第二十七話 氷獄
エイジの命を奪おうとしたガラムの魔法は、間一髪のタイミングで、シルヴィアのユニークにより完全消滅した。
それは、ガラムをエイジ達との戦いで優位にしていた、魔法無効化能力、ルーラーの力だ。
厳密に言えば、魔法の支配能力なのだが、この力をフルに使うには、シルヴィアには技量不足である。
その為、今は魔法無効化能力が正しい。
その魔法無効化能力を、ユニークの持ち主でないガラムが使用していたのには、当然だがトリックが存在する。
シルヴィアが囚われていた扉の先には一つの魔方陣があり、ガラムはその魔方陣を通し、シルヴィアにユニークを強制発動させていたのだ。
フィルディアの魔法に対して、魔法の無効化が遅れたのは、そこから生まれたタイムラグのせいだ。
しかし、最後の力を振り絞ったエイジにより扉は壊され、シルヴィアは解放された。
それはつまり、ガラムがルーラーの力を発動する事が出来なくなったと言う事だ。
「――!? ドイツモコイツモ、私ノ邪魔ヲシヤガッテエエエエエエェェェェ!!!」
ルーラーの力を失い、自分の計画を台無しにされたガラムは、怒りのままに叫びを上げ、シルヴィアを殺そうと走り出す。
魔法が使えないなら近接で、と言う訳だ。
「今ハ、オ前ガ一番目障リダアアアアア!!」
ガラムは拳を握り締め、走る勢いを使い、全力で殴ろうとしたのだが、走るガラムの右側に現れた魔方陣より放たれた炎魔法により、左の壁際まで吹き飛ばされた。
「シルヴィアに指一本でも触れてみろ、僕はお前を灰になるまで焼き尽くす!」
「うん、それは止めて、お兄ちゃん。トラウマになるから」
冷静にそう返すと、シルヴィアは倒れるエイジの元へと駆け寄る。回復魔法を使う為だ。
「あ、あの! エイジさんは助かりますか!?」
「とても危険な状態だけど、私が回復に専念すれば……」
「ユニークを使ってサポートが出来ない事だろ? 大丈夫、魔法が使えるなら勝機はある」
「そうですね! 状況が状況です。私も本気で戦います!」
カイトとフィルディアは、エイジとシルヴィアの前に立ち、ガラムのいる方を向き、左右に別れて走り出す。
二手に別れたカイトとフィルディアは、
「水属性魔法・『スパイラルウォーター』!」
「炎属性魔法・『ケルベロスフレイム』!」
ガラム目掛けて同時に魔法を発動し、攻撃を行う。
ガラムはその攻撃をギリギリまで引き付けると、風属性魔法で自分を軽く吹き飛ばしてかわし、二人の魔法をぶつけあわせた。
それにより、蒸気が一気に発生したが、強風が全てをはらう。
宙にいる間に魔方陣を展開させていたガラムは、着地をすると同時に魔法を発動させ、自分の回りに小さな『スフィアゲイル』を出す。
「先ズハ、オ前カラダッ!」
フィルディアへ向けてそう宣言すると、ガラムは小さな『スフィアゲイル』を連射しながら走りだし、距離を詰にかかる。
フィルディアなら楽に殺せるとの判断だ。
しかし、その判断は間違いである。
「これが、私の全力です! 氷属性魔法・『クリスタルウォール』!」
フィルディアの発動した魔法により、フィルディアの前に大きな氷の壁が現れ、ガラムの魔法を全て防ぎ、接近も妨害した。
「氷属性ダト!? ソレハ、超級ノ――」
「――炎属性魔法・『プロミネンス』!」
ガラムの言葉を遮り、カイトが強烈な一撃を放つが、ガラムの放った『アブソリュートゲイル』と言う上級魔法により、相殺された。
悪ではあるが、ガラムは仮にも領主、上級魔法の発動権限は有しているのだ。
カイトの方に気がとられた瞬間、氷の壁は音をたてながら崩れ落ち、壁の後ろから姿を表したフィルディアは魔方陣を展開しており、
「『アイシクルスピア』!」
そこから氷の槍を複数飛ばす。
カイトの攻撃に対応して直ぐであったガラムにはそれを避ける術がなく、防御体勢でそれを受け、ダメージが大きくなりすぎる前に地面へと魔法を放ち、フィルディアの攻撃から逃れた。
「流石に強いですね……。私が未熟というのもありますが、殆どダメージを与えれていないなんて……」
「コイツを圧倒していたエイジの力……。あのデメリットが頷けるよ!」
命を落とす可能性のある諸刃の剣。
そのデメリットを納得出来る程に、ガラムの強さを理解したカイトは、ユニーク『ブースト』を発動し、強化攻撃を行う。
