第二十三話 攻略開始
ダンジョンに入ってから十五分が経った頃、フィルディアとカイトは三階のフロアにいた。
ダンジョン内は街に入り込んでいた魔物達がかなりおり、無視して先に進むのが難しい。
さらに、この二人はダンジョンの最上階が何階かも知らないうえ、カイトが直感で道を選んでいる為、たた行き止まりにあっている。
「どうしましょう、時間いないに間に合う気がしません……」
「頑張るしかない。僕達を先に行かせてくれたエイジの為にも……」
カイトがフィルディアに言ったちょうどその時、ダンジョンの中でも分かる程の魔力高まりを二人は感じた。
その魔力から禍々しさなどは感じられず、何処か安心出来る様な、そんな温もりを感じる。
「この魔力は……エイジなのか!?」
「そうです! 絶対にそうですよ! それに、禍々しい魔力が感じられなくなりました。エイジさんは勝ったんですよ!」
「これは、僕達も負けてられないな!」
エイジの勝利を確信した二人は、感じたエイジの魔力に希望を貰い、ダンジョンの最上階目指して走り出した。
そして。
「あ………行き止まりだ……」
二人がエイジの魔力を感じた時、それは、抜刀術から斬撃を放った瞬間だ。
魔力を凝縮した斬撃は、エイジに迫っていた魔鎧をサーチエリアの範囲外まで連れていき、凝縮した魔力が弾け、物理ダメージを与えた後に大爆発を起こし、地面を大きく抉りとる。
爆風で巻き上がった砂煙は直ぐに収まった。
出来上がったクレーターには、魔鎧の魔力に触れた雷が魔力へと還り、黄色い光が美しく飛散していた。
そして、その中心には、エイジに敗れた魔鎧が倒れている。
「終わった………」
それを理解した瞬間、エイジは体から力が抜けて倒れそうになったが、刀を杖の代わりに地面へとついて堪えた。
体力と魔力を大きく消耗しすぎたのが原因だろう。
エイジは未熟である為、最低でも倍近くは魔力を無駄に消耗している。
それでも魔鎧に勝てたのは、単なる相性もあるが、普通と比べて圧倒的と言える程の魔力量のお陰だろう。
普通程度の魔力量であれば、戦いの中で魔力が底を着き、間違いなく負けていた。
「お前、面白い戦いかたをするなァ。剣技だったか? 即席にしては見事だ」
エイジと魔鎧の戦いを観戦していたグリムリーパーは、パチパチと拍手をしながら言う。
そんなグリムリーパーに対し、エイジは先程と同じ剣技の構えをとる。
「殺るき十分なところで悪ィが、俺は新たな来客の相手をしないといけねェ」
解いていた武装魔法を発動させると、グリムリーパーは一瞬でエイジの前に移動した。
「なッ!?」
エイジは、それを目で追うこともサーチエリアで反応することも出来ず、空間に裂け目が出来ているのにも気づかなかった。
「ゲームマスターからの特別サービスだ。ダンジョン内へ飛ばしてやるよ!」
「ちょッ!? ええええええええええ――!!」
そう言うと、エイジを異空間へ繋がる裂け目へと投げ飛ばした。
エイジを飲み込んだ裂け目は即座に閉じ、同時にグリムリーパーが魔法障壁を展開させる。
「地属性魔法・『クリエイトロック』」
その声と同時に、グリムリーパーが発動させた魔法障壁の回りに複数の魔方陣が展開し、一つ一つが人より大きな岩が現れた。
そして、その岩はグリムリーパー目掛けて物凄い速さで放たれ、魔法障壁を容易く破壊してしまう。
しかし、グリムリーパーは異空間を通ってその場から数メートル程右へ移動し、奇襲攻撃から逃れた。
「驚いたぜ。まさか、お前自らが来るとはなァ」
武器を構えたグリムリーパーは、先日のエイジとの戦い以上に魔力を引き出す。
