第三十三話 ミズガルズの王
崩壊した街に創り出されたダンジョン。
それは、イニティウムの最悪を象徴するシンボルの様で、街と同じ様に崩壊の道を辿っている。それを止めることは誰にもできない。
「……エイジ君………」
マーリンに救出されていたシルヴィアが、祈るようなポーズで壊れ行くダンジョンを見上げている。
その隣に立つカイトはあまり心配した様子を見せてはいない。二人を信じ、エイジならフィルディアを助け、脱出するという確信があるからだ。
根拠などない。だが、その思いを疑おうとは決してしない。
「ん? 何だあれは」
そう口にしたのはアーサーで、崩れ行くダンジョンの二階付近にあたる外壁が、崩壊とは無関係と断言できるような壊れ方をしたのを見て指摘したものだ。
皆の視線が集まるなか、外壁を内側から蹴り破った張本人であるエイジが、フィルディアを横抱き、つまりはお姫様抱っこした状態で姿を表した。
「あのあの! これってもしかして、ここから飛び降りる展開ですか?」
「正解! しっかり掴まってろよ!」
エイジは数歩程後ろに下がると勢いよく走りだし、地面を砕く程の脚力で遠くを目掛けて飛び降りた。
ユニークを発動させているエイジの身体能力は普通の人の比ではない。
単なる身体能力だけなら、魔物を混ぜたガラムよりも驚異的だと言えるだろう。
その為、二階から飛び降りての着地などというものは余裕だ。
「よっと! 無事に帰還成功、ただいま」
カイトとシルヴィアへとそう言うと、横抱きしていたフィルディアをソッと下ろした。
「あはは……! やっぱり君は、とんでもない無茶をするんだね、エイジ」
「エイジ君、フィルディアさん……本当に無事でよかった………!」
「本当に心配をおかけしました、すいません。それと、ありがとうございます!」
流していた涙を拭いさるシルヴィアが、フィルディアへと笑顔を見せ、二人で笑い合う。
見ていて和む光景ではあるが、エイジにそんな事を気にする余裕がない。
何故なら、まだ危険な状況である事は何も変わっていないからだ。
「待て待て待て! いくら何でも不運が続きすぎだろ!」
崩壊していくダンジョンは先に土台を失ってバランスを崩し、エイジ達のいる方へと倒れ出したのだ。
「ダメだエイジ! 逃げるのは間に合わない!」
「なら破壊するしか――うッ!?」
戦う為に魔力を属性変換しようとした瞬間、身体中に激痛が走った事でエイジが膝をつく。
極限の戦いに限界突破でユニークの発動。
今のエイジには、倒れてくるダンジョンを破壊するどころか、弾丸一発を装填する事さえ不可能だろう。
「マーリン、帰還準備をしろ。ダンジョンは俺が何とかする」
「了解!」
そう言い、エイジ達の前に立ったアーサー。
その右手には光輝く剣が握られている。
「まさか、聖剣エクスカリバー………!? てことはこの人が――」
エクスカリバーを握る手に力を入れ、左へと引いて構える。
その姿は、攻撃モーションで無駄に魔力を放っているエイジとは違い、とても静かで無駄を一切感じさせない。
左へと構えたエクスカリバーを、アーサーは斜め上から迫るダンジョン目掛けて右へと切り払う。
すると、エイジの出した斬撃よりも遥かに凄まじい威力の剣圧が放たれ、迫るダンジョンを一撃で破壊してしまう。
「間違いない、この人がアーサー………ミズガルズの王だ!」
その瞬間、エイジの顔は驚きと憧れが混ざったかの様な表情を見せた。
「準備完了、行きます!『テレポート』!」
足場に広がった大きな魔方陣。それは、内側にいた人物全員を光で包み、一瞬にしてその場から姿を消し去ってしまった。
そして、誰もいなくなったその場所に、破壊されたダンジョンの瓦礫が虚しく降り注いだ。




