第十七話 異空間の支配者
ユニーク狩りの死神。
何を目的にしてユニーク保有者を殺しているのか、その本当の意味を知るものはいない。
噂は沢山ある。ただ殺戮を楽しんでいるだけとか、強いやつと殺り合いたいだけ、など。
噂は噂にすぎないが、そう割りきれるものばかりではない。一番最悪な噂が的を射ている場合もある。
ユニーク狩りの死神、グリムリーパーの噂は数多く存在する為、何が一番最悪なのかは人それぞれの感じかたで変わり、意見が割れるかもしれない。
何が真実で何が偽りか、それを知るものはまだグリムリーパー以外にはいない。
それ故、フィルディアは理解できないでいた。何故、ユニークを持たない自分達の前に現れたのかと。
グリムリーパーの真の目的はカイトとシルヴィアを殺す事だと思っていたフィルディアには、今、カイトもシルヴィアもいないこの場所に現れた理由が皆目見当もつかない。
いや、確信ではない、ただの予感ならフィルディアの中にある。会って数日、理解できたようでまるで理解できていない人物、グリムリーパーが名を口にした人物が、もしかすると、ユニークを持っているのかもしれない、と。
この疑念も噂と同じく真実は分からない。分かっている事は、現状、自分達がピンチであるという事だ。
突如として現れたグリムリーパーには、二人を殺すチャンスがあった。
厳密に言えば、グリムリーパーが本気を出すならば、今も二人を余裕で殺す事が可能だ。その事を二人も理解している。
だが、エイジの中で、それは仲間を見捨てて逃げる理由にはならない。その為、武装合成魔法で合成した魔法銃の銃口をグリムリーパーに向け、引き金を引く。
速射された十発のホーミング弾は、ただ真っ直ぐに進むのではなく、急に曲がったりし、グリムリーパーを様々な方向から襲い、被弾時の爆発を起こした。
だが、その攻撃はグリムリーパーに被弾したのではなく、グリムリーパーの無属性防御魔法の魔力の障壁に防がれており、全くダメージを与える事が出来なかった。
「殺るき満々だなァ! それじゃ、少しだけ遊ばせてもらうかな!」
「フィル! 二人であいつを倒すぞ!」
「了解です!」
グリムリーパーは両手を広げ、赤色の魔方陣を五つを同時に展開させた。
その五つの魔方陣の形や模様の違いから、魔法に疎いエイジでも五つ全てが別の魔法だと理解できた。
この世界の魔法や常識に疎いエイジの感想としては、凄いとしか言いようがないが、フィルディアは違う。この世界の常識を知らないはずがなく、グリムリーパーの見せた芸当が通常ではありえないという事を知っている。
複数の魔法を同時に発動させる事が不可能だという事を。
それ故、その常識外れの芸当がグリムリーパーの持つユニークであると容易に推測できた。
「改めて自己紹介だ! 俺の名はグリムリーパー! お前達には特別、俺のコレクションを見せてやるよ! ユニーク・『アンリミテッドスペル』」
五種の炎属性魔法が同時に放たれる。
フィルディアが水属性の防御魔法で左右の二発を受け、残りの三つをエイジが魔法銃で撃ち抜く。
いくらグリムリーパーが強くとも、この世界の住人は、上級魔法や超級魔法の発動は制限され、条件を満たしていない者はユグドラシルの力により発動不可能だ。
グリムリーパーがユニークを有していようと、使える魔法が中級魔法までなら、魔法の属性相性的に勝ち目がある、と考えたフィルディアは、グリムリーパーに向かって強烈な水属性魔法を放つ。
「『アブソリュート・ウォーター』!!」
「今回は本気を見せたな! じゃあ、他の力を使うとしようか!」
フィルディアの魔法は地を削りながらグリムリーパー目掛けて直進する。
その威力は、カイトがユニークを使用した時程の威力で、中級の威力を遥かに上回っているの事は素人目にも分かる。
それに対するグリムリーパーは、『死霊の鎌』を自分の前に出し、それを右手で掴んで横に振るった。
グリムリーパーがフィルディアの魔法に対して行ったのはそれだけで、あとは余裕そうに左手を前に出しただけだ。
「そんな!?」
フィルディアの出せる最強の水属性魔法は、グリムリーパーの突き出した左手に止められた。いや、フィルディアにはそう見えた。
だが、グリムリーパーの正面とは別の場所にいたエイジは、グリムリーパーがフィルディアの魔法を止めたトリックを見逃さず、そのトリックに使った魔法の限界を知るために魔法銃の引き金を引いた。
水属性魔法を防いでいる途中、自分の右側から迫る攻撃に気づき、水属性魔法を防ぐ事を辞め、左側へと跳び、フィルディアの魔法を使ってエイジの攻撃を防いだ。
しかし、エイジは知りたい事を十分に知る事ができた。
グリムリーパーは、魔法で空間を裂く事が出来るが、複数箇所裂く事は不可能だと。
(それさえ分かれば対処出来る!!)