しかし、ガラムは、カイトの視界にシルヴィアが入るように移動し、心理的に威力を加減させ、その魔法を自分の魔法でかき消した。
そして、ガラムはその位置から直進し、カイトへと接近するが、横から放たれた巨大な氷の槍が直撃し、氷と共に壁へと直進する。
ガラムは、壁に直撃するギリギリ手前で攻撃から逃れ、残る氷は壁を破壊した。
「危ナイ危ナイ。流石ノ私デモ、コノ高サカラノ落下デハ命ガナイカラナ」
ガラムは、今付けられた胸の傷を抑えながら言うが、言葉からは焦りなどは感じられず、その余裕からダメージが大して無かったということを理解できる。
だが、フィルディアへ苛立ちを覚えたのもまた事実だ。
「カイトさん、サポートを!」
「分かってる! ここで勝負を決めるんでしょ!」
ガラムが動きだすより先に、カイトはフィルディアの元まで移動すると、ユニークによるフィルディアのサポートを行う体勢に入る。
ガラムが動き出すと、フィルディアとカイトは少しだけ後ろに下がり、ガラムがある場所まで近づいた瞬間に魔法を発動した。
その場所とは、氷の壁が崩れ、辺り一帯に大きな氷の破片が散らばっている場所だ。
「氷属性魔法・『エターナルバインド』!!」
「『バインド』、『ブースト』!!」
「――!?」
その魔法が発動された瞬間、ガラムを中心として、半径五メートル程の魔方陣が展開し、辺りに散らばっていた氷の破片は全て氷の鎖へと姿を変え、ガラムを襲う。
さらに、カイトも『バインド』を発動し、自分とフィルディアの使った拘束魔法をユニークで強化する。
「グッ――!?」
ガラムは足掻き、その豪腕で鎖を破壊していくが、鎖は幾度となく再生していく。
フィルディアの使った『エターナルバインド』は、いくら鎖が破壊されようと、そのせいで散らばった氷がまた鎖となり、さらに強力な拘束魔法となって対象を襲う。
まさに、無限の拘束魔法だ。
それでも足掻けるのは、ガラムが異常な力を手にしている証拠だ。
しかし、次第に氷の冷たさは、ガラムの筋肉を収縮させ、筋力低下によるパワーダウンを引き起こす。
「終わりです」
そう告げると、開いた手を握り、『エターナルバインド』が完全に決まった。
そう、ガラムに抵抗する力と手段は無くなったのだ。
「私達はあなたを殺したりはしません。エイジさんがシルヴィアさんを助けた時点で、あなたの企みは打ち砕かれています」
「もうお前に、魔王ラグナロクの封印を解くことは出来ない。決着は付いた。お前の敗けだ」
「…………終ワリ……私ノ敗ケ……」
二人の言葉を聞き、ガラムが呟く。
「イヤ、マダダ!! オ前達ニ敗北スルクライナラ、残ル意識ノ全テヲ、内側ノ獣ニアケワタシテヤル!!」
そう叫んだ後、ガラムは己の舌を噛みきった。
「「――!?」」
魔物と混ざった事で、ガラムの歯は獣の牙のように鋭く、その気になれば噛みきるのは容易かった。
だが、舌は異常な再生力によって再生したが、その際、人間としてのガラムは死んだ。
肉体が死に至る前に、弱まったガラムの意識を、グリムリーパーが創った合成魔獣『キメラ』に乗っ取られた、いや、乗っ取らせたのだ。
それにより、ガラムの肉体はより魔物へ近づき、エイジの倒した魔鎧よりたちの悪い生物が完成した。
そのパワーアップは、カイトとフィルディアの考えを大幅に上回っており、一瞬にしてバインドを破壊し、その場から離れた。
そして、『スフィアゲイル』の魔方陣を展開させ、魔法発動の準備に入る。
(何だよ、この魔力の質量は!?)
(あれが当たれば、私達は――間違いなく死ぬ)
二人がそんな事を思った瞬間、ガラムによって魔法が放たれた。
「『クリスタルウォール』!!」
「『ブースト』!!」
今使える最高の防御魔法をフィルディアが発動し、カイトのユニークでそれを最大まで強化したのだが、簡単に打ち砕かれた。
そして、魔法は勢いを失う事なく、二人へと向かう。
もはや、避ける事も魔法の発動も間に合わない。
「ごめんなさい、エイジさん……」
諦めたフィルディアがそう口にしたその時、
「諦めるのは、まだ早いぜ――」
強烈な稲妻が、ガラムの魔法を打ち消した。
そして、カイトとフィルディアの前には、右手を前には出した少年の背中があった。
今まで誰もいなかったその場所に、まさに電光石火の速さで少年は現れた。
「ユニーク『セフィロト』発動。第一セフィラ・ケテル。これが俺の、仲間を守る為の力だ!!」




