第三十話 絆の一撃
かなりの強度を誇る魔法障壁。
それが円形に広がり、半径十メートル程のバトルフィールドを創りだし、エイジとカイトを閉じ込めた。
「行くぜッ!!」
魔物を狙って引き金を引きながら、右手に銃を持つエイジが先に走り出す。
異常な程の強化魔法で向上したパワーとスピードを持つ魔物は、銃による攻撃を素手で弾き、接近してきたエイジに豪腕で殴りかかる。
だが、向上した能力を持つのは魔物ばかりではない。
「――!?」
エイジは魔物の攻撃を避けず、両手でその攻撃を受け止めると、魔物の腕を踏み台にして高く飛び上がる。
魔物はつられてエイジの方を見上げ、その隙に魔物の正面にいたカイトが魔法を放ち、反応が遅れた魔物へ直撃させ、空中からエイジが追撃の雷を銃から放つ。
たが、魔物は怯むことなく反撃にのりだし、着地したばかりのエイジを、禍々しい魔力を纏わせたその拳で殴りかかる。
「甘いよ!」
しかし、視野が狭くなっている魔物の懐に入り込んだカイトが、ゼロ距離で魔法を発動させて攻撃を妨害した。
炎魔法を受けた腹部分を押さえながら数歩後ずさった魔物を、エイジが思いっきり蹴り飛ばした。
「助かったよ、サンキューな!」
「仲間の助け合いは当然だろ?」
「ああ、そうだな!」
蹴り飛ばされた魔物はゆっくりと起き上がり、さらに自分へと強化魔法を使い、防御力と魔法耐性を向上させ、二人目掛けて走り出す。
それと同時に、二人は魔物目掛けて走り出す。
障壁内のちょうど真ん中辺り、その場で魔物が二人より先に攻撃を繰り出すが、エイジはジャンプで魔物を飛び越えてかわし、背後に着地するなり足払いをかけた。
後ろへと倒れた魔物へと、カイトが炎で創り出した槍を上から飛ばしたが、魔物が発動した風魔法によって魔法は消しさられ、二人は吹き飛ばされた。
「おわッ!?」
もともと、ユニークの制御ができないシルヴィアがここまでユニークを使えたのは、ユニーク強制発動の後遺症の様なもので、それも時間切れだ。
つまり、魔物が属性魔法を発動できるようになったという、最悪の状況なわけだ。
「まだまだッ!!」
「僕だってッ!!」
エイジは『サンダーショット』を、カイトは『ケルベロスフレイム』を放ったが、魔物の回りから立ち上る竜巻が全てをのみ込み、何度試しても魔物まで魔法攻撃を届かせることができない。
防戦一方かに見えた魔物は、二人の魔法攻撃を完全に防いだ竜巻から『カマイタチ』を飛ばし、二人を狙って放ち続ける。
「『フレイムガード』!!」
防御魔法を使えるカイトはそれを発動し、自分の持つユニークで強化を行って防ぐが、防御魔法を使えないエイジは、魔力の弾丸でカマイタチを打ち落としていく。
しかし、これではやられるのも時間の問題であるため、直ぐにでも打開策打たなければならない。
「カイト! ブーストでのサポートを頼む!」
カイトにそう頼むと、エイジは攻撃の手を止め、飛び交うカマイタチを避けながら銃に魔力を込める。
(もっとだ! もっともっともっとだ! 一点に集中した高火力で竜巻を撃ち抜く!)
魔物の放つカマイタチを華麗にかわし、魔物との距離を一気に詰めて行くエイジ。その瞳は、真っ直ぐ勝利へと向けられている。
(よし、今だ!!)
距離を詰めきったエイジが、超至近距離から引き金を引こうとした瞬間、そのタイミングを狙っていたかの様に魔物が竜巻を解除し、その超パワーでエイジを殴り飛ばした。
「ガハッ!?」
だが、殴られる前に銃を魔物の上へと投げており、エイジが殴られた瞬間、銃を手にしたカイトが魔物の頭上数メートルから引き金を引いた。
「グッ………ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!?」
それは、もはや弾丸とはかけ離れた強烈な雷撃で、二人を閉じ込める為に障壁を発動している魔物にはそれを防ぐ手段がなく、腕に魔力を纏わせて受けきろうと堪えたが、一秒ともたなかった。
その雷撃はあまりにも強烈で、二人を閉じ込めていた障壁を消し飛ばし、地面を破壊しながら魔物を下の階まで撃ち落とす。
「痛ぇ、あのパワーは防ぎきれねぇや」
「ましな方だろ? 普通の人なら、あれの直撃で死んでるからさ」
「俺が普通じゃない見たいな言い方だな?」
「このパーティーのメンバー全員が普通じゃないって」
「だって、世界を救うんでしょ?」
そう言って倒れたエイジに手を差し伸べたカイトの後ろには、先程まで障壁外にいたフィルディアとシルヴィアの二人もいる。
「世界の救世主なんて肩書き、俺は別に欲しくねぇけど……このパーティー初の称号ってんなら、それは悪くねぇな」
「なら、今から手に入れましょう!」
差し伸べられた手を借りて起き上がり、怒りのままに戻ってきた魔物の方を向いたエイジが答えた。
「そうだな。そんじゃ、この戦いを終わらせるとするかな!」
エイジは手に持っていた銃を消すと、右手を前に出して魔方陣を展開させ、その魔方陣へと雷の魔力を注ぐ。
それにより、魔方陣に黄色い文字と模様が描かれたが、それだけでは魔法の発動には至らない。
「エイジさん、これは?」
「皆の魔法を一つにする為の合成魔法陣だ」
「なるほど、武装合成魔法を属性攻撃用にアレンジしたのか」
「これなら、私でも攻撃魔法が!」
エイジの出した魔方陣に対抗するかの様に、魔物も魔方陣を展開し、魔力を込める。
それに対するカイト達も魔力を注ぎ込み、魔方陣に、赤、青、緑色の模様と文字が描かれ、合成魔法が完成した。
先に魔法を放ったのは魔物の方で、それが迫り来るなかで、四人も魔法を放つ。
――『レゾナントブラスト』
その名を皆で叫び、魔法の発動制限を合成という方法で突き破る。
「「「「はああああああああああああああああああああああッ!!!」」」」
二つの魔法は、最上階を破壊してしまう勢いでぶつかり、その場の地面を消し飛ばしながら押し合う。
だが、それも長くは続かず、エイジ達の絆によって創られた魔法が、魔物の発動した魔法を凌駕しだした。
「チェックメイトだ、ガラム」
その瞬間、魔法の押し合いに敗れた魔物は、エイジ達の魔法をその身に受けた。




