第二十二話 剣技で戦う魔法使い
イニティウムで起こった異常な出来事は、すぐさま王都『キャメロット』にいる王様の知るところとなった。
「王よ、 ここより東、イニティウムの地にて異常な魔力反応を観測しました」
玉座に座る金の髪をした男性の前でひざまづく騎士の言葉を聞き、王が命を下す。
「ベディヴィア、俺に付いてこい。マーリンを呼び、三人だけでイニティウムに向かう。王都は残る円卓の騎士達に任せる」
エイジが魔鎧と戦い始めたちょうどその頃、ミズガルズの王である『アーサー』が動き出した。
全二十階層のダンジョンの入り口前で始まった戦い。
グリムリーパーは参戦せず、戦うエイジの動きをじっくりと観察している。
進化した魔鎧とグリムリーパーは言っていたが、エイジは今のところは苦戦しておらず、戦い方を見つけたお陰で押している方とも言え、魔鎧が強くなったとは感じていなかった。
短期決戦を狙っていた事もあり、エイジはその事をさほど気にも止めず、ただただ最善手で攻撃を仕掛ける。
カイトを投げ飛ばした以降、身体能力や魔力に何の影響もなく、普通の状態と言える。
それでも魔鎧との戦いが優勢であるのは、武装合成魔法で出した刀のお陰だろう。
しかし、それだけではない。エイジの持つ鋭い見切りスキルも大きく影響している。
現に今、エイジは魔鎧の攻撃を全て、避けるか武器で受けきっている。
「悪いな、そろそろ終わらさせてもらうぞ!」
単調な動きから繰り出された攻撃を、右手に持つ刀を左から全力で右斜め上に振り上げ、攻撃を弾くと同時に剣を破壊し、
「これでフィニッシュだ」
攻撃を弾く為に振り上げた刀に魔力を纏わせ、とどめをさす為振り下ろす。
だが、
「終わりじゃねェよ、始まりだァ!」
エイジの攻撃が通るよりも先に、魔鎧の足元に魔方陣が現れ、魔鎧を光が包む。
そしてその瞬間、絶対に決まるはずだったエイジの攻撃は、魔鎧にかわされた。
「なに!?」
一瞬の事で理解が出来なかったが、頭で考えて答えを出すより先に、もう一度目の当たりにして理解した。
攻撃をかわされ、僅かに生まれてしまったエイジの隙。それは時間にして一秒となかった。
だが、まさに一瞬と言えるその隙に、先程までとは比べ物にならない程の速さの魔鎧に、左ストレートを腹にもらった。
「がッ!?」
持っていた武器を破壊していた事により、エイジは剣で斬られる事がなく、くらった攻撃は細い腕によるものだった。
しかしながら、魔鎧の攻撃力は折り紙つきなうえ、エイジは防御系の魔法が使えず、ノーガードでの直撃。大ダメージは避けられなかった。
「クソ! ……うッ!」
魔鎧は即座に次の攻撃を繰り出したが、エイジは刀を盾として直撃を避け、その威力を利用して後ろへと飛び退き、魔鎧から距離を置いた。
数メートル程距離を置いたエイジを、魔鎧は直ぐに追いかける事無く、武器を無くした攻撃力を補う為か、自分の両腕に大量の禍々しい魔力を纏わせだす。
「……コイツの対応速度は人間並みかよ。それに、急な異常加速は魔法か? やっぱり、属性攻撃魔法以外は効くみたいだな」
「ご明察。ついでに言っとくが、魔法を使ったのは俺じゃねェ」
「は? ……まさか、魔鎧が!? いやいや、冗談だろ。魔物が魔法を使うには知能が………」
その瞬間、エイジの頭に先程口にしたばかりの言葉が浮かんだ。
(人並み……魔法……?)
