
少しシュンとしたフィルディアは、エイジに怒られ嫌われるとでも思っているのか、微かに震えている。
そんなフィルディアの質問に対し、エイジは質問で返す。
「フィルを怒る必要が何処にあるんだ?」
「だって、私は自分の身分を隠してました……」
「それがどうしたよ。聞かれなかったから言わなかった、ただそれだけの話だろ? それに、今話してくれた。それで十分だ」
「ですが………」
「フィルはフィル、俺たちの仲間であることにかわりない」
「エイジさん…………!」
目頭が暑くなったが、フィルディアは涙を必死に堪え、代わりに最高の笑顔をエイジに見せる。
「やっぱり、フィルには笑顔が一番似合ってるよ。俺が保証してやる!」
「はい! ありがとうございます!」
(ああ、青春だな………)
フィルディアが部屋に来たことで、アーサーが話す準備は整った。
その為、エイジは改めてソファーに腰をおろし、アーサーと向き合う。そして何故か、フィルディアはエイジの隣に座る。
「それでは話を始めさせてもらおう。先程も言った様に、話の内容はフィルディアのことだ」
「私のこと?」
フィルディアも先に内容を聞かされておらず、自分のことと聞いて首を傾げる。
エイジは大事な話であると理解している為、真剣な表情で話をするアーサーの方を向いている。
そして、そんな二人を見ながらニヤリと笑みを見せたアーサーが口を開く。
「エイジ、君の事はフィルディアから聞いている。告白したらしいな」
「なッ!?」
エイジが即座に横を向くと、フィルディアは慌てて言い訳をする。
「違います、違います! 私は告白されたなんて言ってませんよ! ただ、大好きだって言われたって言ったんです!」
「いや、意味は同じだろ」
一つため息を吐くと、エイジは気まずそうにアーサーの方を向き、話の続きを聞く。
「ここからが重要な話だ。エイジお前、フィルディアと婚約する気はないか?」
「「………え? ええええええぇぇぇ!!?」」
アーサーの口にしたとんでもない一言。
その一言が、エイジとフィルディアの頭の中を真っ白に染め上げた。




