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異世界コンティニュー ~ユグドラシルの奇蹟~  作者: 星神凛花
第一章 「異世界からの冒険者編」
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第一話 始まりのコンティニュー

 運命とは予測不可能。

 一つの選択だけで、これから歩む未来を大きく変える事もある。

 それが良い方向か悪い方向かは分からず、良い方を確実に選ぶというのは不可能なのかもしれない。

 選択肢の全てが良い未来に繋がっている事もあれば、悪い未来に繋がっている事もあるかもしれない。

 考えても答えは出ない。

 一度選んだ運命の選択肢は、二度と選び直す事ができないのだから。

 故に、運命とは予測不可能である。




 四月七日。

 この日は桐山英志が高校二年になる始業式の日だった。

 その為、英志は朝の七時に起き、七時十分に朝食をとり、七時三十分に家を出た。

 この時点で、既にいくつかの選択肢があり、一つでも違えば、英志の未来は全く別のものになっていたかもしれない。


 七時三十五分。

 通学路が事件に巻き込まれた英志は、十六歳にして死を遂げた。

 運命には、誰であろうと決して逆らえないのかもしれない。




「……ここは何処だ? 家を出てからの事を思い出せない………」


 死んだはずの英志は、辺り一面どころか、見渡す限りの全てが白だけの空虚な世界で、死した記憶を失って目を覚ました。


「あれ? 着てた制服が普段着になってる…」


 目を覚ました英志は、自分の着ている服が変わっている事に気づいた。

 上が黒色の半袖のTシャツに白色のパーカーで、下が黒色の長ズボンと、白色をベースにし、黒色のラインが入ったスニーカーだ。


「夢……じゃないよな」


 英志はこの状況を夢だと考えたが、意識があまりにもハッキリしていた為、夢ではないという結論を出し、この考えを切り捨てる。

 次に、英志は今日起きてからの事を思い出していくが、家を出た後の事はやはり思い出せない。


「手荷物は無いな。ポケットにも何一つ無いな。……今は何時だ?」


 そんなことを呟き、英志は何処とも分からない空虚な世界を歩み出した。

 それは北なのか南なのか、または東か西なのか、自分の向いている方角も分からないままに進む。この世界の情報を得るためにだ。

 しかし、いくら歩いても景色が変わらず、本当に進めているのかも分からない。

 どれだけ歩んでも、英志が得る情報は何一つ無い。


「この場所は、今の俺みたいだな……。存在があるだけで、他には何もない………」


 その言葉を口にしたとき、英志は一番思い出したくない日の事を思い出してしまった。

 それは、大切な妹を失い、自分自身が嫌いになり、空虚な日常が幕を開けた日の事である。




 英志には、瑠花と言う一つ下の妹がいた。

 だが、瑠花は英志の目の前で事故に合、亡くなった。

 その日から英志はずっと後悔し続けた。

 何故助けられなかったのか。何故死ぬのが自分ではなかったのか。何故、瑠花ではなく自分が生きているのかと。

 英志は、涙か枯れるまで泣き続けた。


 そして、自分への怒りと憎しみを八つ当たりするかの様に、不良たちと喧嘩ばかりする空っぽな日常を送り始めた。

 人を殴り、人に殴られ、その痛みで心の痛みを誤魔化そうとしていたが、誤魔化す事はできない。

 そう、人の死とは完全に忘れ去る事ができない。

 その人と過ごした日々が尊ければ尊い程に。


 しかし、今より一年前、ある夢を見た事を境にして、英志は自分を変えるべく歩み出し、妹の分もしっかりと生きると誓った。

 その見た夢の内容は、英志自身、詳しくは覚えていないのだが、誰か知らない人と話していた事だけは覚えていたのだ。

 会話の内容も思い出せない。

 だが、変わろうと強く思えた事はハッキリと覚えていた。

 その日から、英志は足掻く。

 変わりたいと思い、自分を変えようと努力をして、困っている人がいるなら迷わず助けた。

 しかし、そんな英志に偽善という言葉が重くのし掛かる。

 一度考えると足掻くのが苦しくなり、英志をさらに苦しめる。

 それでも、英志は諦めずに足掻き続け、苦しもうとも前に進んだ。




 空虚な日常の幕開けを思い出した英志は、同時に死というワードが英志の記憶の扉に掛かった錠前を外す。


「あ……思い出した。俺は死んだんだ……。でも、何で死んだのか思い出せない! いっ! 頭が痛い!?」


 英志が思い出した記憶は断片的で、全てを思い出すには、また別の鍵が必要の様だった。

 さらに、無理にこじ開けようとすると、頭に激痛が走り拒まれる。


「クソ! 結局無意味だったのかよ! 苦しみに耐えて足掻いたってのに、俺は何も変われなかったてのかよ!! ………いや、こうやって悔しがれるだけ変われたのか………」


 英志は自分が変われていれのかを、この虚無なる世界で自分に求める。

 しかし、自問自答で変わっていると理解できても、英志の中は自己満足になってしまう。

 他者に答えを求めようと、英志を知る人どころか、英志の目に見える範囲に人はいない。

 だが、可能性は希望である。

 変われたかもしれないという可能性は、今の英志にとっての希望になる。

 希望がある限り、人は絶望せず、明日を信じて進む事ができる。


「今日がダメでも明日がある! ……死んでる俺に明日があるのか? 意識はあるんだし、明日はあるのかも……あ! ここなら瑠花に会えるかもしれない!!」


 新たに生まれた希望の光が英志を照らす。