ひらめきが逆に混乱を呼びそうになったが、エイジは一つの結論に至る。
「分かったぞ、これは幻覚だな! 姑息な手を!」
「――俺は、魔鎧に人間並みの知能をあたえ、魔法の発動を可能にした」
全くの検討違いに、グリムリーパーはエイジの答えを無かった事にして言った。
「そう、それ。それが言いたかったんだよ。いやぁ、本当に惜しかった」
「全然だろ」
「心では感じてたし! ……おわッ!?」
己を無視して話していた事に苛立ちを覚え、バフで強化されたスピードを生かして即座に距離を詰め、飛び掛かってきた。
その攻撃はかわしたものの、次に繰り出された右ストレートが腹に直撃する。
「ゴフッ!!」
倒れそうになったが踏ん張り、自分に攻撃を入れた魔鎧を斬ろうとするが、先に次の攻撃を決められた。
魔力を纏わせた刀の強度はかなりのもので、魔鎧の攻撃を受けても傷一つ付かない為、エイジは刀を盾として攻撃を受け続ける。
ただ一方的に攻められ、エイジの見せ場も無いままに十分という時が経つ。
リミットは残り五十分。
ダンジョンは二人に任せたエイジだが、出来るだけは加勢に行きたいと思っている。
故に、これ以上の時間は消費できない。
そんな事を考えていた時、エイジは魔鎧が次に繰り出した一撃を避ける事も防ぐ事も出来ず、腹に直撃してしまう。
「うッ!?」
あまりの威力に体が後ろへと吹き飛ばされそうになるが、エイジは魔鎧の腕を左手で掴んで踏ん張り、右手に持った刀を魔鎧に突き立てようとしたが、掴まれた腕を勢いよく横に振ってエイジを振り払った。
「おわああああぁぁぁ――いでッ!?」
かっこよく受け身を取ろうとしたが、今まで一度もやった事がないエイジには出来ず、カッコ悪くスッ転んだ。
倒れた状態のエイジに魔鎧は攻撃を仕掛けるが、エイジは転がってその攻撃をかわし、魔鎧の足を蹴って転ばせた。
その隙に攻撃を試みるも、反撃されそうになった為、攻撃を止めて距離を取る。
「何なのコイツ! ボクサーばりのパンチを繰り出すコボルドとか知らないんですけど!」
距離を詰めてきた魔鎧の攻撃を避けながら、愚痴る様にそう言うが、それはエイジに余裕が現れてきた事の証拠でもある。
素早い動きから繰り出される近接の連続攻撃は強力だが、エイジの持つ見切りの鋭さもあり、その素早い動きに慣れだしたのだ。
と言っても、エイジは防戦一方なうえ、度々ストレートパンチをもらっている。
「何故だ? アイツの動きが俺との戦いの時より鈍いな。体力や魔力は回復しているはず……」
魔鎧と戦うエイジの動きを観察していたグリムリーパーが呟いた。
ユニークで創り出した異空間の効果を誰よりも知っている故、エイジの動きが前より鈍い事に疑問を抱いたのだ。
それと同時に、そんな今の状態でも進化した魔鎧に遅れを取っていない事への驚きもある。
「それでもあの余裕。……そうか、お前は勝利に繋がる道を見つけているのか」
防戦一方であるエイジを見ていたグリムリーパーだが、何故かそう確信できた。
そして、それは間違いではない。
「はぁ、俺はもう少し魔法使いみたいな戦い方がしたかったんだけどなぁ……」
魔鎧の連続攻撃を避け、再び魔鎧から距離を置いたエイジが呟いく。
攻撃を避け続けられて頭に血がのぼった魔鎧は、自分に掛けた速度強化魔法のリミットを忘れており、エイジがそうなる様に思考を誘導していた。
人間並みの知能、考える力を阻害し、極限まで苛立たせて野生の本能を引きずり出したのだ。
「お前は知能がある分、誘導しやすかったよ」
野生の本能を剥き出しにしている魔鎧は、魔法を使う事などしようともせず、ただただ魔物である己の本能に従い、獲物であるエイジを殺す為に襲い掛かる。
「見せてやるよ、本当の進化を」
そう言うと、両手で進化した雷刃を握り、前に向けて構え魔力を纏わせ、飛びかかる魔鎧をかわして左横腹を斬りつけ、雷が軌道を描く。
雷は魔鎧を被う禍々しい魔力に触れた瞬間に魔力へと還り、美しく消え行く。
エイジの攻撃で魔鎧に深い傷を付ける事は出来なかったが、確かにダメージは与えた。
宙で横腹を斬られた魔鎧が着地し振り返ろうとしたが、それよりも先にエイジが魔鎧の背中を左から右に斬る。
「うおおおおおおおおおお!!!」
魔鎧の動きを完全に見切り、攻撃を避けながら最善手を探し、有効打となる攻撃を連続で決めていく。
一撃決める度、次の攻撃の威力が増して大きなダメージを与える。
「なんだ、あの攻撃は!? 威力が増していく連続攻撃……魔法なのか……!?」
そう、グリムリーパーの言う通り、エイジの攻撃は魔法である。
武器の合成に使った魔法銃の能力を利用し、刀に魔力を纏わせているこの状況でも、魔法を『剣技』という形で発動させているのだ。
さらに、この剣技は威力を増していく連続物理攻撃である為、魔鎧にも有効でダメージを与えられるのだ。
「やっぱり有効か。よし、俺の更なる剣技を見せてやるよ!」
この短時間で体力を大きく失った魔鎧目掛け、エイジは少し離れた位置から刀を振り下ろし、宿す魔力を斬撃に変えて放った。
その斬撃は命中と同時に弾け、魔鎧の防御力が高い事をまるで感じさせない程のダメージを与える。
「ガ……グッ……!」
荒い呼吸をする魔鎧をエイジは追撃せず、先程より多くの魔力を刀に纏わせ、目を閉じて居合の構えを取り、呼吸を整えて心を落ち着かせる。
これをチャンスと思ったのか、魔鎧は考え無しにエイジへと全力疾走で向かう。
「これで本当にフィニッシュだ」
エイジは、魔鎧をギリギリまで引き付け、抜刀術を使い、ゼロ距離で最高威力の斬撃を魔鎧へと放つのだった。




