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異世界コンティニュー ~ユグドラシルの奇蹟~  作者: 星神凛花
第二章 「王都聖騎士編」
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第三十五話 それぞれの望み

 エイジ、カイト、シルヴィアの三人が招かれたのは城内にある一室。


 ソファーに座っているアーサー、台を挟んだ先のソファーに三人も座る。真ん中にエイジ、その右にカイト、左にはシルヴィアだ。


「病み上がりのところを呼んでしまってすまない」


「いえ、休んで体力も全快してたので大丈夫です。お気遣い、感謝します」


 そう答えたエイジが頭を下げ、左右に座る二人もつられて頭を下げる。


「あっはは! 止してくれ。ソファーに座っている今では格好がつかない。もっとフランクに話してくれ」


 領主相手にも同じ様な事を言われ、それを了承してフランクに話していたエイジだが、流石に王様相手には了承しかねている。


「強制はしない。好きな方で構わないさ」


 アーサーがそう優しく言った後、エイジの隣に座っていたカイトが口を開く。


「僕はお言葉に甘えるよ。丁寧な口調はどうも苦手だからね」


 カイトは躊躇わずに堂々としているが、妹のシルヴィアは緊張で口数が少ない。

 エイジの場合は、どちらかに片寄りがある訳ではなく曖昧な感じだ。


「あの、王様。内のリーダーの姿が見当たらないんですが………」


 故に、アーサーに対して敬語のままだ。


「フィルディアなら別の部屋だ。まぁ、その話は後にしよう」


 一旦フィルディアの話を打ち切ると、アーサーは台の上にあるものを置いた。


「エイジ、お前にこれを返しておく」


 それは、エイジの武装魔法である銃だ。

 エイジがそれを手に取ると、中に込められていた魔力は無くなっており、死神に囚われていた人たちを助け出したと直ぐに理解できた。

 だが、エイジには唯一気になる事があり、銃を消し去ってからその事をアーサーへと尋ねる。


「皆は無事でしたか………?」


 そう口にしたエイジの拳は強く握られており、質問の答えに対する恐れを抱いている事がうかがえる。


「皆、魔力を大量に抜かれ消耗していたが、命に別状はない」


「そうですか。よかった………」


 アーサーの答えを聞いた瞬間、握り締められていた拳から力が抜け、心の底から安堵し、心の底から喜びが沸き上がる。


「皆が助かったのはお前たちのおかげだ。故に、俺は王として礼がしたい。何か望みはあるか?」


 アーサーの口にしたその一言を聞き、エイジは心を落ち着かせて少し考えてみたが、思い付くものは何一つなかった。

 同じく、シルヴィアも何一つ思い付かないようで、エイジの隣で首を傾げている。


「お前たち二人に欲はないのか?」


「いえ、望みはあります。ただ、その望みは自分自身で叶えたいものなんです」


「私の望みは、エイジ君にしか叶えられないことですから!」


 真っ直ぐな瞳で答え、エイジの方を向いてシルヴィアが笑顔を見せた。

 しかし、エイジには望みの内容に見当がつかず、頭の上にハテナマークを浮かべるかの様な様子だ。


「となると、後はカイト、お前だけだな」


「うーん………」


 二人と同じく他人に望むような願いを持ち合わせていないカイト。必死に考えてはみるが、それもシルヴィアと同じくエイジにしか叶える事が出来ない。


 その為、カイトは考え方を変える。


 自分が今何を望んでいるかではなく、自分たちに今何が必要か。

 そう考えるといろいろ思い付く。

 その中でも重要で、あとあと必須になりそうなものへと案を絞る。

 それでようやく答えにたどり着く。


「願いが決まったよ」


 俯き考えていたカイトがソッと顔を上げ、アーサーの方を向く。

 そして、今絞り出した願いを言う。


「僕の願いは――」




 カイトが願いを告げた後、カイトとシルヴィアは席を外す事となった。


「それじゃ、僕とシルヴィアは準備をしないとだから、先に行ってるね」


「エイジ君、また後でね」


「ああ、俺も話が終わったら直ぐに向かうよ」


 部屋から出て行く二人へと手を振り、扉が閉まるのを確認するとアーサーの方を向いた。


「それで、話ってなんでしょうか?」 


「お前たちのリーダー、フィルディアの話だ。入ってこい」


 アーサーの一言から数秒後、今二人が出ていったばかりの扉が開き、ドレスに身を包んだ人物が入ってきた。

 その人物の名はフィルディア、エイジたちのパーティーリーダーだ。


「よお、フィル」


「エイジさん………」


 フィルディアは悲しそうに、そして辛そうに呟く。

 エイジ自信、フィルディアが何を言わんとしているかは知っている。

 ここにはアーサー王がいる。

 そして、フィルディアは聖剣に選ばれた一族とグリムリーパーが言っていた。ここまで情報が揃えば間違いようがない。


「私の名前は、フィルディア・ペンドラゴン。ミズガルズの王、アーサー・ペンドラゴンの娘です………」


「………え! 妹じゃないの!?」


 間違いようがない筈であったが、エイジの予想、確信は外れており、驚いてソファーから立ち上がる。

 しかし、驚くのも仕方ないかもしれない。


「え、だって王様こんなに若いよ!?」


 そう、アーサーは何処をどう見ても二十代前半にしか見えない程に若いのだ。


「お父様は異常なので、あまり気にしないでください。それより………怒らないんですか?」


 少しシュンとしたフィルディアは、エイジに怒られ嫌われるとでも思っているのか、微かに震えている。

 そんなフィルディアの質問に対し、エイジは質問で返す。


「フィルを怒る必要が何処にあるんだ?」


「だって、私は自分の身分を隠してました……」


「それがどうしたよ。聞かれなかったから言わなかった、ただそれだけの話だろ? それに、今話してくれた。それで十分だ」


「ですが………」


「フィルはフィル、俺たちの仲間であることにかわりない」


「エイジさん…………!」


 目頭が暑くなったが、フィルディアは涙を必死に堪え、代わりに最高の笑顔をエイジに見せる。


「やっぱり、フィルには笑顔が一番似合ってるよ。俺が保証してやる!」


「はい! ありがとうございます!」


(ああ、青春だな………)




 フィルディアが部屋に来たことで、アーサーが話す準備は整った。

 その為、エイジは改めてソファーに腰をおろし、アーサーと向き合う。そして何故か、フィルディアはエイジの隣に座る。


「それでは話を始めさせてもらおう。先程も言った様に、話の内容はフィルディアのことだ」


「私のこと?」


 フィルディアも先に内容を聞かされておらず、自分のことと聞いて首を傾げる。

 エイジは大事な話であると理解している為、真剣な表情で話をするアーサーの方を向いている。


 そして、そんな二人を見ながらニヤリと笑みを見せたアーサーが口を開く。


「エイジ、君の事はフィルディアから聞いている。告白したらしいな」


「なッ!?」


 エイジが即座に横を向くと、フィルディアは慌てて言い訳をする。


「違います、違います! 私は告白されたなんて言ってませんよ! ただ、大好きだって言われたって言ったんです!」


「いや、意味は同じだろ」


 一つため息を吐くと、エイジは気まずそうにアーサーの方を向き、話の続きを聞く。


「ここからが重要な話だ。エイジお前、フィルディアと婚約する気はないか?」


「「………え? ええええええぇぇぇ!!?」」


 アーサーの口にしたとんでもない一言。

 その一言が、エイジとフィルディアの頭の中を真っ白に染め上げた。


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