 英志が新たな希望に向かって歩もうとしたとき、


「パーーン!!」


 誰かが英志の背後で叫ぶ。


「うわっ!?」


 英志は、止まっている心臓が再び動くのではという程にビックリし、二秒程硬直した後に、覚悟を決めて振り替える。

 そこには、湿気って音の鳴らなかったクラッカーを持った男がいた。


「…………誰?」


「初対面である為、誰という質問は私も適用できる言葉ではあるものの、私は君を知っている為、そこは返さずに君の質問に答えよう」


 その男はそう言うと、指を鳴らし、空虚なるこの世界に二つの椅子を向かい合うかたちで出し、その片方に腰を下ろし、足を組んだ。


「立ち話もなんだ、椅子に掛けなよ」


「……どうも」


 何処からどうやって出したのかという疑問を持ちながらも、英志はその男のご好意に甘え、椅子に腰を掛ける。

 本当ならば、英志は瑠花を探す事を優先したいのだが、この場所で唯一出会った人である為、この場所について知っている事を聞き出そうと思ったからだ。

 使えるものは何でも使うというやつだ。


「まず始めに、自己紹介でもしとこうか。私の名前はシュバラ。この空虚なる世界の主にして、君たち人間の崇める神様だ」


「ちょっと待て!? 驚きの事実をサラッと言うな!! 何の冗談!?」


「信じれないのかい?」


「全く持ってな!」


「それじゃあ仕方ない、君に信じさせてやろう。神は全てを見通す。もちろん、君の事もね」


 そう言って、シュバラは少し悪い笑みを浮かべた。


「桐山英志、十六歳。妹が好きすぎるシスコンヤロー」


「ちょっと待て! 兄は妹を愛でる義務があるんだぞ! シスコン呼ばわりはやめろ!」


 その訴えを無視するシュバラは話を続ける。


「夢は大体一年おきに変わり、カメラマン、探偵、旅人、宇宙飛行士か教師、魔法使い等々。今は、ゴーストになりたいんだっけ? 夢かなったね~!」


「止めろ、いろいろとヤバイだろ!?」


「一番の好きなキャラを天使と呼んだりもしているね」


「そんなのはいたって普通だろ! でも……その、恥ずかしいからか止めてくれ……」


 羞恥によって英志のライフが削られていく。

 実際には、英志に削られるようなライフは残っていないのだが。

 だが、確実に羞恥の耐久力は失われている。

 自分の事を語られるのは、個人に差はあるものの、誰であれやはり恥ずかしいものだ。

 それを英志は聞かされ続けた、それはもう、叫びたくなる程に――。


「君の初恋は――」


「やめてくれえええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


 英志の叫びも虚しく、この後も一時間程話が続いた。




「こんな感じかな、信じてくれた?」


「逆に疑わしくなったわ!? 神じゃなくて悪魔なんじゃないのかってな!」


「ありゃー、そんなに怒っちゃう?」


「怒るわ! 俺は行くからな! 全くの持って無駄な時間だった!」


 英志が椅子から立ち上がり、その場を離れようとシュバラに背中を向けた瞬間、


「この世界には君の妹はいないよ」


 そう口にした。


「どういう意味だ?」


 振り返った英志はシュバラに言葉の意味を問う。


「言葉道理の意味だよ。というか、この世界には私と君以外は存在しないよ」


「は!? この世界は死後の世界とかじゃないのかよ!?」


「違うね。ここは私の世界であり、死後の世界ではない。君に用があって魂を呼び寄せたにすぎない」


「用? 俺にか?」


「そう、君にだ」


 シュバラは短く答えると、椅子から立ち上がり、英志に一つの提案を出した。


「英志、運命に逆らってみないか?」


「運命に……逆らう?」


「君が死んで人生を終える。その運命に逆らうんだ! 人生のコンティニューだ!」


「人生のコンティニュー?」


 英志はその言葉に引かれ、シュバラの話に聞き入ってしまう。


「君は別の世界、異世界にコンティニューして、続きの人生を送るんだよ」


「異世界!?」


「そう、君は異世界に行くんだ! そこには、君の求める全てがある!」


「俺の求めるもの………」


「他者との繋がり。自分の存在価値。他にも魔法や冒険。そして、君の妹」


「瑠花!? どういう事だ!! 瑠花はその異世界に行ったってのか!? じゃあ、そこに行けば瑠花に会えるのか!?」


「ああ、そうだよ」


 英志の問に答えたシュバラは両手を広げ、英志に選択肢をあたえる。


「さあ答えよ! 運命の言いなりとなるのか、運命に逆らうのか!」


 英志は即答こそしなかったが、瑠花の名前がでたときから答えは既に決まっていた。


「俺は、瑠花に会いたい……」


「その選択の先には沢山の困難が待ち構えているだろう。覚悟はできているかい?」


「困難とかどうでもいい! 俺は瑠花に会って謝りたい。その為なら、どんな壁が立ち塞がってもぶっ壊してやる!!」


「決まりだね」


 既に覚悟ができていた英志の姿を見たシュバラは、英志の足下に魔方陣をだした。


「君の人生が良きものになることを、私はこの世界から祈っているよ」


 シュバラが英志に向かって言葉を送ると、魔方陣から強い光が立ち上ぼり、英志の周りを覆いつくす。


「運命に逆らえ、英志!!」


 運命とは予測不可能。

 英志が運命に逆らう事さえもが運命の導きなのかもしれない。

 それでも――――。


「これは、俺自身が選んだ道だ。自分の運命は自分で決める! コンティニューだ!!」

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