第十四話 交わる悪意と最強種の魔物
「――ガラム様、魔鎧を倒したという冒険者パーティーを連れて参りました」
「通せ」
イニティウムにある大きな屋敷。その屋敷の二階にある扉の前で兵士が領主の名前を呼び、エイジ達を連れてきた事を言うと、領主からその部屋に入る許可がおりた。
兵士が扉を開けると、そこには四十代の男性が立っていた。
「おお! よくぞ来てくれた! おい、お前は席をはずせ」
「ですが!」
領主であるガラムが兵士に部屋から出るように言うと、兵士はガラムに意見をしようとしたが、ガラムに睨まれてそれをやめ、返事をした後に部屋から出ていった。
「あのー、発言をしてもいいですか?」
閉まる扉から視線をガラムに戻してエイジが言った。
「君達は私が呼んだ客人だ、私が領主とかは気にしないで、いつもの喋り方で構わない。無理に敬語を使うと会話がぎこちなくなるからな」
「……それじゃあ、そうさせてもらう」
エイジは躊躇うことなく敬語を捨て、いつものような喋り方で話す。
その姿に他の三人が驚いているが、ガラム自信は全く気にしていない。エイジも気にしないで話の本題に入る。
「俺達に用っていうのは?」
「それはもちろん、グリムリーパーの事だ」
「「「!?」」」
領主の口から出たのは魔鎧ではなく、この街に迫る脅威であるグリムリーパーだった。
まさか、領主がグリムリーパーの話をするとは思ってもいなかった三人は驚くが、カイトはそうでもなかったのか、全く動じない。
「驚かないところを見ると、君はグリムリーパーと魔鎧の関係性に気づいているみたいだね」
「まぁ、そうですね」
ミズガルズでは今回を除いき、二度も魔鎧が現れている。
その両方共、魔鎧を倒すことは出来ておらず、片方は撃退、もう片方は街が崩壊している。
そして、魔鎧が現れた過去 二度の事件で、魔鎧とは別の何かにユニーク持ちが殺されている。
三度目となる今回、ユニークを持つカイト達の前に現れた為、カイトは確信を持ったのだ。
「魔鎧を生み出したのはグリムリーパーだね。誰も知らない魔鎧の魔石の事も知ってたし」
「魔鎧の魔石? それはいったい」
「あぁ、これが魔鎧の魔石」
ポケットから魔石を取り出すと、エイジはガラムにそれを渡した。
その魔石をいろいろな角度から見たガラムは、その魔石をエイジに返した。
「それは凄いね。内には恐ろしい程の魔力を秘めているようだ。これ程の魔力なら、街に強力な魔法障壁を展開させることも可能かもしれない」
「それは本当なのか!?」
「あ、ああ、本当だ」
エイジは自分の持つ魔石を握り、フィルディアの方を向く。フィルディアも理解したのか、頷いた後にガラムに話しかける。
「すいません、魔法障壁を展開する場合、どれくらいの日がかかりますか?」
「他にも準備は必要だけど、五日後には完成すると思うよ」
それを聞くと、フィルディアはガラムに事情を一から説明した。グリムリーパーに出会った事や、グリムリーパーが言い残した言葉など。
フィルディアの説明で、ガラムも出来るだけ早く魔法障壁の展開が必要だと理解した。
「なるほど、君達はこの街の為頑張ってくれたんだね。では、次は領主である私が頑張るばんだ。魔法式も組み直し、世界最高の魔法障壁を作り、グリムリーパーを追い払ってやろう!」
「頼もしいよ。じゃあ、この魔石は預ける。必要な物があるなら俺達が集めるよ」
「ありがとう! では、その時はまた呼ばせてもらうよ」
「分かった。それじゃあ、俺達はレベルアップがあるから、失礼させてもらうよ」
「そうか。君達も頑張ってくれ」
ガラムにお辞儀をしたあと、エイジ達は屋敷を出てギルドに向かった。
その姿を、屋敷の窓から見ていたガラムに、誰かが後ろから話しかける。
「俺を追い払うだァ、できもしない事を言ったもんだなァ」
そいつは、黒いローブを身に纏った男、グリムリーパーだった。
「まぁ、できもしないというか、やらないんですけどね」
ガラムは、悪い笑みを浮かべて振り替える。
「この魔石は、私の計画の為に利用します。先生が直接魔石をくれたら早かったんですがね」
「それは面白くないだろ」
「そう答えると思ってましたよ」
そう言われた後、グリムリーパーは窓に近づき、エイジ達を見下ろして言った。
「さァ、楽しいゲームの始まりだ」
善とは程遠い悪の思惑。
ガラムは、自分を信用したエイジ達を嘲笑うかの様に容易く裏切り、魔石を己が私利私欲に利用しようと企む。
そして、ガラムの企みもグリムリーパーが既にイニティウム内にいることも、エイジ達は気づいていない。
「――エイジ君、魔石を渡しちゃってよかったの? 何か嫌な予感がする」
「まぁ、魔法障壁でグリムリーパーを追い払う事は出来ないだろうな」
「やっぱり、そうなんだ……」
