第二十五話 自己犠牲の正義
残り少ない体力で階段を駆け上がり、残り少ない魔力で魔物と戦う。
魔力を消費する度、エイジは息をすることすら苦しくなる。
しかし、ダンジョンの攻略に残された時間は少なく、休んでなどいられない。
「はぁ、はぁ、はぁ………着いた、みたいだな」
階段を上りきった先で足を止め、膝に手をついたエイジが言う。
サーチエリアには、この階より上の反応は無い。つまり、今いるのが最上階だという事になる。
「ここが、最上階………」
「どうやら、間に合うことは出来たみたいですね」
最上階は迷路の様にはなっておらず、下の階に比べて狭く感じる様な作りだ。
壁に枠は存在せず、外の光は差し込んでいないが、最上階は何故か明るい。
これは魔法、『イルミネート』によるものだと直ぐに気づいたのは、同じ魔法を使えるカイトだけだ。
道はただ真っ直ぐにしかなく、奥には不気味な祭壇だけが見える。
その祭壇には、エイジがガラムに渡した魔石があり、それを破壊出来れば事を楽に済ませる事が出来るのだが、見るからに強力な障壁に守られている為、破壊は望めない。
障壁を解除するには、その障壁を張っているグリムリーパーを倒せばよいのだが、その方が何倍も望めない。
ダンジョンの攻略しか道はないのだ。
祭壇に近よったエイジは、障壁の先にある魔石を見ながら呟いた。
「俺は、最悪のタイミングで選択肢を間違えた………」
その言葉が示すのは、魔石をガラムに渡してしまった時の事だ。
グリムリーパーがエイジに魔石を渡したのは、この事態がこの事態になる前に阻止出来るチャンスをあたえたる為とも考えられ、エイジはそう考えている。
しかし、カイトの考えは違う。
「エイジの考えている事はだいたい予想がつくけど、それは違うと思う」
「だと良いけど………」
短く答えると、一人先に道を歩みだしたが、エイジはよろけて膝を地に着いた。
「エイジさん!?」
駆け寄るフィルディアを手で止めると、頭を左手で押さえながらエイジは一人で立ち上がった。
しかし、エイジが発動させていたサーチエリアは解除されてしまっている。
原因は体力でも魔力でもなく、精神力だ。
最上階は魔力が溢れすぎており、その全てがサーチエリアに反応し、エイジの許容量をオーバーした。
分かりやすく言えば、酔ってしまったのだ。
「大丈夫ですか?」
「まぁ、なんとかな………。でも、すまん。今の俺じゃ、この階でサーチエリアは発動出来ないみたいだ」
「無茶をさせたてごめん、エイジ………」
フィルディア同様、エイジの側に駆けよって来たカイトが言ったが、エイジは笑って見せた後に答えた。
「気にすんなよ。これが、最善手だったのは事実だからな」
「ありがとう……」
礼を聞き、エイジが再び前を向いた瞬間、
「風属性魔法・『スフィアゲイル』!!」
ダンジョンの奥より、風魔法による不意打ちが三人に襲いかかる。
あまりに急な事で、カイトとフィルディアは反応が出来なかったが、サーチエリアが解除された事により、警戒心を最大まで上げていたエイジだけが反応できた。
しかし、反応できてもエイジには防御魔法が使えない。
さらに言えば、エイジは魔法銃を用いなければ、ロクに攻撃魔法が使えず、武装魔法を発動する程の時間は無い。
魔法の発動時間どころか、何かを考える時間すらないのかもしれない。
故に、エイジは無意識に行動していた。
両手を前に出し、その両手に大量の魔力を纏わせ、風属性魔法の攻撃を一人で受け止める。
「ああああああああああああ!!?」
魔法を受け止める両手に激痛が走り、ジリジリと後ろに押されて行く。
吹き飛ばされないように踏ん張るエイジは、風属性魔法の球体を両手で押さえ込み、自分の魔力を流し込んで爆発させた。
「うわあああああああああ――がはッ!!!」
球体を押さえ込み、爆発させたダメージを自分一人で受けきったエイジは、後ろに立っていた二人の間を通り、祭壇を守る障壁にかなりの勢いで激突し、その場に倒れた。
「エイジさん!?」
血を吐き、地面に倒れているエイジにフィルディアは駆け寄るが、カイトは攻撃が放たれた方を睨んでいる。
攻撃が放たれたダンジョンの奥から、異様な魔力を放つ人物がゆっくりと歩いて来ており、カイトも即座に攻撃体勢に入る。
「マサカ、今ノ一撃デ死ナナカッタトハナ」
そう口にした人物は、エイジ達三人の知るガラム本人だが、もうそれを人物と言っていいかは三人にも分からない。
「何だ……その姿は!? まるで――」
「魔物ミタイダ、カ? 当然ダ。私ワ、グリムリーパーノ策略ニヨリ、魔物ト混ゼラレテシマッタカラナ」
三人の前に現れたガラムの姿は、半分以上が魔物のもので、感じられる魔力もガラムのものとはまるで違う。
「見タ目ハ気ニクワナイガ、素晴ラシイ力ダ。不意打チデハアッタガ、マズハ一人――」
「んな訳ねぇだろ……」
ガラムの言葉を遮ったのは、フィルディアの肩を借りて立ち上がったエイジだ。
そして、ガラムを鋭い目付きで睨み、武装魔法を発動させた。
「不意打ち何かに負けてたまるかよ。俺は、俺達は! 絶対、お前に勝つ!!」




