第十九話 不思議な空間
見渡す限りが歪んだ不思議な空間。
そこは、普通には存在しない、グリムリーパーがユニークで創り出した空間だ。
そんな歪んだ不思議な空間で、エイジは約二日ぶりに目を覚ました。
「エイジさん!」
最初に見たのは歪んだ空間で、次に見たのは涙を流すフィルディアの姿。
そこでようやく、エイジは今自分達がいる場所と状況を理解した。
上体を起こすと、右側にいたフィルディアが抱きつこうとしたが、エイジは手を前に出して止めた。恥ずかしいのもあるが、自分の着ている服が血塗れであるためだ。
「フィル……無事みたいだな、良かった」
「私は、エイジさんに逃げてくださいって言いました! 一人で無茶はしないでください…」
「それは無理だな。俺の特技は無茶をする事だ…なんて冗談はさておき、俺にフィルを見捨てるなんてできないよ」
「エイジさん……」
フィルディアの言葉は確かに聞こえていたが、エイジの体は考えるよりも先に動いていた。この様な場合、必要なのは理屈ではなく、思いの力なのだろう。
フィルディアはエイジの大切な仲間。助ける為に無茶をするには十分過ぎる程の理由だ。
「俺さ、フィルと一緒にいると楽しんだよ…。出会ってたったの数日だってのに、俺にとって欠けがえの無い存在、仲――」
「それは告白ですか!?」
「……え?」
服の袖で涙を拭いたフィルディアがそう言い、聞かれたエイジは一瞬フリーズした。
「あ、あの! それは愛の告白なんですか!愛の告白なんですよね!」
「え、いや、違うよ! 俺が言ってるのはただの感情論であってだな」
「好きは感情じゃないんですか?」
「それは確かに感情だけども!」
「つまり、私は告白されたんですね!」
「待て待て待て! 話が迷走してるぞ」
人生初めての告白に浮かれているフィルディアは、話に夢中になりすぎてある人物の存在を忘れていた。
「ここで二人の世界に入られると、僕はかなり気まずい状況になってしまうんだけど」
「うわ!? …カイトか、びっくりさせんなよ!」
「いやいやいや、僕の方がびっくりだよ! 僕の存在に気づかず、まさかの告白。見せつける様にイチャイチャしだすし」
「イチャイチャしてねぇから!!」
この異空間にはカイトもいたのだ。
フィルディアがここに来たとき、カイトは身体中を鎖で拘束されており、エイジが眠っている間にフィルディアが開放したのだ。
この空間では喉が乾かず、お腹もすかない。体力や傷の回復が早く、グリムリーパーに斬られたエイジの傷が跡を残さず治るなど、完全なる不思議空間で、エイジが目覚めるまでカイトが脱出方法を探していたが、方法も出口もまるで見つからない。
「告白は否定しないんだね」
「そこはもういいから!」
「私、告白されたのは初めてです! 今まで、告白は物語に出てくる架空の儀式と思ってました!」
「本当にその話は止めようぜ! 頼むシルヴィア、俺の弁護を…して……って、シルヴィアは?」
気になって口にした言葉。その一言は、騒がしかった二人を同時に黙らせる。
そんな二人の姿を見た瞬間、躊躇いながら次の言葉を口にした。
「……シルヴィアはこの空間にいないのか?」
その問いから少しして、二人はエイジに現在の状況について話し出した。
エイジが約二日間も目を覚まさなかった事や、この空間に出口が存在しない事。そして、シルヴィアがこの空間にいない事。
「……そんな事があったのか」
「だからさ、エイジが目覚めるまで、二人で話し合っていたんだよ。どうやってシルヴィアを助けるかを」
「それでですね、二日かけて答えにたどり着きました!」
「ほぉ、どんな?」
「「ここからでる!」」
自信満々に声を揃えて言われ、思ったことを言うべきか言わぬべきか悩んだ末、エイジは心を鬼にし、二人に言うことにした。
「お前等はバカか? その脱出方法は考えているのか?」
「うっ……全く考えていません」
「そこはエイジに任せるよ! 僕達は一つの結論を出したからね」
「いや、何一つ出てねぇよ! 全部丸投げしてんじゃねぇか!!」
実際には関係のない事を考えていたフィルディアは笑って誤魔化し、カイトはエイジに頭を下げて「お願いします!」と頼み込む。
「はぁ……」
(まぁいいか、策ならある訳だしな)
エイジはその場から立ち上がり、パーカーの内ポケットからライセンスカードを取りだし、ズボンのポケットに移した後、血塗られたパーカーを脱いで腰に巻いた。
その後、眠っている間も消えない様にしていた魔法銃を右手に持ち、二人に見せる。
「この中には、グリムリーパーの魔力で作られた弾丸が一発だけ入っている」
「……あ! 私をここに連れてきたあの魔法ですか!」
「だんがん?」
話についてこれないカイトに、エイジが分かりやすく言い直す。
「俺が死神の魔法を使う」




