第二十八話 光へ
――少し時を遡る。
ガラムと戦った後、力尽きて倒れたエイジの意識は、暗い闇の中にあった。
闇は底無しの様に深く、意識は延々と沈み行く様な、そんな感覚をエイジは感じていた。
エイジは、この感覚を前にも体験した事がある。
それは――自分が死んだ時だ。
何故死んだのかは思い出せないというのに、エイジはこの感覚をハッキリと覚えていた。
だが、何かが前とは決定的に違っていた。
その違いとは、闇の中に一人だけだと言うのに、孤独を感じていない事だ。
確かに一人、この闇の中にいるのはエイジただ一人なのだが、エイジには他の誰かの存在を感じている。
そして、その誰かが「死んではいけない」と、女性の声がエイジの心に語りかける。
その声は、エイジの知る人物のものではないが、何処かで一度だけ聞いた事がある様な気がし、何故か妹の瑠花よりも身近に感じるのだ。
「君は……誰だ?」
その問いに、誰かからの答えは返ってこなかったが、代わりにエイジの前へと小さな光が現れた。
エイジは右手を前へと伸ばし、その光に触れた瞬間、エイジを強い光が包み込み、その眩しさから目を閉じた。
「――!?」
それより直ぐ後、エイジの足が地面の感触を感じた時、エイジを包み込んでいた光が弾け、辺りに美しく飛散した。
眩しさが無くなった事で、エイジがソッと目を開けると、そこは全く別の場所。
「ここは……」
エイジの眼前に広がるのは白いだけの虚無。
地球やユグドラシルとはまた別にある、虚無の世界だ。
エイジがここに来たのはこれで三度目、故にさほど驚きはない。
そんなエイジの背後から声が聞こえた。
「彼女の声が届いたみたいだね」
それは、先程とは違って聞き覚えのある声で、エイジは声のした方へと振り返る。
「シュバラ様……」
するとそこには、この世界に唯一存在している、否、この世界を存在させている神様、シュバラが立っていた。
「でも残念。会話をできる程には至っていない。勿論、視認する程にもね」
「何の話だ? てか、何で俺がここに?」
「もっともな質問だ。前回、君はあの感覚の後、死んでこの場所に来たからね。でも安心して構わないよ、君は彼女のお陰で助かった」
「さっきも言ってたな。その、彼女ってのは誰の事だよ。俺は、あの声の主を知らない」
指を弾き、音が鳴ると同時に現れた椅子に腰を下ろし、背にもたれる姿勢でエイジ疑問に対して口を開いた。
「まぁ、そうだろうね。でも、彼女は君を知っているんだ。君が地球にいた時からね」
シュバラは、自分の前にも一つの椅子を出し、「どうぞ」と言うかの様に椅子へと手を向け、エイジが椅子に腰を下ろした後、続きを話し出す。
「一から順に話そうか。先ずは――君をコンティニューさせた本当の理由からかな」
「…………」
その答えを求めるかの様に、エイジは黙ったままシュバラの方を向いている。
そんなエイジへ向け、シュバラが口を開く。
「私が君を選んだ理由。それは、君が生まれる世界を間違えた人間だから、だよ」
「……どういう意味だ?」
「そのままの意味さ。君は、平成十一年、十一月一日に、魔力を失ったあの地球で、ユニーク・『セフィロト』を有して産まれた」
「セフィロト……」
その名を口ずさんだエイジは、何故かそれがしっくりときた。
それは、エイジの中二心に響いたとかではなく、もっと心の奥底でそれを感じたのだ。
そして、その言葉がエイジの記憶を揺さぶり、昔に見た夢を引き出す。
その瞬間、エイジの目から涙が流れ落ちた。
「思い出したみたいだね。一年前、心が壊れかけた君を救った、彼女の事を」
「ああ、思い出したよ……彼女の事も、俺のユニークの事も」
「そうか。なら、私が説明する事は無くなってしまったね……」
「なぁ、シュバラ様……。俺は、彼女に会うことが出来るか?」
涙を拭き、椅子から立ち上がったエイジがシュバラに尋ねる。
「勿論。今は見えなくても、君がユニークを使えば、何れ」
「それなら、よかった………」
そう呟き、安心した様な表情を見せたエイジへと、椅子に座ったままのシュバラが口を開く。
「おっと、下界では君の仲間が、半人半魔にピンチの様だ」
「なんで! ルーラーのユニークがあるなら――」
「ルーラーなら、今は君の回復中さ」
「計算ミス!?」
エイジの考えでは、シルヴィアを助けた後、ルーラーの力でガラムの魔法を無力化し、残る二人で倒すというもので、倒れた自分をどうするかなんて考えていなかったのだ。
「今回は特別、君の魔力を回復させてあげるよ。だから、ユニークを使い、君の仲間を救ってこい!」
「シュバラ様………恩に着るよ!」
そう言ったエイジへ、シュバラは転送用の魔方陣を展開させ、魔力の輝きを放ち出す。
「では、何れまた会おう、エイジ」
その瞬間、エイジの姿は光りに包まれ、虚無世界から消えた。
――そして現在。
ガラムの魔法を稲妻で打ち落とし、ド派手な登場をしたエイジは、自分へと敵意を向けるガラムへと雷刃を向けた。
「それじぁ、俺とメタトロンの力を見せてやるよ」




