第三十四話 ネクステージ
「……あれ? ここは………」
ベッドの上で目覚めたエイジの第一声。
記憶にある最後に見た光景は、憧れを抱いた人物の後ろ姿と自分を包む光。
光の正体が何であるかは理解できているのだが、何故光を見た後の記憶が無いのかは理解できていない。
ゆっくり上体を起こすと、自分が今いる部屋を見渡した後、あることに気がついた。
それは、エイジが今いる場所が宿屋ではないということだ。
そこは、宿屋の一室にしては広すぎることに加え、部屋にある家具が多い。そして、そのどれもがかなりの高級感を放ち、慣れない雰囲気でエイジの気が全く休まらない。
「誰もいない………」
そう呟き、ベッドから降りたエイジは扉の方へと向かったが、勝手に部屋から出てもよいものかと思い、ドアノブに触れようとした手を止めて下ろした。
ちょうどそのタイミング、部屋の外からノックが三回なり、扉がゆっくりと開けられ、シルヴィアがソッと顔を覗かせる。
その時、シルヴィアはエイジと目があった。
「え? ……え!? エイジ君が起きてる!? 体はもう大丈夫なの!?」
「おはよう、シルヴィア。ほれ、このとおり、俺の体には怪我一つな――へぶッ!?」
眠っている間に着替えさせられたであろう服、その上だけを脱ぎ捨て、無事を簡単に証明したのだが、顔を赤くしたシルヴィアに手に持っていた服を顔面に投げつけられた。
「わ、わざわざ見せなくていいから!?」
そう言い、両手で顔を覆ってはいるが、指の隙間から目を覗かせている。
「シルヴィア?」
「何も見てないです!!」
「いや、そうでなくて、この服は何?」
「ああ………そっちね。えーっと、エイジ君の服があまりにボロボロだったから、私が代わりの服を買ってきたの」
「そうだったのか、ありがとな。そんじゃ、早速着替えるか」
「分かった。じゃあ、エイジが起きた事を皆に報告してくるね!」
少女の笑顔を最後に、部屋の扉が閉じた。
「あ、何で俺が眠っていたか、質問するの忘れてた………けど、まぁいいか。それにしても、本当に体が綺麗だな……」
「なに自分の体を見て言ってるんだ……。流石の僕でも引くよ」
最悪のタイミングで扉が開き、軽くどころかドン引きした様子のカイトが入室してきた。
「入る前にノックぐらいはしろよ!? あと、綺麗ってのは傷が無いことを指摘したもんだからな! 変な勘違いはするなよ!」
「あはは、了解了解!」
カイトは扉を閉めると、近くにあった椅子に腰を掛けると、服を着替えている途中のエイジがある事を質問した。
「なぁ、俺は何で眠っていた? それと、何日の間眠っていたんだ? 傷や疲労の治りから考えて、最低でも二日は眠ってたみたいだけど」
それは、先程シルヴィアに聞きそびれた質問に自分の予想を追加したもの。自分のことである為、聞く権利も義務も当然ある。
「今日で四日目だから、三日の間だね。倒れた理由は……薄々気づいてるだろ?」
「……極限状態でのユニーク発動。その皺寄せ、つまりは負荷が一気にきたってところか………」
「フィルディアさんからの説教は覚悟した方がいい。エイジより凄い雷が落ちるかもよ」
「それは勘弁願いたいもんだよ」
上下の服を着替え終え、ベッドの隣にある台に置いてあった大切なペンデュラムを首へと掛け、部屋にある鏡の前に立った。
「おお! いい感じじゃないか! 後で、改めてシルヴィアに礼を言わないとだな」
「なら、スイーツの作り方を教えてやってよ。興味あるみたいだからさ」
「うーん、もっとシルヴィアが喜びそうなのがいいんだけど」
「なら、本人を街に誘えば? 色々な店があるから、欲しがる物があるかもだよ」
「………そうだな、そうしよう」
第一声の呟き以降、自分が何処にいるのかという疑問を忘れているエイジへと、カイトがあるカードを渡す。冒険者のライセンスカードである。
現在、エイジの持つライセンスカードに記されている冒険者レベルは十五。パーティーランクは最低のままだ。
ついでに、カイトの冒険者レベルは十八、フィルディアが九、シルヴィアが五である。
「厳しい世の中だな………」
ゲームとは違って楽ではないレベル上げ。そんな現実を受け入れてため息をつく。
受け取ったライセンスカードを内ポケットに入れてから少し後、三回のノック音の後に扉が開き、顔を覗かせたシルヴィアが言う。
「伝えてきたよ。それで、皆揃ったから話が聞きたいんだって」
「話? 誰が?」
首を横へと傾げてシルヴィアへと訪ねる。
「誰がって、そんなの王様に決まってるじゃん」
「………はい?」
ミズガルズの王都キャメロット。そこが、新たな伝説の始まる場所。桐山英志のネクステージである。




