第二十話 己を嫌う存在
「本当に出られたよ…。ここは…街の入り口だね」
「当然だが、壁が壊れているせいで街は魔物で溢れているな……」
「私達なら魔物が百や二百体が束になっていても勝てますよ!」
「うん、それは普通に無理な」
「諦めなければ勝てるよ! 実際、コボルドを百体討伐したしね」
「ここが街だってことは忘れてないよな? 広範囲高威力魔法は使えないんだぞ」
「今のところ、エイジさんには無関係のデメリットですね。だって、魔法が……ねぇ」
「ねぇって何だよ、ねぇって!? 魔法がロクに使えないですしって言おうとしただろ!?」
「………」
「否定…してほしかったんだけど……」
壊れたイニティウムの入り口の前で騒ぐ三人に対し、街の中に侵入している魔物が街の外に出てきて襲ってくるといった様子はない。エイジはその光景に違和感を抱く。
エイジが魔物の様子を伺うなか、カイトは目線を真っ直ぐ領主の屋敷へと向けており、その横顔からは、憎しみにもにた怒りを感じ取れる。
心の底に沈めていた怒りの感情を溢れ出させてしまったカイトは、目を閉じて深呼吸をし、心を落ち着かせ怒りの感情に蓋をした。
「二人共、そろそろ行こうか」
カイトが二人より先に歩みだし、街の中に足を踏み入れようとしたときだった、
「どうやって脱出した?」
カイトの前方五メートル程の距離に空間の裂け目が出現し、その中から三人に問いかける男の声が聞こえた。三人共が聞き覚えの声だ。
その声を聞いた瞬間、カイトは裂け目に向かって走りだし、裂け目から姿を表したら男に素手で殴りかかる。
「グリムリーパー!!!」
「単細胞かよ」
そう口にした後、自分への敵意を剥き出しにしたカイトを魔法で吹き飛ばす。
「おわっ!?」
「カイト!!」
吹き飛ばされたカイトをエイジが受けとめ、フィルディアが魔法による攻撃の体勢に入る。
カイトを受けとめたエイジも魔法銃を構え、即座に攻撃体勢に入り、二人が攻撃を放ったあたりでカイトも魔法攻撃を放てる体勢に入り、二人の攻撃を防いだグリムリーパーの魔力障壁を破壊する程の威力で魔法を放つ。
「クソッ!」
障壁を破られたグリムリーパーは空間を裂き、自分の前に異空間への入り口を作り出し、カイトの魔法をかわす。
その瞬間に、この能力の限界を知っているエイジが一気に距離を詰めたが、グリムリーパーは死霊の鎌を振るってエイジに距離を置かせる。
「すまん、攻めきれなかった」
入り口から外へと十メートル程離れた地点に立つエイジが近くにいた二人に言う。
「大丈夫です。でも、次はお願いしますよ」
「ああ、次手にしたチャンスは無駄にしない」
「あ……二人共、その……ごめん、冷静さを欠いていたよ。でも、怒りが抑えれないんだ!」
グリムリーパーを睨み、血が出る程までに力一杯拳を握る。
「気にすんなよ」
そう言ってカイトの背中を叩く。
エイジは知っている、自分の中に感情を抑え込みすぎると、自分自身が壊れかねない事を。
痛い程に知っている、大切な何かを失う恐怖と絶望を。
「その怒りは、お前がシルヴィアを大切に思う証拠だ。恥じるな、胸を張って誇れよ。そうすれば、今何を優先するべきか見えっからさ」
「エイジ……」
エイジは、カイトに自分の様にはなってほしくはないのだ。自分の様に、自分自身を嫌う存在に。
「エイジさん、街を見てください!?」
サーチエリアで回りを警戒しており、グリムリーパーの方を見ていなかったエイジが、フィルディアの声を聞いて振り返り、下を向いていたカイトは顔を上げ、驚きの光景を目にした。
「何だよ、あのデカイ魔方陣は!?」
イニティウムの上空に現れた、イニティウム程に大きな魔方陣。
その魔方陣は、グリムリーパーが指を鳴らすと紫の光と物凄い魔力を放ち出す。瞬間、イニティウムを震源地にして、かなりの範囲に地揺れが起こり出した。
イニティウムより離れた街はそうでもないが、震源地であるイニティウムの揺れは大きく、街の中にある建物が崩れて行く。
そして、グリムリーパーの魔法によって、壊れたイニティウムの街に何かが創り出される。
「これは!?」
「おいおい、冗談だろ!?」
「まさか、そんな事が……!?」
目の前で起こりだした、否、起こった出来事は、三人の許容量を大幅に超えるものだった。
いや、誰でも同じ反応をするだろう。
何故なら、その光景を目にした人間など、もうイニティウムには存在しないのだから。
「ダンジョンを……創りやがった!?」




