第三十二話 崩壊と脱出
戦いは終わった。
しかし、時はエイジ達を勝利の余韻に浸らせずして進み、次なる災難を呼び寄せる。
「おいおい、冗談だろ!?」
「ダンジョンの……崩壊が始まった」
激しい戦闘のせいか、グリムリーパーがこの地を去ったせいなのか、エイジ達を最上階に残しているダンジョンは、地揺れと共に崩壊しだしたのだ。
「これでは、今から逃げても間に合いません!」
「お兄ちゃん! 私の肩に掴まって!」
「僕はいい、先に逃げるんだ」
最上階である二十階からでは、ダンジョンの崩壊より先に脱出するのは不可能。
だが、グリムリーパーはこれを狙っていたと言わんばかりの奇跡が都合よく起きた。
「間に合った!」
それは、外でグリムリーパーと戦っていたマーリンがテレポートの魔法を使い、ダンジョンに取り残されたエイジ達の元まで駆けつけたのだ。
マーリンは即座にテレポートの魔方陣を展開すると、その場にいた全員に言い放った。
「助かりたいなら、黙ってこの魔方陣の中に入って!」
誰とも知らない人物の言った一言であったが、危険なこの場所まで助けに来てくれたその人物を信じることにし、エイジ達は魔方陣へと向かおうとしたのだが、フィルディアの立っていた足場が崩れてしまう。
「――!? きゃあああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁッ!?」
「フィル!? 誰だか知らないけど、二人は任せる! 先に脱出してくれ!」
フィルディアが落ちた先には足場がなく、一気に下っており、そのフィルディアを助ける為、ユニークを発動したエイジが飛び降りる。
「フィルーーーーッ!!」
名前を呼ぶ声が聞こえた。
落ちる恐怖で目を閉じていたフィルディアであったが、その声と呼び方で、誰が自分を助けようと飛び降りたのかを理解し、心を喜びと悲しみの混ざった曖昧な感情が満たす。
それが何故であるのかは理解できている。
「安心しろ、絶対に助けてやる!!」
その声を聞く度、心が踊りだしそうになり、
「手を伸ばせーーーーッ!!」
その声を聞く度、感情を言葉にして叫びたくなる。
「エイジさん………ッ!」
フィルディアの流した涙が、手を伸ばして叫ぶエイジの頬にあたって弾けた。
エイジの声を聞き、その存在を近くに感じた為か、伸ばした手をエイジが掴んだ為なのか、フィルディアの中にあった恐怖心は薄れ行き、そっと目を見開く事ができた。
「なんで、私を助けに来たんですか!」
「助けるに決まってるだろ! 例えそれが、どんなに無茶なことでも!」
「でも………」
「フィルディア! 俺は! お前の事が好きだ!! もっと話したいし笑っていたい! もっと一緒に居たいんだよ………」
「ここで名前呼びはズルいですよ……」
「そうか?」
掴んだ手を優しく自分の方へと引いて横抱きすると、フィルディアがエイジを抱き締める。
その手が触れ合い、エイジを抱き締めているせいか、フィルディアの中からエイジへの想いが溢れ出す。
「エイジさん………私は! あなたの事が大好きです!」