それは、その相手に手加減をすれば怪我じゃ済まない可能性があることを理解しているからだ。
「俺も驚いたよ。まさか、噂の死神に会えなんて思ってもなかったからな」
答えた男の右手には、あの有名な伝説の聖剣『エクスカリバー』が握られている。
そう、この人物こそ、このミズガルズの王様である『アーサー』だ。
その後ろには二人、鎧を着た男性と、魔導師のローブを着た女性がいる。
男性がベディヴィアで、女性の方がマーリンだ。
「マーリン、お前は俺のサポートをしろ。ベディヴィア、お前はダンジョンの方を任せる」
「任されました!」
「私も、出来る限りは頑張りますよ」
「……お前も、少しはベディヴィアを見習ってやる気を出せよ、マーリン」
「アーサーが、誰かいい感じのイケメンを紹介してくれるなら考えますよ」
マーリンはアーサーを王とは呼ばず、名前を呼び捨てにしているが、アーサーはその事を全く気にしない。
「……はぁ、分かった、約束しよう」
「来なさい死神! 私が打ち倒してあげます!」
先程の倍以上のやる気を見せ、グリムリーパーを指差す。
そのマーリンを呆れた表情で見ていたベディヴィアは、その姿を見なかった事にしてダンジョンへと向かおうとしたが、
「させるかよ!」
グリムリーパーが入り口に空間の裂け目を創り出し、ダンジョンへの道を閉ざした。
「邪魔してんじゃねぇよ! ぶっ殺すぞ!あ………王よ、申し訳ございません! 死神に道を閉ざされてしまいました」
一瞬だけ本性を出したベディヴィアだが、アーサーがこの場にいるのを思いだし、暴言を無かった事とした。
マーリンは、そのベディヴィアの姿を哀れむ様に見ている。
「はぁ、俺は何も見てないし聞いてない……。よし、作戦の変更だ。三人で死神を倒すぞ」
「よし、殺す許可が降りた!」
「了解了解~!」
「………チーム編成を間違えたな。戦う前から疲れてきたぞ……」
アーサーはそう口にし、ため息を呟いた。
ダンジョンのある階に、突如として空間の裂け目が現れ、エイジをその場に放り出した。
「痛ぁ!! 何で出口を天井に繋げてんだよ! 嫌がらせか!? アイツからの嫌がらせかなのか!? 驚きで心臓が止まるとこだったわ!」
裂け目が現れたのはダンジョンの天井で、エイジはそこから地面まで落下し、着地を失敗して転んだ。
起き上がったエイジが服を手で叩いていると、後ろから声が聞こえた。
「エイジさん!?」
「え?」
エイジが振り返るとそこには、無傷ではあるが、疲れきっている様に息を荒くしている二人がいた。
その二人とは、フィルディアとカイトだ。
「おお、フィルにカイトか。早い再会だな」
「エイジ、君は魔鎧に勝ったのか!?」
「まぐれだよ、まぐれ。てか、そんな事は置いといてだな。ここは何階だ?」
その質問を受けたカイトは、自信満々に答えた。
「ここは五階だよ! きっと、ゴールも近い!」
「たったの五階!? 外から見た感じからして、ゴールが五階から近い訳ないだろ!」
「だよね……。でもまぁ、エイジが来たから助かったよ。前みたいに、サーチエリアで道案内をお願い」
「あのなぁ、俺は自分の役目を終わらせたばかりだぞ……?」
エイジもアーサー同様にため息を呟いた。
そして、シルヴィアを助ける為の最善手を取るため、エイジはカイトの頼みを了承する。
「分かったよ……。まったく、人使いが荒い奴だな、お前は……」
そう口にすると、エイジは六階に繋がる道の方を向き、一言だけ口にして歩みだした。
「じゃあ、さっさと終わらせようぜ」
「ああ! 攻略開始だ!」