「でも、障壁があれば、カイトは被害を気にせずに戦えるだろ」
「確かに」
エイジの言った事は、シルヴィアを納得させるには十分な理由だった。いや、その理由ならば、シルヴィアだけでなく、エイジもフィルディアも納得できる程に説得力がある。
シルヴィアは妹だから当然だが、エイジもフィルディアも、ユニークを解放したカイトが、キングアックスオーガを一撃で丸焼きにしたところを目の当たりにしている。
攻撃の火力はパーティーで一番だ。
「よし、二組に別れるか。フィルとシルヴィアも頑張れよ!」
「はい!」
「うん、頑張るよ!」
「それじゃあ、僕達は行くよ」
エイジとカイトは、クエストを受けることなく街の外へと出ていった。
二人の考えは同じで、カイトの案内である場所に向かう。
その場所とは――ダンジョン跡地だ。
「うわー、見事に壊れてんな」
ダンジョンの形は様々だが、イニティウムの近くにあったダンジョンの形状は塔だったらしく、辺りは壊れた瓦礫の山になっている。
「エイジー! 地下への入り口を見つけたよー!」
エイジの名前を呼ぶカイトは、見つけた地下への入り口を指差しており、返事をしたエイジはカイトの元に移動した。
「階段か……。カイト、炎で明かりを頼めるか?」
「任せて。『イルミネート』」
カイトの魔法で階段を光で照らし、エイジを先頭にしてダンジョンの地下に入っていった。
エイジが先頭を歩く理由は、攻撃魔法は出来なかったが、『サーチエリア』と言う魔法を完成させたからだ。
サーチエリアは、自分から半径五十メートル以内の魔力を探る魔法で、魔力を持つものは例外なく見つけ出せる。グリムリーパーと初めて会った時のように。
「階段、けっこう長かったな」
「そうだね。だぶん、地下はこの一フロアだけだと思う」
「たぶん、か。じゃ、調べてみるよ」
階段から降りた先の広い場所で、エイジは地面に少しだけの魔力を流し、サーチエリアで半径五十メートル以内の地形を把握する。
そして、上は当然だが、エイジ達がいるより下の階層はなく、カイトの予想通りに一フロアだけだった。
「正解だ、カイト。地下は、このフロアだけみたいだ」
隣に立っているカイトにそう伝えると、エイジはダンジョンの先へと進みだした。
半径五十メートル以内の地形を頭に入れているエイジは、迷う事なく進む。と言うか、壁をぶち抜かない限りは一方通行だったのだ。
最初の広い場所より、一本道を四十メートル程歩いた場所でエイジは足を止めた。
「魔物の反応だ! しかも、俺が倒した魔鎧よりも強敵だ!?」
「魔鎧よりも!? で、でも、魔鎧と違って魔法でダメージは与えれる!」
エイジは数メートル程前に進み、地面に魔力を流して再び地形を把握する。
「奥の方に反応がかなりあるが、これは魔物じゃないな。たぶん魔道具だ」
「と言う事は、そこがユニークのある宝物庫」
「まぁ、地下のダンジョンにもユニークがあればの話だが……。どうする? 挑んでみるか?」
「勿論!」
「だよな! 武装魔法・『魔法銃』」
右手に武装魔法の魔法銃を出し、エイジが臨戦態勢に入ると、二人は宝物庫に向かって走り出す。
すると、エイジのサーチエリアに魔物が動いた反応が現れる。
「気づかれたみたいだな!」
「イルミネートのせいだろうね! まあ、関係はないけどね!」
魔物との距離が二十メートル程まで近づいたが、奥は扉が閉まっているせいで見えない。
それ故、カイトは足を止める事なく炎魔法を前方一直線に放つ。扉を破壊し、そのまま魔物に攻撃するためだ。
カイトの攻撃と同時に、エイジも魔法銃の引き金を引き、ラピッドファイヤー機能で五発を速射し、再び引き金を引いた。
「ガアアアアアアアアアアア!?」
ダンジョンに響きわたる魔物の悲鳴。
その叫び声からは、煮えたぎるような怒りをも感じ取れ、恐ろしい程に強烈だ。
二人は、あまりにも強烈な叫び声故、足を止めて耳を押さえ、開いた扉に視線をおくった。
そして、二人は魔物の姿を目にした。
「「ドラゴン!?」」
そう、このダンジョンの宝物庫の番人とも言える魔物は、ドラゴンだった。
そして、そのドラゴンの怒りをMAXにした二人に向かって、ドラゴンは口から炎を吐き出す。
「不味いよ、逃げ道が無い!?」
「俺に任せろ! 『雷刃』」
エイジは雷刃で壁に穴を開け、隣のエリアにカイトを投げ込み、エイジも間一髪でかわすことができた。
「おいおい、何でダンジョン内にドラゴンがいるんだよ! ドラゴンは空を飛んでないとダメだろ!」
「いや、ダメって事はないと思うけど。と言うか、どうする? 炎ブレスがある限りは近づく事も出来ないけど」
「大丈夫! 壁をぶち抜いて接近する!」
「乗った! 僕達は負けてないからね!」
