第十三話 矛盾の提案
クエストは無事にクリアし、パーティーメンバー全員で、イニティウムの街で一番の料理店に来ていた。
「本当に頼みやがったよ!? ちょっとは遠慮しろって!」
エイジ達の前には、一皿で数万ガルズもする高級なステーキが並んでいる。
その払いは全てエイジ持ちだ。
「ごめんね、私まで……」
「いやいや、シルヴィアならデザートの注文だって構わないさ。てか、もう注文してある」
「エイジ君……ありがとね!」
その二人の会話を聞いていたパーティーリーダーのフィルディアは、エイジから目を反らして小さな声で呟く。
「何でしょうか、この扱いの差は……」
「どうした?」
「……何でもありません」
「そうか」
「エイジは分かってないねー」
「なんの話だよ?」
「さぁ? なんの話だろう」
自分は理解しているとゆう風に言い、カイトはステーキをナイフで切り、フォークで口に運ぶ。
「まあいいや、今はステーキを味わうとしよう。それじゃ、いただきます」
食事を終えると、午後に受けるクエストを選びにギルドに来ていた。
現在、パーティーメンバーの冒険者レベルはカイトが一番の高く、レベル十六だ。
リーダーであるフィルディアのレベルは八で、シルヴィアがレベル四。そして、エイジのレベルは十二になっていた。
魔鎧種の魔物は、ゲル状のメタルモンスターの様に経験値が多い魔物で、エイジの冒険者レベルを一気に十も上げたのだ。
しかし、上級魔法の解放はレベル二十五まで上げなくてはならず、一番レベルの高いカイトでさえ九もレベルが足りない。
だが、イニティウム付近でベスト五に入る強さのキングアックスオーガを倒しても、カイトのレベルはメタルベアーの経験値を合わせて一しか上がっておらず、グリムリーパーがイニティウムに表れる前に上級魔法を解放するのは難しく、ほぼ不可能だ。
そんな状況の為か、カイトが一つ危険な提案を出す。
「僕に一つ提案がある。壊れたダンジョンの跡地で、レベル制限が無くなった地下エリアがあるらしいんだ」
「でも、元はレベル七十のダンジョンですよね? さすがに危険ですよ」
それは当然の答えだ。
今のエイジ達が行ったとしても、上級魔法や超級魔法が使えず、魔物に殺されるのが目に見えている。
さらに、ダンジョン内でどの魔物が一番経験値を多く獲得できるかも分からない。
「パーティーのリーダーとして、その提案を受ける事は出来ません」
「だよね」
カイトもそれほど本気で言っていた訳ではないため、フィルディアの正しい判断に異論はなかった。
その後も話し合いは続き、戦闘のさいの連携などもフィルディアが話す。
例えば、この世界の魔法には無属性魔法と言うのがあり、誰でも使えるような魔法で、そのほとんどが戦闘補助の魔法の為、攻撃魔法を持たないシルヴィアに戦闘補助を任せるなど。
そこまでは全員が同意見だが、その後の連携については意見が割れた。
「私は四人で連携するべきだと思います!」
「いや、組んだばかりのパーティーが行うぎこちない連携じゃ、個人の良さが失われるだけだ!」
「そうは言いますが、カイトさんは一人で戦って負けてるじゃないですか!」
「次は負けない!! それに、エイジの足を引っ張っただけのフィルディアさんには言われたくないね!!」
「二人共落ち着いて! ね、喧嘩はよくないよ!」
この様に、意見がまとまらない。
意見がまとまるどころか、パーティーすらまとまりがない。
意見が対立しているフィルディアとカイトはどちらも引かず、だんだんと空気が悪くなる。
「はぁ、しゃーないか。フィルディア、カイト! シルヴィアが落ち着いてって言ってるだろ。それに、他の冒険者や職員の人達の迷惑になってるぞ」
エイジの言葉を聞いた二人は回りを見渡し、驚いたような表情で二人を見る冒険者や職員達に気づく。
「冷静になったか?」
「………はい」
「ごめんよ、シルヴィア。それと……フィルディアさん……言い過ぎたよ、ごめん」
「私も言い過ぎました、すいません……」
二人の言い争いを止めたエイジは、二人をその場に残し、シルヴィアと二人でギルド内の冒険者や職員達に謝りに行き、少ししてからカイトとフィルディアの元に戻ってきた。
「あ、エイジさん……すいま――」
「俺には謝んなくていいよ」
フィルディアがエイジに謝ろうとすると、言い終わる前にエイジがフィルディアの頭にチョップを入れた。
「時間差とはいえ、俺が最初のメンバーなんだ、リーダーのフォローぐらいは任せろよ」
「……はい、ありがとう……ございます」
「でも、結局のところ、僕とフィルディアさんのどちらかの提案は選ばないと」
「どちらも選ばない。でも、どちらも選ぶよ」
「「「 ? 」」」
エイジの発言を聞いた三人は首を傾げる。それも当然だ、エイジの言っている事は矛盾しており、意味が分からない。
矛盾した発言をしたエイジが話を続ける。
「二人が言っている事は正しいよ。四人のぎこちない連携では勝てない。連携無しでは勝てない」
「どうするの?」
「簡単な話だ、二人組で連携すればいい。今のパーティーだと、二人の方が連携を取りやすいだろうし、個人の良さは十分に生かせる」
「なるほど、確かにそうかもしれません」
「僕は異論ないよ」
「私もだよ!」
「決まりだな」
エイジが出した提供について詳しく説明すると、パーティーメンバーからの異論は出てこなかった。
現状の最善策とも言えることを全員が理解したのだ。
「組み合わせはどうしますか?」
「まぁ、属性相性から考えると、組むのは俺とカイト、フィルディアとシルヴィアだろ。なんか、まどろっこしいな」
「似たような名前ですからね。……では、私の事はフィルって読んでください」
「リーダーじゃダメか?」
「ダメです!」
「はぁ……分かったよ、フィルディア」
「分かってないじゃないですか!」
「うぅ」
フィルと言う事に恥ずかしさから抵抗があるエイジは、何とか誤魔化そうとするが、このままでは、さっきの様にギルド内にいる人達に迷惑をかけてしまう為、エイジは腹をくくる。
「じゃあ………フィル」
「はい!」
(ダメだ、死ぬほど恥ずかしい!?)
「はいはい、二人の世界に入らないで!」
「入ってないから! てか、話に割って入るならもう少し早く入ってくれよ」
「それは面白味がない」
「俺で遊ばないでくれよ……」
そう言った後にため息を吐き、エイジは脱線した話を元のレールに戻そうとしたとき、
「お前達が魔鎧を倒した冒険者パーティーだな」
イニティウムの治安を守る兵士が二人、エイジ達に話しかけてきた。
「そうですが、何か用でしょうか?」
「そうだ。イニティウムの領主であるガラム様がお会いしたいと言われている。俺達についてこい」
言い方にイラっとしたエイジだが、領主、つまりは貴族が関わっている為、兵士に従う事にした。
この時より、イニティウムは悲劇の運命に向かって進みだした。
最悪の運命へ――




