第二十九話 パーティー
禍々しい魔力を高める、元は人間であった魔物は、自分の魔法を雷で撃ち落としたエイジを睨み付け、敵意と殺意を向ける。
そして、コボルドの魔鎧種同様に、自分へと強化魔法を掛けると、驚異的な脚力で地面を破壊して、物凄い速さでエイジに飛び掛かる。
「速いな。でも――」
エイジは自分の体を後ろに倒して魔物の攻撃をかわすと、
「――見切れない程じゃないッ!!」
自分の上を通過しようとした魔物を、左腕で天井まで殴り飛ばした。
だが、魔物は殴られる寸前に両腕で防御してダメージを軽減しており、天井を蹴ってエイジへと急降下してきたのだ。
その速度は、上から下へと重力に従う為、先程の攻撃より速く、エイジが避けるか防御かを悩んだ瞬間、炎と氷の魔法が魔物を挟み撃ちにする形で放たれた。
魔物は、空中に魔法の障壁を創り、それを蹴って攻撃をかわしたが、着地するポイントが変わり、エイジに攻撃が出来なかったうえ、着地した瞬間に斬撃の直撃をくらった。
「サンキュー、二人共。お陰で合成するのが間に合ったよ」
「一番の怪我人にばかり無茶はさせられないからね!」
「カイトらしいな……」
二人がエイジの元へと駆け寄り、カイトがエイジへとそう話した時、魔物は空気も読まずに直進し出す。
だが、鎖が体に巻き付き、魔物の動きを止めた。
「なら、私も混ぜてよ。私だって、サポートぐらいは出来るよ」
それは、三人の後ろに移動していたシルヴィアの魔法で、カイトのユニークによる強化が行われている。
「シルヴィア」
「エイジさん、私達を頼ってください。私達は、パーティーなんですから!」
「フィル………そうだな、そうだった。今の俺には、頼れる仲間が四人もいる」
(感じているか、メタトロン。君は、俺の中にいるんだろ? なら、君なら分かるかもしれない。俺は、ちゃんと変われただろうか? 君に会えた時、その答えを聞かせてほしい)
エイジは左手を自分の胸にあて、祈る様にそう思った。
鎖に捕らわれていた魔物は、パワーの強化を行うと即座に鎖を破壊し、四人へと凄まじい速さで接近する。
「そんじゃ、行こうか!!」
「「はい!」」
「了解!」
それを合図に、エイジが一人先に走り出し、魔物へと斬撃を飛ばして命中させ、速度が落ちたところへ斬りかかる。
「シルヴィア、僕にスピードの支援魔法を。あとは後ろからのサポートをお願い! フィルディアさんは、シルヴィアを守りながらのサポートをお願いね!」
「任せて!」
「あの! リーダーは私なんですが!?」
カイトはシルヴィアからの支援魔法にブーストを使って自分の出せる速度を底上げすると、フィルディアの話も聞かずに走り出した。
そして、エイジと交戦中であった魔物を、走ってついた勢いのままに蹴り飛ばす。
しかし、攻撃強化を行ってない弱々しい威力であった為、即座に反撃に移ってきたが、氷の槍が魔物の邪魔をし、その瞬間にエイジが魔物の背中を切り裂く。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァ――!!?」
傷は深く、堪らず叫びを上げた魔物へと、正面に立つカイトが強化した炎魔法を放つ。
それにより、魔物の体は炎で燃え上がり出したが、魔物はそれをすぐさま振り払う。
その後、さらに自分へと様々な強化魔法を使うと、距離を詰めてきたエイジを地面に叩きつけた。
「がはッ!?」
「エイジ!? コイツ、これだけの強化に耐えれるって、どんな肉体だよ!?」
シルヴィアがこの場にいる事で、魔物は属性魔法の使用は出来ないに等しいが、無属性である支援魔法はユニークの適応外だ。
故に、魔物の行う異常な程の自己強化は、誰にも止められない。
「くッ……痛いだろうが!!」
地面に叩きつけられたエイジは、次の攻撃が来るより先に反撃に転じ、魔物の顎を蹴り上げた。
魔物は再び障壁を空中に創り出し、それを蹴って急降下して距離を詰めて来たが、エイジは後ろへと飛び退き、攻撃をかわす。
「僕の番だ! 『バーニングフレア』」
移動速度が速く、魔法を当てづらい魔物だとしても、隙を見せれば当てるのは簡単で、カイトの魔法は魔物に命中し、体を炎で燃やしている。
「炎属性魔法・『プロミネンスバーン』」
燃える魔物の足元に赤色の魔方陣が展開し、そこより現れた灼熱の火柱が魔物を襲う。
その攻撃は、ブーストのユニークを使用し、かなりの高威力になっており、初めて魔物にまともな大ダメージを与えた。
「スゲー、これがカイトの本気か!」
エイジが魔物の背中につけた傷は既に治っており、大ダメージを与えたかと言うとそうでもない。
この魔物には、魔法の方が有効なのだ。
カイトの魔法攻撃を見てそれに気づいたエイジは、武装合成魔法を一度解除し、魔法銃をメインとして再び発動した。
「そんじゃ、俺も行くかな! 雷属性魔法・『サンダーショット』」
魔物は、自分を薄く包む程度に障壁を発動し、それを一気に広げて炎を消し去り、雷の弾丸を弾く。
そして、障壁を解き、カイト目掛けて走り出した魔物は、シルヴィアとエイジの発動したバインドの鎖に捕まり、それを破壊しようとした瞬間、強烈な電撃が魔物の体を走り、苦痛を与える。
「ナイスタイミングだ、シルヴィア!」
「私もやるでしょ!」
その光景を見ていたフィルディアは、魔物へと『スパイラルウォーター』を発動し、魔物は水の渦に囚われ、雷の電導率が増した。
「助かるよ、フィル」
「えへへ。どういたしまして」
水に囚われ、その中で鎖に囚われている魔物を襲う電撃は、カイトのユニークでさらに威力を増し、与えるダメージが大きくなっていく。
だが、この程度で勝てるなら苦労はしない。
魔物は、カイトの炎の時同様に、障壁を薄く展開し、一気に広げて鎖を破壊した。
さらに、障壁は半径十メートル程まで広げており、エイジとカイトはその中に入っている。
「何のつもりだ?」
「さぁね。解除するつもりも無さそうだし、外部のサポートを遮る為じゃないかな?」
「どうかな。でもまぁ、カイトとのタッグなら、誰にだって負ける気がしない」
「僕もだよ、エイジ」
二人は並んで魔物の前に立ち、魔力を高めて最後の戦いに備える。
「「掛かってこい、ガラム!!」」