二人は話し終えると、壁をぶち抜きながらドラゴンのいる場合まで移動する。
ドラゴンはそれに気づいているが、大きな体のせいで、今いる宝物庫前の広場からはでる事が出来ない為、二人が現れるのを待った。
そして、
「最後一枚だああああ!!」
二人は宝物庫前の広場に到着した。
その瞬間、ドラゴンは二人目掛けて再び炎を吐き出す。
「あぶな!? 出会い頭に殺されるとこだったぞ!」
「流石はドラゴン! 僕の炎よりも強力だよ!」
炎ブレスを避けた二人は、ドラゴンの左右に移動し、攻撃を仕掛ける。
「炎属性魔法・『ケルベロスフレイム』」
「雷式魔力バレット」
二人の攻撃を大きなドラゴンは避ける事が出来ず、全て直撃する。
しかし、ドラゴンにダメージはなく、鱗にキズをつけることすら出来てはいなかった。
「マジかよ!? ぐああああああああっ!!」
驚くエイジをドラゴンは尻尾でなぎはらい、カイトに炎で攻撃をする。
だが、カイトはその攻撃をかわし、ドラゴンの懐に忍び込み、ゼロ距離で魔法を直撃させてドラゴンを吹き飛ばす。
「ガアアアアアアアアアァァァ!!!」
「ユニーク・『ブースト』発動」
カイトのユニーク・『ブースト』は、自分の意思であらゆる魔法を強化する事ができるユニークで、他にも能力が存在するが、今のカイトには使えない。言ってしまえば、実力不足だ。
「今もたいしてダメージになってないな。エイジ、大丈夫?」
「死ぬかと思ったけど、死んでないから大丈夫だ」
カイトにそう答え、エイジは落としていた武器を拾い、ドラゴンに向かって走り出し、ドラゴンに雷刃で斬りかかる。
だが、その攻撃は鱗に弾かれてしまう。
「だったら、これならどうだ!」
魔鎧との戦いのように、エイジは雷刃に魔力を纏わせ、攻撃を弾かれた雷刃を振り下ろし、ドラゴンの右後ろ足にキズをつけた。
そして、カイトがその傷口にゼロ距離で魔法を撃ち込み、僅かながらも、ドラゴンにダメージを与える事が出来た。
しかし、長きにわたる眠りから覚めたドラゴンが、だんだんと本領を発揮し出す。
「ウソだよね!? 感じるドラゴンの魔力が二倍近くまで高まったんだけど!」
「待て待て! まだ上がり続けてんだけど!?」
「これは無理だ、退こう!」
「俺も同じ意見だ!」
エイジはドラゴンに雷を落とし、カイトは炎属性魔法を放ってドラゴンの攻撃を邪魔し、閉じることが出来なくなった入り口から、外につながる階段に向かって全力で走る。
「クソ! また炎ブレスがくるぞ!」
「あ! エイジ、入り口部分の頭上を壊して道を塞ごう!」
「それだ!」
カイトの策に乗ったエイジは、逃げる際に解除した武装魔法を再び発動させ、魔法銃を出して壊れた扉の頭上の天井を破壊し、ドラゴンの攻撃ギリギリで道を塞ぎ、二人共、命は助かった。
テンションが下がっている二人は階段を上りきり、再び瓦礫の山まで戻ってきた。
「ダンジョンに来たことは内緒にしないとな。フィルにバレたら大変だからな」
「何がバレたら大変なんですか、エイジさん?」
「だから、ダンジョンに来たこと……って、フィル!? 何故ここにいるんだよ!?」
「エイジさんが何かを企んでそうだったので」
「うッ!?」
凄まじい威圧感がエイジに向けられ、エイジはカイトに助けを求めようとしたが、カイトは正座をさせられてシルヴィアに説教されていた。
「どこを見てるんですか? 言い訳があるなら私の目を見て言ってください」
「まぁまぁ、そんなに怒んなって」
「怒りますよ! 凄く心配したんですよ!!」
フィルディアは涙を流しながらエイジに怒り、その姿を見たエイジは驚いた。
「何故、俺の事で涙を流す?」
「自分で……考えてください………」
エイジには、フィルディアが泣いている理由が分からなかった。エイジの中では、自分の評価は最低で、自分の事は誰も心配しないものだと思っていたからだ。
だが、フィルディアは心配し、エイジのために涙を流し、その流れる涙を見て、ようやくエイジは間違いに気づく。
エイジにとって、フィルディア達はかけがえのない存在。出会ってからあまりに日はたっていなくとも、エイジにとっては大切な存在。
そして、それはフィルディアもからしても同じ事で、エイジを含め、皆が大切な存在なのだ。
「……すまん、焦り過ぎていた」
「……分かればいいんです………」
そう答えたフィルディアは、涙を拭きながらエイジに背を向けた。そのフィルディアにエイジは言う。
「あとだな……心配してくれてありがとう」
「………はい!」
エイジの中に生まれた新たな感情。
フィルディアがエイジのために流した涙は、エイジに微かながら変化をもたらした。
今回、エイジにとって、自分の間違った考えを見つめ直すいい機会だったのかもしれない。
「………だっせぇな、俺」