フィルディアの魔法で削られた地面だけでなく、辺り一面水浸しで、グリムリーパーに向かってエイジが進む度、ピチャピチャという擬音が聞こえる。
エイジは弾丸にホーミング機能を付け、引き金を二回引き、二十発の弾丸がグリムリーパーを様々な方向から迫り、グリムリーパーが防御魔法を発動しようとしたその瞬間、エイジが左手の親指と中指を弾いて音を鳴らし、それを合図にして二十発の弾丸全てが被弾前に爆発した。
自分に迫る攻撃が無くなった為、グリムリーパーは防御魔法を発動させず、その場からエイジの方へと進もうとした時だ、グリムリーパーはエイジの狙いに気づいたが手遅れだ。
爆発した弾丸がその場に魔方陣を展開させ、その全てから同時に『バインド』が発動し、グリムリーパーを絡めとる。
エイジは左手に鎖を握っており、グリムリーパーを捕らえている鎖に繋がっていた。
そして、エイジは魔力を属性魔力に変え、鎖を通してグリムリーパーに雷を流し込む。
「がああっ!? …この程度の鎖!!」
さらに、フィルディアもバインドを使い、グリムリーパーを逃がさない。
グリムリーパーの魔法攻撃に対する防御力が高く、一気に大きなダメージを与えれいないが、じわじわとグリムリーパーにダメージを与える。
「ぐっ……なかなかやんじゃねェか!! それじゃあ、ちょっと力を上げよかな!」
そう口にしたグリムリーパーの魔力は、魔鎧の様に、いや、それとはまるで別物。その魔力にエイジは闇そのものを感じとる。
瞬間、二十一の多重バインドが破壊され、死霊の鎌を手にしたグリムリーパーが、異空間を通り、ショートカットしてエイジの背後に現れた。
エイジが振り向いた時、グリムリーパーの持つ死霊の鎌が左側からエイジの首に迫っていたが、武装合成魔法を解除し、左手に出した雷刃で攻撃を防ぎ、エイジは、二つの刃がぶつかり合った瞬間に雷を流し込む。
「ぐっ!?」
先程と同じく、たいしてダメージは入らないが、雷のせいで瞬間的に動きが鈍ったグリムリーパーの腹部に、右手で持った魔法銃をあて、
「防げるなら防いでみろ!!」
大量の魔力を込めた一撃をゼロ距離で放つ。
その際、グリムリーパーも左手でエイジに魔法を放ち、二人共が後ろに数メートル吹き飛び、半壊した建物の壁に激突した。
グリムリーパーは即座に立て直す。エイジも直ぐに立て直し、武器を持ち替え、再び二人がぶつかり合う。
グリムリーパーの攻撃はとても速いのだが、防戦一方ではあるものの、エイジはそのスピードについていけている。
そして、防戦一方だったエイジの攻撃速度が段々と上がっていき、攻撃が鋭さを増す。
(何だこの感覚は…力が溢れてくる。 前にも感じた事がある…。いつだったか? ……そうだ、魔鎧との戦いだったな。今なら勝てるきがする!)
