第三十一話 始まりは終わる
ダンジョンの外では、アーサー達とグリムリーパーの戦いが今も続いていた。
ベディヴィアとマーリンは殆ど戦闘不能な程に魔力と体力を消費しており、グリムリーパーとアーサーの一騎討ち状態である。
両者共無傷であるが、三人を相手にして無傷なグリムリーパーが優勢で、このまま戦いが長引くのであれば、勝つのは間違いなくグリムリーパーといえるだろう。
その一番の理由は、やはり体力である。
「はぁ……はぁ………」
グリムリーパーという強敵を相手にしたアーサー達の消費スタミナは大きく、ガンガンと消耗して行くが、それに対するグリムリーパーはあまり消耗していない。
いや、魔力や体力が化け物なのだろう。
「終わったみたいだな………」
ダンジョンを見上げながら呟くと、
「逃がすかッ!!」
創り出した空間の裂け目へと姿を消し、アーサーの攻撃はむなしく空を切る。
「くッ…………クソッ!!」
アーサーは、悔しさのままに聖剣を地面に突き立てた。
――合成魔法は消え去り、その威力が残した爪痕が姿を表す。
魔法が通過した場所に地面は残っておらず、最上階はボロボロである。
魔法の直撃を受けた魔物は、割れた地面から十九階に落ちて床に倒れている。
息はあるものの、体を動かす事はできない程にダメージを受け、魔力も底をついていた。
「勝った……みたいだな」
「ああ、僕達の勝ちだ!」
「やった……やったぁ!!」
カイトはガッツポーズをとり、シルヴィアは可愛く跳び跳ねる。
初めてユニークを発動したエイジは、体力を思った以上に消費しており、よろけて倒れそうになったが、フィルディアが優しく支えた。
「お、サンキュー、フィル」
「い、いえ………」
恥ずかしさからか、エイジの顔から目をそらしたフィルディアは、二人をジッと見つめていたシルヴィアと目があってしまった。
「な、なんでしょうか?」
「私がいない間になにがあったか知らないけど、その立ち位置は譲らない! だから譲ってよ!」
「ええ!? む、無理です! お断りします!」
「ノー! お断りをお断りします!」
火花を散らしてぶつかり合う二人を他所に、カイトがエイジに肩を貸してやる。
「はは、流石に無茶しすぎたな……」
「そうだね。でも、まだ終わりじゃない」
カイトがエイジに向けてそう言ったが、そのセリフに対して言葉を返してきたのはエイジではなく、別の誰かであった。
「街の人達を助け出す為、かァ?」
「「!?」」
その声が聞こえたのは下、十九階のガラムが倒れている辺りからで、エイジとカイトはそこを見下ろす事の可能な場所まで移動した。
その瞬間、二人はある光景を目にし、それを見せまいと、駆け寄るフィルディアとシルヴィアをその場で止めた。
二人が見た光景とは、そこに現れたローブ姿の人物、グリムリーパーが、倒れていた魔物の体を死霊の鎌で切り裂き、息の根を止めた光景である。
「何の躊躇もなく殺しやがった………」
「当然だ、使えなくなった駒はゴミだからな。コイツにリサイクル価値はねェよ」
「お前ぇ!!」
怒りを抑える事が不可能となり、武装魔法を発動させ、即座に合成魔法を使って一つの銃へと姿を変え、それを掴んで下のグリムリーパーへと構える。
しかし、銃を構えた瞬間、そこにグリムリーパーの姿はなく、一瞬でエイジとの距離を詰めきり、腕を上へと蹴りあげられ、銃を手離した瞬間に回し蹴りを決められた。
「うわッ!」
「エイジ! くッ、火属性――」
「――遅ェよッ!」
「うわああああああああああッ!?」
魔法を発動させようとしたカイトの肩を、落下してきた銃を手にしたグリムリーパーが撃ち抜き、その衝撃でカイトは倒れた。
「よくもお兄ちゃんを! 『バインド』!」
「『アイシクルスピア』!」
「二人共止めろ!!」
拘束魔法の鎖と攻撃魔法の氷の槍が同時にグリムリーパーを襲ったが、鎖は力だけで断ち切られ、複数放った氷の槍は全て死霊の鎌で破壊された。
「かかりましたね! 『エターナルバインド」
砕かれた氷で拘束用の鎖を作り、相手を捕まえようとしたのだが、指を弾く音と同時に展開した魔法の障壁が全てを防ぎ、炎魔法によって溶かされ、再生不能とされた。
「お前らは引っ込んでろッ!」
魔法を自分へと向けた二人目掛け、炎魔法の球体を放つ。
見た目はさほど大きくなく、サッカーボールやバスケットボールぐらいだが、感じ取れる魔力はとてつもない。
「させるか! ――があッ!!」
二人を守るため、限界を超えてユニークを再び発動し、二人の前に移動して攻撃から庇う。
「今のはなかなかいい速さだ。それが、お前の持つユニークの能力か」
地に膝を着いていたエイジは、再び立ち上がると、その速さで距離を詰めて殴りかかるが、その拳は容易く受け止められ、強く掴まれた。
「だが、まだ未熟だ。故に、戦いはお預けとしよう」
「何を言ってやがる!」
エイジがそう言うと、右手に持っている銃へとグリムリーパーが魔力を込めて見せる。
「褒美だ。この引き金を引けば、街の住人達のいる空間に出口ができる。だが、お前が戦う事をここで選択した場合は………」
「くッ………分かった」
「懸命な判断だ」
そう言ってエイジを蹴り飛ばし、倒れたエイジの足元に銃を投げ捨て、移動用であろう空間の裂け目を創り出す。
「次に会うときが楽しみだなァ! 特に、お前とはなエイジ! お前なら、俺を殺せるかもなァ」
それを言い残し、グリムリーパーは異空間へと姿を消していった。
そして、それを止める術がない悔しさで、エイジは拳を強く握りしめる。
「エイジさん………」
「大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ。それより、シルヴィアはカイトの傷を回復してやってくれ」
「あ、うん」
素直にカイトの元へと走り行くシルヴィアを見送った後、エイジは上を見上げ、手を伸ばした。
「遠い……遥かに遠い………。だが、その距離も詰めきってやる! だから、力を貸してくれるか? フィル」
「はい!」
この日エイジは、何れ必ずグリムリーパーを倒すと自分に誓い、新たに異世界ですべき事を見つけた。
その結末がどんなものであるかは、神ですら予測が不可能な未知数の世界だ。
――薄暗い異空間をグリムリーパーは一人歩いており、ある場所にて足を止めた。
この空間はグリムリーパーの本拠地ともいえる空間で、足を止めた場所にはある街の模型が置いてある。
「次はこの場所で遊ぶとするか」
そういい、模型にあった城の部分を拳で粉砕した。
そう、これはミズガルズの王都、キャメロットの模型である。
「もっと俺を楽しませろよ、異世界から来た冒険者、桐山英志!」
グリムリーパーはフードを脱ぎ、ニヤリと悪い笑みを浮かべた。