さらに速度と鋭さを増すエイジは、防戦一方から、グリムリーパーに攻撃を仕掛ける程に進化し、遂には、グリムリーパーの速度に至る。
武器を使っての戦いは、エイジの方が一枚上手の様だ。それを承知のうえで、グリムリーパーは近接戦を戦いを持ち込む。
単なるセンスでは劣るものの、死霊の鎌の形を存分に生かし、エイジを翻弄して優位を譲らない。
だが、エイジが元々持ち合わせていた見切りの強さも、戦いが激しくなるにつれて鋭くなり、武器が持つ形状の優位をほぼゼロにする。
死霊の鎌の大振りを雷刃で弾き、エイジが左手に持つ魔法銃の引き金を引こうとしたが、グリムリーパーが魔法銃を右足で蹴り飛ばす。
左手に武器が無くなった為、エイジは雷刃を両手持ちにする戦い方にし、さらに攻撃の鋭さを増す。
「それだけの方が強いじゃねェか! 楽しくなってきたァ!!」
グリムリーパーの暗い闇の様な魔法が高まり、少しだけ力を発揮する。
(速度が上がった!?)
漸く追い付いた速度にまた差が生まれだし、焦りを見せて乱れた一瞬の隙を突かれ、エイジはその身に鎌の攻撃を受けてしまう。
「がああああああああああ!!!」
攻撃の瞬間に後ろに跳び、直撃での即死は避ける事ができたが、かなりの深傷をおってしまい、エイジは膝を地に着かせた。
「おっと、危うく殺すとこだった。だが、勝負はついた――なっ!」
「がはっ!!!」
膝を地につき、グリムリーパーを見上げていたエイジは、かなり強めの蹴りをくらって倒れ、水浸しの地面が赤くなる。
(不味い、油断した! 傷が深い。血が止まらない。それでも――)
「俺は、カイト達の元に行くんだ! だから、負けられない!!」
「まだ立ち上がるのか!? でも、これ以上の戦いは命に関わるぞ。異空間でゆっくり休むといい」
「そうはさせません! 水式魔力バレット・『アブソリュートウォーター』!!」
エイジを異空間に送ろうとしたグリムリーパーに、魔法銃から放たれた五発の魔法が迫り、咄嗟にその攻撃に対して裂け目を出してしまう。
フィルディアはエイジとグリムリーパーの間に和って入り、魔法銃を構える。
「助かったよ、フィル」
「いえ、さっきはサポートが出来ませんでしたから。それに、魔法銃を拾ってなければ、魔法の発動が間に合いませんでした」
「助かった事にはかわりないって」
エイジは自分の傷口に左手で触れる。
「もう少しならやれる……。フィル、魔法銃は貸しとく。サポートは頼む」
「無理はしないでくださいね」
「多少の無理は勘弁してくれ」
右手に握る雷刃に魔力を纏わせ、残りの力を振り絞り、グリムリーパーに挑むべく走り出す。
負けるなど考えず、今は勝つことだけを考え、その為の最善を尽くす。
深傷のせいで、エイジの動きが先程より劣ってはいるが、どのみち次の攻撃を耐えれる事ができない為、防御を捨て、攻めにのみ徹して補う。
「はああああああ!!!」
だが、やはり劣っている分の差を詰めるにはまだ足りず、グリムリーパーに攻撃を弾かれたエイジは体勢を崩し、そこに死霊の鎌が左側から迫るが、エイジはそれを防ごうとはせず、立て直した後の反撃だけを考える。
「させません!!」
フィルディアの放った一撃が、死霊の鎌をグリムリーパーの手から弾き飛ばし、隙だらけになったところにエイジが一撃を決めようとしたが、グリムリーパーは身軽にかわし、『アブソリュートウォーター』で削られてできた水溜まりに着地した。
「くらえ!!」
しかし、エイジがその場から雷を流し、グリムリーパーにダメージを与え、感電させて動きを封じる。
「フィル!!」
「『アブソリュートウォーター』!!」
魔法銃を使わず、最大威力でフィルディアが魔法を放ち、動きを封じられているグリムリーパーに直撃した――様に見えたが、
「ふははははは!! 今の連携はなかなかだったぞ!」
魔力の障壁が展開し、攻撃を防がれていた。
痛みをこらえ、急ぎ距離を詰めたエイジが攻撃を仕掛けるが、グリムリーパーは、フィルディアに弾かれた死霊の鎌を拾い、空間を裂いて異空間に移動した。
そして直ぐ、グリムリーパーはフィルディアの背後に姿を現す。
「後ろ!?」
気配で気づいたフィルディアが振り向こうとしたが、
「きゃあああ!!!」
その前に魔法の攻撃をくらってしまう。
さらに、攻撃をくらったフィルディアは魔法銃を手離してしまい、グリムリーパーにそれを拾われてしまった。
「これって便利だよなァ。こうすれば、楽に異空間へ送れるからなァ!!」
グリムリーパーは魔法銃に魔力を込め、倒れたフィルディアに銃口を向ける。
「フィルーーー!!!」
エイジが走り出すが、攻撃を仕掛けた際に距離を取っているのに加え、相手の攻撃は魔法銃による速い攻撃だ。
「エイジさん、後は頼みますね」
「バーン!!」
フィルディアは、魔法銃から放たれた弾丸が被弾した瞬間、その姿を異空間へと消した。
「残るは、お前だけだ…」
グリムリーパーが魔法銃に魔力を込め、エイジの立っている方に銃口を向けた。
だが、グリムリーパーの瞳にエイジの全身は写らず、写ったのは強く握られた左拳。
「フィルを、返せ!!!」
「なに!? …がはっ!!」
顔面を殴られ、よろけるグリムリーパーに、エイジが雷刃を右上から斜めに振り下ろし、それをグリムリーパーは死霊の鎌で受け止める体勢にはいった。
だが、エイジは雷刃が死霊の鎌に当たる前に武装魔法を解除し、死霊の鎌の下を転がってグリムリーパーの背後に回り込み、左手から魔法銃を奪い返したのだ。
「うおおおおおおおおおおお!!!」
「ぐっ…!!」
振り向いたグリムリーパーの腹に、魔力を込めた強烈な一撃を入れ、力の限り吹っ飛ばしたが、倒れる事はなかった。
「はぁ、はぁ……うっ!」
エイジは傷口を押さえて膝をつく。体力の限界がきてしまったのだ。
グリムリーパーは、エイジから三メートル程離れた場所に立っており、その場の空間を裂くいた。
「お前はよく戦ったよ、俺が誉めてやる。褒美だ――」
そう言った瞬間、グリムリーパーにエイジは背後をとられ、背中を右手で触れられた。
今までグリムリーパーが一瞬で距離を詰める際は異空間を移動していたが、今だけはそうせず、素の速さだけでエイジを圧倒し、エイジに本当の実力差を見せつけたのだ。
「――受けとれ」
「があああああああああああ――――!!!」
ゼロ距離で魔法の攻撃を受け、エイジは凄まじいスピードで吹き飛ばされ、空間の裂け目に飲み込まれた。
異空間の魔法の限界を知り、同時に複数のバインド、ゼロ距離攻撃、近接戦、と対策を行い、エイジは力の限りを尽くしたが、それでもグリムリーパーに届くことは出来なかった。
「『アンリミテッドスペル』、『ディファレントスペース』。俺の使った二つのユニークを相手に、ユニークを使わずにここまでやるとはなァ。楽しかったぜ、エイジ」
ユニーク狩りの死神、グリムリーパー。
その人物については様々な噂があり、内一つ、この様な噂も存在する。
死神は、殺した相手からユニークを奪い取る事が出来る能力を持つ、と。




